61 贈答
楽しんで頂ければ幸いです。
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改めて皆様へ感謝申し上げます。
1568年晩夏 織田氏 ~岐阜城~
儂は昨年に念願の美濃攻略を果たし、居城を稲葉山へ移すとともに城の名前を岐阜城とした。
ようやく尾張と美濃の二国を支配する事になったが、これは足固めに過ぎない。
足利義昭様が上洛を強く望まれていると聞き、幕閣の明智光秀殿と織田の家臣が連絡を取り、上洛に協力することを伝えた。
すると朝倉の優柔不断にしびれを切らした義昭様は、一乗谷を出て岐阜まで足を運んだのだ。
織田としては畿内で支配地域を広げる絶好の機会である事から、交渉中から上洛の準備を一部始めていたため、秋には出陣出来る見通しだ。
他国ならば米の収穫時期に軍の行動を起こす事は、そのまま米の収穫量の減少に繋がる為二の足を踏む行為だが、織田の兵は銭で養っている者が多いために戦の時期を選ばないのだ。
上洛の障害となる六角や三好を侮るわけではないが、織田と浅井が組めば十分可能だと考えている。
背後も松平と同盟を結び、武田とは嫡男の信忠へ信玄の娘を正室として迎える交渉を進めるなど友好関係を保っているのだ。
そうした中で岐阜に二階堂の使者が来たとの知らせが入った。
義昭様への援助と織田への挨拶のためだと言う。
当主の輝行殿は堺で会ったが、商いで領国を富ませて力を付けており、儂の考え方を理解出来る方だ。
二階堂領の商人も津島の港を幾度となく訪れており、店も構えていると聞いている。
中でも二階堂産の甘味を使った菓子の店が人気で、奥の者達も挨拶代わりに貰った菓子の虜となっているようだ。
儂も奥からたまに貰っておるが、あれは美味い。好物の甜瓜に肩を並べる程だ。
「織田信長様にはお初にお目にかかります。二階堂家臣、保土原有行で御座います。主の輝行様より、美濃攻略についてお祝い申し上げるとの義に御座います」
「よう参った。居城を移したばかりで、この岐阜は未だに街づくりの途中だがゆっくりして行かれよ。輝行殿にお変わりは無いか?」
「はい、陸奥の安寧のためにお働きで御座います。此度はその陸奥の産品を信長様へお納め頂きたく持参いたしました」
「ふむ、事前に目録を貰っていたが、絹織物や布団に石鹸など、奥の者達が喜びそうな高価な品々を頂いた様だ。輝行殿へ感謝申し上げると伝えて欲しい」
「はい、主へ伝えさせて頂きます」
「さて、先ほどの品々に加え、目録に無い物も岐阜へ運んできたと聞いている。兵糧となる米や大量の矢束だ。これは一体どういう意味だ?」
「輝行殿に置かれましては、この先織田に必要な物だとの事で御座いました。某は命を受けて運んで参っただけに御座います」
「その際に輝行殿は何か申してはおらなかったか?」
「はい、織田が義昭様をお迎えしたからには必要になる物だとのお言葉で御座いました」
「くくくっ、あい分かった。輝行殿にはくれぐれもよろしく伝えてくれ」
「はっ」
やはり輝行殿は楽しいお方だ。俺の考えを十分理解してくれている。
義昭様を織田へお迎えした意味を理解し、同時に織田がこの時期に兵を動かす事も想定して米と矢を送ってきたのだ。
さらに僅かだが貴重な硝石もあったと言う事は、織田の軍備についても情報を得ているという事だろう。
領地が近ければ良い同盟者となったものを、誠に惜しい事だ。
聞けば上杉と佐竹を牽制する為に北条や武田とも誼を通じているとの事だ。
北条はともかく、武田がどこまで二階堂の本質を理解しているだろうな。
せいぜい蘆名の下に付いている領主程度の認識であろうが、儂の考えは違うのだ。
二階堂は陸奥の情勢を左右する重要な役割を担っている。
その証拠に先年の飢饉でも二階堂周辺の領地は餓死者を殆ど出さなかったらしい。
二階堂を中心に蕎麦や芋などを積極的に作らせていたためだと言う。
さらに領地が平和なために兵糧米の消費が少ない事が要因の一つになっている。
輝行殿の様に領地を富ませて民を救うのは儂も目指すところだ。
またお会い出来る事を願うとするか・・・。
読んで頂きありがとうございます。
なお、暫定でも評価頂ければ幸いです。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。史実じゃなくて設定ですよ。