56 越後侵攻(地図あり)
1564年 蘆名氏 ~越後 津川城~
「金上殿、此度は世話になります」
「盛興様、我等は蘆名の当主を城に迎えられて光栄に思っております。どうぞ我が家と思い過ごしてくだされ」
俺は父盛氏から3年前に若くして蘆名の家督を相続した。
依然として実権は未だに父が持っているが、佐竹との戦で評価されたのか越後への侵攻は俺が主将として任される事となった。
もちろん副将として、蘆名の重臣である金上殿や猪苗代殿が付いているため兵の運用に不安はそれ程無い。
特に金上氏は祖母の実家であり、蘆名から養子が入る事もある親密な一族だから安心感があるのだ。
それに此度の戦は、無理に占領地を維持しなくても良いと父が言っていた。
何でも二階堂輝行様との話し合いで、上杉領を占領出来ても冬に入る前には犠牲を少なくしながら撤退するつもりなのだ。
父に言わせると此度の戦は、後の本格的な越後侵攻のために行う撒き餌なのだそうだ。
有力な国人領主を離反させて上杉を混乱させた後に、独立した領主と連携して占領地を維持する考えだと言う。
それにしても、こちらの陣営に引き込みたい領主に手柄を立てさせ、上杉の恩賞が十分行われない状況を作り出すという策なのだがそう上手く行くのだろうか?
相手が上杉でも有数の猛将なので、手柄を上げられない状況は考え難いらしいのだが・・・。
「盛興殿、お疲れ様です。僅かな兵を率いて参りましたがお力添えさせて頂きます」
「これは行盛殿、ご助力感謝します。二階堂の印地兵が傍に控えていると安心ですから」
「我が兵へのお褒めのお言葉感謝いたします」
こう言って二階堂行盛殿が微笑みながら頭を下げた。
行盛殿とは結城領へ攻め込んだ佐竹との戦で共に戦った仲だ。
その将器は既に証明されており、先の戦でも見事な指揮で佐竹の左翼を崩壊させたと父上から伺っている。
行盛殿とはその後も父上達に倣いお互いに書簡を交わして親交を深めていた。
歳も近く、お互いの母が伊達稙宗様の娘である共通点もあり男の兄弟がいない俺は行盛殿を兄の様に感じているのだ。
「行盛殿に守って頂ければ私も存分に指揮出来ると言うものです」
「お任せください。盛興殿には指一本とも触れさせません」
行盛殿の頼もしい言葉に俺は信頼を寄せている。
それは二階堂に守備に特化した印地兵が居るからだ。
当初の印地兵は大きな置き盾を背に担いで移動し、盾の陰から遠方を投石をする兵であったが、その強固な盾が名を高め始めると相手の攻撃から見方を守る兵としての戦働きを見せた。
佐竹との戦でも石川の兵が左翼で相手の攻撃を耐えられたのは、盾を構えた印地隊が一部に組み込まれていたからだと言う。
このため上杉勢に大きく攻め込まれても逃げる時間程度なら二階堂の兵が作ってくれるはずなのだ。
戦況を読む事に長けた行盛殿が居ればさらに安心感も高まる。
二階堂輝行様はこの戦に兵を出す事に消極的であったが、父氏盛の依頼もあり最後は嫡男の行盛殿を送り出してくれた。
この信頼に答えて俺もこの戦で結果を出すのだ。
ただし、無理をして兵を損なう事が一番良くない事だとはわきまえているので無理攻めはしない。
ゆるりと上杉勢をおびき出す様に攻め寄せるのだ。
津川城で準備を整えた俺は蘆名を中心とした軍を率いて上杉領へと侵攻させた。
目標となった安田城は上杉謙信殿に与する国人領主であるため、恐らく救援も即座に行われるはずだ。
俺は兵をいくつかに分け、安田城を囲みながら周辺の城からの救援を牽制する事にした。
小さな館などのいくつかは敵の拠点とされない様に攻め落として兵の士気を上げる。
しかし、これもそう長くは続かなかった。
南からは謙信殿、北からは新発田氏を中心とする兵が迫ってきたのだ。
このため南からの救援には二階堂の兵も入れて時間を掛けて後退し、北から来る新発田勢が安田城を救援して救った形に上手く持ち込んだ。
行盛殿によれば謙信殿が率いる兵は精強で、正面からは戦わずに罠を仕掛けたり、夜襲を仕掛けるふりをするなどで一気に攻め寄せる間を外したらしい。
読んで頂きありがとうございます。
蘆名が越後へ侵攻しましたがあくまでも牽制なので大きな戦闘にはなりませんでした。
謙信率いる兵は精強なので、二階堂の兵もゲリラ戦を行いながらの遅滞戦術を取ったのでしょうね。
まあ、この辺は設定なので多めに見て頂ければありがたいです(^^;)
なお、本日11月11日に須賀川市で「松明あかし」というお祭りがあります。
これは、須賀川城の落城で亡くなった人々の霊を慰めるために始まった火祭りで、昔は、旧暦の十月十日に行なわれていましたが今では、十一月の第二土曜日に、須賀川二階堂家の戦死者のみならず、伊達家の戦死者を含めての鎮魂の想いと、先人への感謝の気持ちを込め五老山で行なわれています。(須賀川市ウェブサイトより抜粋)
ちなみに松明の大きさは、最大で高さ10メートル、直径2メートル、重量は3トンもの大きさになります。
実際に見るとなかなかの迫力ですよ!