06 初陣
楽しんでいただければ幸いです。
1534年 二階堂氏 ~白河結城領~
俺は印地隊を率いて行有らと供に結城領まで行軍してきた。
戦に出る前には二人とも元服を済ませ、将の一人としてこの戦へ参加している。初陣だ。
既に伊達氏の軍勢が岩城氏が率いていた久保姫の嫁入り行列を襲い、無事?久保姫を確保している。
道中も伊達氏や田村氏が小競り合いで岩城氏や結城氏の軍を蹴散らしていたので戦う場面がほとんどなかったが、結城領へ入れば軍を分けて攻め入ることになっている。
とうとう俺たちが作り上げた印地隊の真価が問われることになるのだ。
なお、結城領へ入る前には伊達氏を中心に軍議が開かれ、そこへ父上と供に俺も参加したのだが、やはり伊達稙宗殿からは圧力を感じた。
父にも感じるが稙宗殿はそれ以上だ。これが梟雄と呼ばれる人物の迫力なのかもしれない。
嫡男の晴宗殿は、御曹司という印象で稙宗殿より柔らかい感じだ。
史実どおりなら義兄になる可能性が大きいので仲良くしたい。
出来れば二階堂の周辺状況にも影響が大きい伊達氏の内乱は避けて欲しいから、その抑止力になれればよいのだがモブの俺には無理かもしれん・・・。
とは言え、まずは結城氏との戦だ。
「行有、皆の準備は整っているか」
「はい、いつでも攻め入れます」
少し開けた草原で俺達は同数程度に見える結城氏の軍と対峙している。
俺達が率いている軍は百名程度だが、その内の半分は行有の実家である保土原氏の郎党である。
いきなり新米の部隊のみで戦うなんて無謀なことはしない。
印地隊の力が生きるのはアウトレンジであり、インファイトには向いていないのだ。
将来的には生き残るために部隊編成でこれも解消するつもりだが、今は現実にあるもので凌いでいくしかない。
「よし、風も追い風だ。攻めるぞ」
「印地隊盾構え。前進」
行有の掛け声が掛かると、まず印地隊の兵が置いていた盾を前に構え、中腰のままで少しづつ前進を開始した。
その後ろには通常の弓兵も付随して行動している。
盾を運べない弓兵を印地兵が補っている形だ。
最初は弓の掛け合いから戦いが始まった。
「どうも分が悪いな」
「仕方ありません。こちらは半数が印地兵ですから」
しかし、盾による防御が効いているためか負傷者は思いのほか少ないのは幸いだ。
話によると弓は戦で刀よりも多くの命を奪ったとされているから、矢による負傷には十分注意しなければならないのだ。
結城氏は弓兵の優勢に気を良くして、将を中心に少しずつ徒士を前面に押し出しているようだ。
「頃合いだな。印地隊に合図を出せ」
「印地隊投擲始め」
この合図で一斉に印地隊が投擲を開始した。
始めは攻撃を無視して前進してきた結城氏の徒士も風上から来るスリングで投擲された石を身体に浴びると無事では済まなかった。
とてつもないスピードで落ちてくる石は鎧の上からでも酷い打撲となり、さらに鎧の無い雑兵は石で肉を抉られ戦えない兵が急増した。
隊を率いていた相手の将も少ない盾を構えて印地隊の攻撃に耐えているが動けないようだ。
相手の弓兵を排除した俺達は詰に入った。
「行有、徒士を進めて将を討ち取るぞ」
俺達は保土原の郎党と供に将を取り囲むように兵を進めると、印地隊の攻撃で負傷した結城氏の兵を排除して将を確保した。
「石を使うとは武士の所業とも思えん行い。最後はそちらの将との一騎打ちを望む」
一騎打ちは危険なので本当はやりたくない。
でも、今回はこの戦場に伊達氏の戦目付の様な人がついて来ているので、外聞を考えると戦わないわけにもいかない。
なので、先に十分皆が手足をボコってから戦うことにした。
「卑怯者!」
何か相手の将が叫んでいたようだが気にしない。この状態まで負けるから悪いのだ。
運が悪ければ自分もそうなっていたはずだから。
俺はほとんど動けない状態の将を槍で突き、命を奪った。
嫌な感触だ、吐き気がする。しかし、人の命を奪う戦いを皆に強要するからには、この感覚を忘れてはならないと思う。
現実逃避したくなった俺は、これもパワーレベリングの一種かもなと心の中で思っていた。
読んでいただきありがとうございます。
印地隊の盾についての記載を修正しました。