79 思惑
楽しんで頂ければ幸いです。
誠に申し訳ございませんが、投稿がスローペースとなっております。
1578年 二階堂氏 ~須賀川城~
上杉景虎殿が上杉館を脱出した事を確認した俺は盛義や二階堂の重臣である田村顕頼や保土原行藤を呼び今後の対応について情報を共有する事にした。
「父上、景虎殿は無事に栖吉城へ到着したとの知らせが蘆名よりありました」
「ふむ、まずは一安心だな。武田が手を引いた状態では景虎殿に危険が迫る事は避けられなかっただろう」
景勝殿は武田勝頼殿と和睦して対景虎との戦いに集中出来る状況を作り出した。
そのまま上杉館に居れば攻め落とされていただろう。
「しかし輝行様、武田は双方を和平させるつもりだったとの話もありますが?」
盛義の側近である行藤から疑問の声が上がった。
「武田としては上杉が家督相続でもめて動けない状態である事は都合が良いからその様な纏め方をするであろうな。だが景勝殿がそれをそのまま受け入れるとは思えん。武田が引いた途端に景虎方へ攻め込むであろうよ」
戦国の世は協定を結んでも自身の利益の為に簡単にそれを破る事が多いからな。
「北条も佐竹との戦が一段落すれば景虎殿を支援する兵を出せると思うのですが、それを待てなかったのでしょうか?」
「盛義、確かに北条が攻め入れば一時的には景虎方が優勢となるだろう。しかし越後には厳しい冬が来る。北条の兵が越後の冬を越える事は難しいであろうから撤退するしかない。そうなれば景虎殿は籠の鳥同然だ」
小田原城から遥か遠い越後の地まで攻め入るのは兵の疲労や兵糧の補給など多くの困難があり、それに加えて数千の兵が厳しい冬を越える為の準備を行う事は難しいのだ。
「そうなりますと蘆名や伊達、更には揚北衆が越後北部を押さている事は重要となりますな」
「その通りだ顕頼、特に揚北衆がこちらに付いている事が大きい。揚北衆が景勝方であれば越後に入る事すら危うかった。新発田殿や本庄殿は手強いからな」
「父上、確かにおっしゃる通りかと。蘆名と共に揚北衆と戦った際にその強さは十分この身で知りました」
北条と同様に蘆名や伊達も越後で冬を越す事は難しい。
しかし、揚北衆が景虎方へ付いていれば越後北部で景勝方に対抗出来る勢力を維持する事が可能となる。
「だが景虎殿が春日山城を落として景勝殿から家督相続を奪うのは正直難しいだろうな」
「景虎殿を助ける勢力がこれだけあってもですか?」
盛義からすればそう見えるだろう。
「所詮領外の者は冬を越えて戦う事は出来ん。越後の国人領主は領外の勢力に対抗するために景勝殿の下に集まる事も十分考えられる」
「それでは景虎殿はどうなるのです?」
「景勝殿が春日山城を押さえ、謙信殿の印や祐筆もそちらに付いている状態では景勝殿が実質的な謙信殿の後継者とみなされるだろう。景虎殿はそれに対抗する国人の盟主という位置づけとなろう」
「しかし、北条が来年の春から景勝殿を攻める事が出来ればそれを背景に景虎殿が国人の支持を受ける事も可能では?」
「顕頼、確かにそれも絶対に無いとは言わない。しかし、蘆名や伊達からすればこの状態を維持するだけでも良いのだ」
「それはなぜでございましょうか父上?」
「ふむ・・・、お前達は忘れているのではないか?」
盛義には思いつかないか・・・。しかし、顕頼ならば。
「・・・織田が来るからでございますか?」
「うむ、そうじゃ顕頼。越前の柴田殿が上杉の隙を突いて越中を攻めている。それが終われば越後に討ち入る事は確実だろうよ。このまま行けば織田の天下が見えて来る」
「それならば織田が来る前に自領を広げる事が必要ではないのですか?」
「行藤、毛利を見よ。あれほどの大名に対し織田は今秀吉殿のみを当てている。畿内が片付いて信長殿が出れば恐らくあの毛利と言えども滅ぼされるやもしれん」
「大きな大名は織田の天下に邪魔と言う訳ですか・・・」
「そうだ。最終的に毛利が織田に下ったとしても領地は半分以下しか残しては貰えまい。北条とてそれを恐れて戦う前に従属する道を探っておる。武田などは従属したくてもそれを断られているからこの先は滅亡しかないであろう」
「だから蘆名や伊達も無闇に領地を広げないと言う事ですか父上?」
「その通りだ。揚北衆も協力体制にあるだけで占領しているのではない。もちろん景虎殿を中心とする越後北部も同様だ。織田に余計な警戒を抱かせる事は避ける」
「その様子では盛興様や輝宗様もこの事はご存知なのですな?」
「ああ、事前に儂の考えは伝えておる。柴田殿と誼を通じておる輝宗殿はもちろんだが、盛興殿も北条から織田の脅威は聞いていたから話も早かったわ」
「しかし景虎殿には伝えていないと?」
「家督相続争いに夢中で現実は見えておるまい。今はまだ夢を見せておけば良い。まあ、織田に付いて景勝殿を討ち取ってもいいところで越後半国の領主だがな」
「だから我が二階堂も領地を広げないのですか・・・」
「程々が良いのだ盛義。出すぎれば打たれる。織田配下の武将ならば百万石でも領地を持たせて貰えようが、そうでなければ多くても五十万石程度が関の山かもしれんな」
その後も細々した事を打ち合わせて俺達の談合は終わった。
このままであれば五年から十年以内に織田の天下が来るだろう。
それを見越して俺達は方針を立てねばならない。
そして俺だけは別の者が天下を取る可能性も考えて策を練る必要がある事も忘れてはいなかった。
楽しんで頂ければ幸いです。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。
史実や現実と異なる設定ですのでご注意ください。
なお、頂いた感想については誠に勝手ながら時間差で読ませて頂いておりますのでご了承ください。