81 東国支配
楽しんで頂ければ幸いです。
1580年 織田氏 ~安土城~
「よう参った信忠」
「父上、ご健勝で何よりでございます。して、此度の要件はどの様な事でございましょう?」
「うむ、北条より使者が来て織田への従属を申し出てきた」
「それは喜ばしい事でございますな。織田の支配も東国まで広がりましたか」
「そうじゃ。これで天下布武も見えてきたぞ」
春には織田が帝の勅命で石山本願寺と和睦したが、毛利からの補給を九鬼の鉄甲船をはじめとする水軍でとめる事に成功していたため織田にかなり有利な条件であった。
また、毛利に対しては宇喜田がこちらに付いたために攻め易くなったのも大きい。
多少時間は掛かるが猿にまかせておけば毛利を追い詰める事が出来るだろう。
西国の支配ならここ数年内に可能だろうと思っておる。
「東国では武田、上杉、北条らが支配の障害と考えておりましたが北条を押さえれば先が見えますな」
「ああそうじゃ、これで本格的に武田を潰す事が出来る」
「武田からは従属の申し出もあったそうですが、それを全て無視しているとか?」
「散々苦しめられた武田を残すなど考えられんわ」
「今でしたら上杉も家督相続で割れた影響が残っておりますから武田を支援する事も出来ない。北条がこちらに付けば背後を気にする事無く攻められますな」
「伊達や蘆名が上手くやってくれたわ。北条だけでは上杉の分裂もすぐに収まったであろう。それに此度は裏で二階堂が動いたと聞いておる」
「輝行様でございましょうか?」
「恐らくあの御仁であろうよ。事前に揚北衆を離反させた上で影虎を匿って分裂させた様だ」
「本来なれば早々に除かれていた影虎殿がいまだに生存していては景勝殿もやりにくいでしょうな」
「おかげて上杉家臣が一本に纏まらず、周辺への影響力もかなり小さくなった。勝家が越後に攻め入る日も近いじゃろうて」
「そうなりますと、目障りとなるのは佐竹ですか?」
「うむ、輝行殿も佐竹の北進には手をやいているとの事じゃ。ただし、北条も従属したとは言えこのままにしておくつもりは無い」
「ではどの様なおつもりでしょうか?」
「あれ程の大名が背後におっては奥羽への道行きに不安が残る。毛利もそうだが領地は今の半分以下に削る」
「大大名が残れば謀反された場合に危険が大きいでしょうから納得出来ます。北条へ養子に誰か入れますか?」
「それも良いが、北条に武田か上杉を攻める際に兵を出させてその不手際を理由に領地を削っても良い」
「十分に疲弊させた上で叩く。周りを大軍で囲んでやれば逆らう気もうせるやもしれませんな」
「くくくっ、お前が天下を治める時に楽になる様にしておるのだ。ありがたいと思え」
「ははぁ、誠にありがとうございます」
「「はははっ!」」
「まあ、そこまでやれば奥羽の道案内は二階堂がしてくれるそうじゃから楽になるであろう。昨年に伊達の嫡男に正室が嫁した際にそう知らせて来たわ」
「奥羽の玄関口となる白河の関。結城の領地と聞いていますが、実際に佐竹などの北進を阻んでいるのは二階堂の力が大きいとも聞いております」
「二階堂は陸奥において街道を縦横に整備して商いを活発にした。蘆名や伊達などもこれに同調して繁栄しているらしい。そこで戦いを起こすようなことはしないであろう」
「織田が領内で戦をしない事と同じですな」
「その内に二階堂へは係累の娘か重臣の娘を入れるがよかろう。二階堂を押さえておけば奥羽で何かあった際にも対応出来る」
「そうでございますな。私も現当主の盛義殿と友誼を結んでおく事にいたしましょう」
「うむ、味方にしておいて損は無い。評判では息子もやりおるそうじゃからな」
「それに比べて松平は残念でございましたな・・・」
昨年、松平家康殿の嫡男信康殿が廃嫡された。理由は武田との密通や謀反だったと聞く。
信康殿は武勇に優れた若武者であり、織田も徳姫を嫁がせるなど大いに期待していた。
しかし、粗暴な性格が出るらしく徳姫からも不満を便りで聞いていたのだ。
最近では家康殿とも不仲となり、築山殿がそれに同調した事などから最終的に武田の内部工作が発覚したらしい。
このため松平から酒井殿が使者として安土へ参り、徳姫の書簡と共に弁明に来たのだ。
ただし、織田としても松平内部の問題として家康殿へはその処分を「ご随意に」と伝えたはずだった。
その結果が信康殿と築山殿を除く事になるとは家康殿も思い切ったものよ。
武田攻めが控えているこの時期に織田から松平への印象を悪くならない様に思いつめたのかもしれん。
「織田もこれからが天下布武への重要な時期となろう。今後は重臣と言えども戦えない者は要職から外すつもりじゃ。そう心得よ」
「はっ、一層家臣の引き締めに注力いたします」
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。
史実や現実と大きく異なる設定がありますのでご了承ください。
なお、頂いた感想については誠に勝手ながら時間差で読ませて頂いておりますのでご了承ください。