73 伊達往訪
あけましておめでとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
1574年 二階堂氏 ~米沢城~
「輝宗殿、お久しぶりです。盛義の婚姻以来でございますな」
「輝行殿、遠いところをよく参られた。此度は娘の事も聞かせてくだされ」
ご隠居となった俺は外交の一環として伊達の本拠地である米沢城を訪れている。
俺とまつ姫、さらに盛義と阿南姫の婚姻で姻族となっている二階堂と伊達は同盟者として深く結びついている。
二階堂の領国は伊達の半分程だが陸奥における流通の要衝であり、軍事的な価値も高い事から伊達においても重要視されているのだ。
俺は輝宗殿と阿南姫などの近況を歓談した後、本題に入った。
「輝宗殿、以前お出しした書状の件は考えていただけましたか?」
疱瘡即ち天然痘の件である。
「輝行殿、疑う訳ではないが事は重要な問題だ。正直なところ家臣共々悩んでおる」
「もちろんお悩みなさるのは当然でしょう。某も初めは半信半疑でしたからな」
この世界が俺のいた世界と同じであるなんで誰も証明出来ない。
だから同じ現象が起こるかどうかは実証しなければならなかった。
天然痘の予防接種も時間を掛けて昨年に実証段階にまで持って来る事が出来た。
そして、輝宗殿にはそれをこの目で見て貰うのだ。
「失礼する。輝宗殿、これが疱瘡を予防するための痕です」
「おおう、これが・・・」
俺は左肩を捲り上げて上腕部にある予防接種の痕を輝宗殿へ見せた。
同席していた伊達の重臣達からも驚きの声が上がった。
「これを健康な体に行っておけば疱瘡に罹っても重くなる事はありませぬ。疱瘡は罹れば三分の一が死ぬ病ですが、予防しておけば死者は殆ど出ません。既に盛義をはじめ領内の者達も行っております」
「二階堂ではそこまで・・・」
「体に牛の膿を付けるなど出来ぬと言う者もありましょう。しかし、命に係る事ゆえ上の者が率先して行う事で我が領内ではその声を押し止めました。後は輝宗殿の判断だけかと存ずる」
「・・・急ぎ家臣と合議をいたしましょう。疱瘡を予防で軽く出来るならばやる価値はある」
梵天丸が疱瘡で目を患う事が無くなる様に念を押すとしよう。
「もしも領内の一部で疱瘡に罹っている者があれば早めに対処願いたい。疱瘡は治った様に見えても罹って一年以内ならば瘡蓋から感染する事があると言いますから注意すべきでしょう」
「そんな事が・・・。十分注意しましょう」
梵天丸だけでなく輝宗殿も罹らないとは限らないからな。
「そう言えば輝行殿は織田殿と知遇を得ているそうですな」
「はい。上洛の際に偶然お会いする事があり、書簡なども交わしております」
「先日は朝廷から従三位参議に叙任され、織田殿の活躍は都でも評判とお聞きする。某も知遇を得たいと考えておりますが、書簡と共に何を送るか迷っておるのです」
「そうですな・・・、伊達の産品である絹織物を奥方達に送り、鷹狩りを好まれる信長殿のは鷹を送るのがよろしいでしょう」
「絹織物と鷹ですな。早速準備させましょう。いやいや助かり申した」
「大した事ではございませぬ」
「話は変わるが、輝行殿は織田の家臣の方とは知遇を得ておりますかな?」
むむ、と言う事は伊達も動いているのか?正直に言っておこう。
「畿内に参った折にお会いする事があり、明智殿や羽柴殿とは連絡を取る事がありますな」
「ほう、実は某も柴田殿と知遇を得ております。猛将と恐れられる方ですが書簡では細やかなところも見える方ですな」
「柴田殿は織田殿から越前を与えられておりましたな。近い将来上杉を牽制するためには重要な方となるでしょうな」
「さすがは輝行殿、北条と共に上杉に当たるつもりですが、西からの援護があれば更に心強いですからな」
「そちらは輝宗殿におまかせしましょう。某は畿内で織田の有力武将となっている明智殿や羽柴殿と繋がっておきます。陸奥の平穏は今後も守らねばなりませんからな」
「承知した。上杉は伊達と蘆名が当たりましょう」
俺は家督を譲っても伊達に来たり、佐竹や上杉に対応したりと忙しい。
中央では信長殿が足利義昭様を追放し、浅井・朝倉、三好などを討伐している。
救いは大きな戦乱が東北に飛び火していない事だ。
俺のスローライフはいつ訪れるのだろう?
読んで頂きありがとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。
史実や現実と異なる設定ですのでご注意ください。