71 義重侵攻
ご無沙汰しております。
やっと復活いたしました。
楽しんで頂ければ幸いです。
1572年 二階堂氏 ~白川郡赤館~
「晴綱様、ご無沙汰しております」
「おお、盛義殿。此度は家督相続の儀、お祝い申し上げる」
「ありがとうございます。それにしても佐竹の進軍は早かった様にお見受けします」
「そうじゃ、前回の戦いで寺山館までは挽回したが羽黒山城が抑えられたままだったのが痛い」
前回は佐竹義昭殿が赤舘付近まで攻め寄せたが、蘆名・結城・二階堂・石川の連合軍でなんとか撃退することが出来た。
その際は佐竹が羽黒山城の攻略から始まったために時間があり、十分な陣営で撃退出来たのだ。
しかし、今回は寺山館から攻略が始まった為に余裕が無い。
二階堂はなんとか間に合ったものの、蘆名は救援に向かっている最中であり、兵力に余裕が無い石川は部隊を編成中で戦に間に合うかどうか定かでは無いらしい。
攻めて来た佐竹義重殿の軍勢は約三千、こちらは結城晴綱殿が約八百で、私が率いて来た二階堂の兵が約七百なので佐竹の半分ほどだ。
このため、前回の様な野戦での決着が難しく、結城の兵は赤舘にこもり、二階堂の兵はその周辺に展開している。
蘆名の二千と二階堂の増援三百が間に合えばいいのだが、佐竹が目前まで迫っている現状では無理だろう。
現状では晴綱殿に赤舘に籠城して頂いて救援を待つのが一番だが、それほど防御力の高くない赤舘が佐竹の猛攻を凌げるのか分からない。さて・・・。
「晴綱様、このまま佐竹と戦って勝つのは難しいと存じますが、何か策はございますか?」
「正直に言えば籠城するしかないと思うておる。しかし、赤舘はそれほど大きくないため多くの兵が籠る事もできん。盛義殿には遊軍として佐竹を牽制する役割をお願いしようと思うておった」
「現実的な策かと存じます。しかし、この策で佐竹から赤舘を守る事は難しいでしょう」
「ではどうする。盛義殿、何か策があるのか?!」
「賭けに近い策ですが聞いていただけますか?」
1572年 佐竹氏 ~赤館南部~
赤舘がある丘陵が視界に入って来る。近くには兵もいる様だ。
父である義昭は佐竹の兵を率いて、今俺がいるところまで前回も攻め寄せた。
しかし、蘆名や結城を中心とした連合軍の前に敗れ去り、無念の撤退を選んだのだ。
その後、病がちであった父は若くして隠居して幼かった俺が家督を継ぐこととなった。
数年後に父が亡くなり俺が実質的に佐竹を継ぐ事となったが、周囲は父の死を悼むばかりで俺に対する信頼は低いものだった。
だがそれも小田を攻めて大きく領地を広げ、武茂らを従属させることで変わった。
父が望んでいた常陸国統一の夢が現実のものとなる日も遠い事ではないだろう。
そして近い将来にぶつかる北条との戦いを有利に進めるために更なる領土拡大が必要だ。
それが父も望んでいた陸奥への進出なのだ。
今回は幸いにして蘆名の参戦が遅れているとの知らせが入っている。
救援に駆け付けたのは二階堂の兵のみだ。
事前に準備を重ねたこちらの素早い侵攻が功を奏している。
救援の可能性があった岩城も佐竹寄りの内部勢力に頼んで不参戦に持って行く事が出来た。
前回は同数の軍勢にしてやられたが今度はそうはいかん。
我が佐竹の精鋭で必ず打ち破ってやろう。
赤舘に籠城したとしてもあの程度の砦ならば蘆名が来る前に落としてやる。
その前にはまず二階堂の兵を排除するとするか。
1572年 二階堂氏 ~赤館周辺~
「それでは須田殿、準備を頼みます」
