58 嫁入り
楽しんで頂ければ幸いです。
1566年 二階堂氏 ~須賀川城~
「あい、幸せになるのだぞ」
「あい、盛興殿によくお仕えするのですよ」
「父上様、母上様、これまでありがとうございました。蘆名へ行っても二階堂の娘として立派に勤めを果たします」
可愛い娘を嫁に出すのは本当に辛いものだ。
それにまつの教育が行き届きすぎて、二階堂の事をかなり大事に思ってくれている様だ。
俺としてはあい姫が幸せになる事が最優先なのだが、時代がそれを許さないのだろうな。
こうしてあい姫は二階堂の者達200名程と一緒に会津へ向かった。
立派な花嫁行列になるよう金もかなり使ったから蘆名に入っても侮られる事は無いだろう。
領内だと街道にたくさんの民が並んで花嫁行列を見送てくれた。
行列が通った後で振る舞い酒を配ったからかなり盛り上がったようだ。
酒と言えば蘆名盛興殿だが、輿入れ前に一度須賀川へ挨拶に来てくれた。
行盛に聞いていた通り、立派な若者であり向け答えもしっかりしていて安心した。
もちろん過度の飲酒は慎むよう俺からもよく『お願い』する事も忘れなかった。
かなり真剣な顔でお願いしたからか、盛興殿の顔が少し青ざめていた様な気もするが、気のせいだと思う。
二人には仲良くなってもらってうちの様に子供をたくさん作って欲しい。
理由は不明だが、蘆名には生まれてくる子供が少ないからだ。
先々代の盛舜様も庶子を入れて男2人女1人、先代の盛氏殿も男1人女1人だけなのだ。
盛興殿は盛氏殿が結婚して10年でやっと授かった男子で、彼が居なければまたひと騒動あっただろう。
盛氏殿は側室を作らなかったが、盛興殿は自由にやって欲しい。
万が一嫡子を得られないまま亡くなれば蘆名は混乱するからだ。
あい姫には悪いが、まつもその辺りは言い含めていると言うから戦国の女子は強いものだ。
ちなみに、俺は子供に恵まれたので側室はいないが、潔癖ではないのでお手付きの侍女はいる。
ただし、お家騒動の元になる庶子は居ないので安心だ。
ちなみに、近隣の婚姻関係で心配なのが岩城だ。
伊達から養子に迎えた後継の親隆殿に佐竹から正室を迎えたのだ。
当主の重隆殿が病との噂もあったが、佐竹からのプッシュに負けてしまったのだろうか。
こちらは俺の注意が行き届かなかった様だ。
海からの交易の為にも岩城との関係はこれまで以上に強化する必要があるから懸案だな。
蘆名か二階堂から養女を側室として送り込む事も検討するべきかもしれない。
畿内の動きが活発になれば情報を得るルートとしても重要だ。
先ほども二階堂の商人経由で織田が美濃へ侵攻したとの情報が入った。
秀吉殿が墨俣へ砦を築いて美濃侵攻の足掛かりを得たらしい。
ここから戦国時代の激動期となるのだろうか。
情報を集めて今後の二階堂の行動を決めなければならない。
各地に放っている『影』からは少しずつ情報が集まっている。
二階堂の諜報組織である影は非戦闘組織であり、その形態は忍者で有名あの服部一族を模している。
二階堂は甘味の生産が盛んであり、これを広めるため各地に和菓子の店を構えている。
これが諜報組織となって情報を収集して二階堂へ送っているのだ。
この時代の菓子は高級品であるため、一定以上の階級の者との交流が多い事から有益な情報が得られる場合があるのだ。
須賀川の本家『陸奥屋』からのれん分けした店は、その主人が二階堂の縁者となっている。
もちろん現地採用の者もいるが、この者達はこの店が影の組織だとは知らないのだ。
ただし、組織に属する主人や番頭が現地で妻を迎えた場合は別であり、妻や子にだけこの事が伝えられることになっている。
俗に言う『草』となって地域に溶け込んで活動するためだ。
よし、情報収集のためにも美味い菓子を考案してみるか!
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