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84 奥州二階堂

楽しんで頂ければ幸いです。

1582年7月 羽柴氏 ~京:某所~



「小一郎、此度の輝行殿の申し出をどう見る?」

奥州の一大名でありながら蘆名や伊達といった格上の大名の間を取り持ち陸奥に繁栄をもたらしている二階堂輝行殿は信長様からもその才を認められており、出来ることならば配下に加えたかったとも聞いている。

武田との合戦では大量の硝石を織田へ提供し、その勝利に貢献したことも知られている人物だ。


「二階堂が光秀殿との戦の前に集めておいた兵糧を譲ってくれたことには感謝しておりますし、裏方の出来る者を出してくれる事が助かるのも事実です。しかし、この時期に輝行殿本人が申し出た事に驚きました」

「そうよな、こちらの情報が届くことすらかなりの時間が掛かる奥州から本人が来るとは簡単ではない」

「はい。京周辺にかなりの情報網を張っている上、遠地に居てもその情報をやりとり出来る手段を持つと言う事です」

「伊賀や甲賀の忍びを召抱えているという話も聞かんが、それなりの伝があると言うことじゃな。そして、移動が不安定な東廻りの海路でこれほど早く京へ来た事も驚きじゃ」


「それ程早く羽柴との縁を繋いでおきたかったのでしょう。光秀殿を討ち、三法師様を信長様の後継とした兄者の力を重く見ていると言う事です」

「だから越後の件も請け負ったと言う事じゃな」


「正に。これまで景勝殿へ対抗する影虎殿を援助していたのですから、これを止める事は容易くは無いはず。それを瞬時に判断して受けたのですから、輝行殿の頭の中にはその事も織り込み済みだったのでしょう」

「勝家の家臣には精鋭の者も多い。少しでもあちらに張り付かせてこちらに有利な状況を作らねばならん」


「輝行殿はそこまで見越してこの話を請け負ったはず。遠方でなければ上杉や佐竹を蹴散らしたと聞く二階堂の精兵を借りたかったのですがね」

「まあそこまでは望みすぎると言うものじゃ。二階堂殿がこちらに付けば奥州が背く心配は無い」

「輝行殿は信長様同様、兄者を見込んでおります。二階堂の者を雇う件も、私と佐吉の下に置けば目も届きますし、上手く使うことが出来ましょう」

「そうか。それにしても輝行殿は陸奥から京へ来るのが早いと感じたがどうじゃ?」


「越後から越中へ向かう北廻りの海路と違い、陸奥から関東を経由する東廻りの海路は不安定です。事故も多く二階堂殿も近隣大名と合同で船を用意し、事故の際の損を分担していると伺っていますから不思議に思っておりました」

「それについては一つ情報があります」

「なんじゃ佐吉?」

「二階堂殿は船の構造に南蛮の技を取り入れているとの話です」


「南蛮とな?」

「はい。元々二階堂殿らは絹織物などの産物を南蛮の商人へ売り、硝石などの産物を代わりに得ていたと聞いております」

「うむ、それが武田との戦で提供されたと聞いておる」

「更に二階堂殿は繋がりのある岩城殿に港の改修を求め、南蛮の船が直接訪れる事が出来るようにしているとの話でございます」


「なんじゃと?それほどまで南蛮との交易を進めておったのか・・・。それで南蛮の技を得たと言うことか」

「はい。船の改修を助けるうちに、同じものが造れないか船大工が考え、二階堂殿らが金を出したものかと」

「和船は風を後から受けなければ進めんが、南蛮の船は風に向かって進むことが出来ると聞いた。その技術があれば東廻りをこれまでよりも早く安全に進めると言う事じゃな?」

「その通りでございます」


やはり輝行殿は普通の大名ではないようだのう。

「それに兄者。二階堂殿の居城のある須賀川は、古の奥州藤原氏に並ぶとの噂もあるほどですぞ」

「それ程の繁栄なのか!?」

「まあ、それは誇張としてもかなりの繁栄だと言う事は間違いないでしょうな。奥州は元より越後や関東の商人も集まり、南蛮の商人達まで訪れるのですから」

「堺や博多まで行かなくとも南蛮と交易が出来るとなれば商人も集まろうな」


「輝行殿は珍しい物を集めるのがお好きで、南蛮の作物や牛、馬などの動物も運ばせて飼育しているらしいのです。そのため南蛮の料理を出す店が須賀川にはあると聞きまする」

「あれじゃろう?牛の乳を飲んだり、肉を食うのじゃろう?以前信長様から南蛮人が主食にしておる物を頂いて食べたが、ぼそぼそして食べにくかったのう」

「あれは麦を素に作るらしいですから水利が悪い二階堂殿の領地には合っているのかもしれませんな」

「米があまり採れんとは二階堂にも困り事があるのじゃな。だからこそ商いに重点を置いているのかもしれんな」


勝家との戦に向けて準備を進めるつもりだが、輝行殿とて恐らく手持ちの硝石は多くないだろうからそちらの援助は期待出来まい。

景虎を抑えてくれるだけでもありがたいと思わねば。

戦うとなれば勝家は手ごわい相手だが、それでもこちらになびく織田家臣の領主は多いはずじゃ。

信長様と信忠様が亡くなり織田の名前だけで皆が従う時代は終わった。


ここは利と力で持って相手を説かねば支持を得られぬ。

従うのが当たり前だと思おておる勝家や信孝様に付く者は多くない。

輝行殿の様に織田以外の者とも結んで置く必要もあるの。

こうなれば走り切るしかなかろう。

信長様の御意思を正しく継げるのはワシしかおらんだろうからな。

楽しんで頂ければ幸いです。

(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。

   史実や現実と大きく異なる設定がありますのでご了承ください。

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