75 官位
楽しんで頂ければ幸いです。
1576年 二階堂 ~須賀川城~
昨年の春に織田・徳川連合が設楽原で戦国最強と呼ばれた武田と戦い、予定どおりこれを打ち破った。
この戦いで武田は多くの重臣が討たれ多大な損害を出した。
何とか大将の武田勝頼殿が織田・徳川の追撃を逃れたものの、武田の惨敗と言う結果に周辺大名は衝撃を受けた。
軍神上杉謙信ですら決定的な勝利を得られなかった武田に完勝したのだから当たり前だろう。
それに三年前に織田・徳川は三方ヶ原で武田に敗れているのだから。
もしかすると織田・徳川の完勝を本当に信じていたのは信長殿と俺だけかもしれない。
織田勢だって半信半疑だったはずだ。
俺も随風殿から信玄殿の様子を聞いて死亡した可能性が高いと思わなければ勝利を確信出来なかっただろう。
それほど武田信玄の名は恐れられる対象だったのだ。
織田勢は千丁以上と言うこれまでで一番多くの鉄砲を戦場に持ち込み、野戦築城を行って武田に勝った。
この戦いで使われた弾薬には二階堂で作られた硝石も使われた事だろう。
集中的な弾薬の使用は優れた打撃力となるが、恐怖が高まる戦場の特殊な状況によって決められたタイミングよりも早く鉄砲を撃ってしまう事も多い事から、その消費も劇的だった可能性がある。
かなり余裕を持って揃えた弾薬すら底をつく程だったかもしれない。
昨年の初夏に京へ戻った信長殿は正親町天皇から官位を送る打診を受けたがこれを断り、代わりに家臣へ官位を与えるように望んだそうだ。
明智殿は惟任日向守、羽柴殿は筑前守を貰ったそうだが、どちらも西国の領有していないところだ。
朝廷も献上品をはずんで望まれれば分不相応な官位でも与えていた世の中だから、力がある相手から依頼されれば断れないだろうな。
おかげで織田家臣が官位を貰ったおこぼれで二階堂でも俺が『常陸介』を頂く事になった。
しかし、常陸介なんて佐竹が欲しそうな官位を与えるとは信長殿は俺に何をさせたいのだろう・・・。
なお、この事は朝廷との調整をしている明智殿から情報を得ていたため、蘆名と伊達にも『修理大夫』と『左京大夫』を正式に任官して貰えるよう依頼しておいた。
陸奥の勢力バランスを考えての行動だったが、両氏からは大変感謝されたものだ。
ちなみにうちは伊達と蘆名と共にお礼として朝廷へ金品を献上させて頂いた。
その後も織田の勢いは衰えず、越前へ侵攻すると一揆を討伐して本願寺勢を駆逐し、織田の支配下に置くとこのうちで多くの所領を柴田勝家殿へ与えた。
これによって柴田殿が北陸方面の担当者となり、輝宗殿は勝家殿との連携が今後大きく生きる結果となっている。
織田としても上杉が石山本願寺と和睦したため敵対が明らかになっているので、北から上杉を牽制出来る勢力を重視するだろう。
蘆名は武田との縁を切って織田へ接近しており、越後への影響力を高めていくのは確実だ。
二階堂は中央の状況把握に注力して今後の動きを見逃さず、コバンザメの様にしぶとく生き残る事にしよう。
史実のとおり事が運ぶなんて誰も補償してくれないのだから。
読んで頂きありがとうございます。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。
史実や現実と異なる設定ですのでご注意ください。