「分かりました。それでは某は失礼いたします」
赤舘に佐竹の軍勢が迫っている。
我ら二階堂の兵は赤舘の南西側に陣地を構えて、赤舘を攻める佐竹を牽制するのだが兵力が違い過ぎてまともに戦うのは現実的ではない。
遠距離からの攻撃などである程度の時は稼げるだろうが、蘆名の救援までは無理だろう。
晴綱様にも策が成功しなかった場合は赤舘から逃げるようお伝えしてある。
南側にある川の手前にも二重に柵を設けて防御力を上げているが耐えても一、二刻が限度だろう。
ここは少しでも佐竹の兵を弱らせて撤退の際の圧力を下げる努力をするのだ。
案の定、佐竹の兵は激しい攻めを赤舘に向かって開始しされた。
そのために邪魔になっている二階堂の陣への攻撃は激しさを増している。
得意の印地や弓の攻めもこちらの守備を学んだのか、置き盾を少しづつ前に前進させて攻め寄せて来る。
佐竹の兵も負傷者は出ているが思うような成果は出ていない。
さすがは義重殿、鬼と呼ばれる武勇だけではなく慎重な攻めを併せ持つようだ。
佐竹の攻撃開始から一刻半がたち一部の柵に佐竹の兵が取りついて引き倒す者が出始めた。
「遠藤殿、撤退の準備を。ゆるりと余裕を持って下がるとしましょう」
「畏まりました。撤退を始めよ!」
「「「はっ!」」」
陸奥の玄関口となっている赤舘西側にある街道へ向けて二階堂の兵が慌てずゆっくりと撤退し始める。
もちろん佐竹の兵がそれをこまねいて見ている事は無い。
一部の兵を赤舘に張り付けて二階堂の兵を追撃する。
それもそのはず、赤舘を落として陸奥へ向かうこの街道を得られれは佐竹の陸奥進出が叶うのだ。
犠牲を出しながらも街道を挟んだ丘陵の半分ほどまで進んだところで指示を出す。
「須田殿へ反撃の知らせを!」
「はっ、陣太鼓を鳴らせ!」
丘陵に陣太鼓の音が鳴り響く。
その瞬間、さらなる轟音が丘陵に響き渡った。
須田殿の率いる鉄砲隊の攻撃が始まったのだ。
異装した撤退で敵を引き込んで要撃する。
この策は父上が以前話されていた策だ。
此度の戦ではこれまで秘匿されてきた鉄砲隊の出陣を父上が認めた。
蘆名が間に合わない戦へ私をそのまま戦場へ送る事が不安だったのだろう。
丘陵に挟まれた街道では鉄砲の音が大きく響き佐竹の兵馬が混乱している。
上から打ち下ろした弾は追撃しか考えていなかった兵を打ち倒した。
また左右両側から斜めに打った弾は街道にひしめく兵を次々と襲うのだ。
これも父から教わった鉄砲の攻撃方法だ。
撤退していた兵から印地や弓の攻撃も加わり佐竹は負傷者を増やしていく。
追撃で佐竹の先陣を務めていた将を討ち取り、多くの兵を負傷させると佐竹の撤退が始まった。
このまま負傷者を増やしては、この後で駆けつける蘆名に蹂躙されるだけでなく、拠点である羽黒山城を守り切れないと判断したのだろう。
義重殿は冷静なお方のようだ。この様な場面で冷静な判断が出来るとはますます侮れない。
「よし、赤舘まで佐竹を押し返せ!」
「「「はっ!!」」」
今回は勝つ事が出来たが次はどうなるか分からないと言うのが正直な気持ちだ。
父上にもお願いして晴綱様に赤舘の拡張を進言するべきだろうな。
読んで頂きありがとうございます。
諸般の事情で投稿することが困難でした。
エタるのだけは嫌でしたので、今後も不定期で投稿したいと思います。
年末年始は少しだけ時間を取れそうです。
感想にも少しづつ返答したいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。