50 布団談義
楽しんで頂ければ幸いです。
50話という節目なのに本編とは関係無いです。
それもタイトル詐欺っぽい気も・・・
1562年 織田氏 ~清洲城~
ようやく松平元康殿との会見がこの清洲城で行われる事になった。
織田と松平は父の代から宿敵として争ってきた間柄だ。
だから家臣達も親類縁者が殺し、殺されているから憎しみも当然ある。
しかし、これから両家が発展するためには後顧の憂いを絶つ為にも同盟が必要だった。
織田は斎藤義龍が死んだ隙を突いて美濃へ攻め入った。
斎藤の家督を相続した龍興はまだ若く将器も見せていないので家臣からの信頼も低いはずだと思ったからだ。
実際に当たってみても斎藤勢の結束は弱いと感じた。
それが覆されたのは重臣の竹中重治が企てた策が原因だ。
竹中は織田の兵を斎藤領内に撤退を装って引きずり込むと、幾重にも伏兵を置いて織田の兵を削っていった。
未だに大きな兵力を動員出来ない織田としては沢山の兵を損耗することは避けなければならなかった。
その為に儂は美濃からの撤退を決断するしかなかったのだ。
竹中さえ居なければ美濃を一飲みにしてやったのに残念としか言いようがない。
このため織田は今後も斎藤に対して兵を張り付ける必要があることから松平との同盟は大きな意味がある。
これは松平も同様で、桶狭間の戦の後で今川から独立した松平にとっては、領地を守るため少ない兵を今川に向けておきたいのだ。
既に松平家臣の水野とは話が済んでおり、ここを通じて水面下で元康殿との同盟を模索していた。
一部で小競り合いもあったが、同盟に関して互いの内部での調整がついたため元康殿がこちらを訪問する運びとなったのだ。
元康殿は不幸な仕打ちではあったが幼い頃に織田に捕らわれていた事があった。
その節はお互い子供同士であったから確かな記憶は無いが、熱田に他家の子息が滞在しているとの話を聞いて覗きに行った記憶がある。
不自由な生活をしていたとは聞いていないが、元康殿はどの様な気持ちでいるのか。
気持ちの整理が付いていなければ同盟を結ぶ事は難しいだろうが、松平のこれからを考えずにその事を引きずる様な人物ならば同盟を結ぶに値しないと儂は考えているのだ。
「お初にお目にかかる。松平元康で御座る」
「よう参って頂いた。織田信長で御座る」
ふむ、堂々とした立ち振る舞いじゃ。織田に対して含むところは無い様に見えるが。
「元康殿、我らは父の代に争った間柄だ。しかし、両者が争う事に益は無い。それを分かって頂き感謝する」
「信長殿、我らはついこの間まで今川の家臣であった。儂も今川ではそれなりの待遇を受けこのままでも良いのではないかと思っておった」
「だが、元康殿は立った」
「そう、松平の家臣はそれを良しとしなかったのだ。儂が領主として三河へ帰るのを待っていてくれた。だからこそその三河を、松平を守るためには織田との同盟も受け入れる覚悟が出来たのです」
「良い家臣達ですな。話を聞いてより同盟を結ぶ事が必要だと感じ入った。よろしくお願い申す」
「こちらこそよろしくお願い申します」
こうして我等は同盟を結ぶ事に同意した。細かい事は家臣共に任せれば良い。
儂は元康殿をもてなす酒宴を開き歓談する事にした。
領地の話をしていると、織田は熱田の様な交易の拠点を取り込めて羨ましいと元康殿が言った。
岡崎の近くにも桑名があるものの熱田より独立色が強く叙し切れないと言う。
「元康殿は力で商人共を支配しようとしている様に感じるが、それには圧倒的な力が必要であるから松平には難しいであろうな」
「信長殿はどうしているのですか?」
「商人共は利が無ければ動かんでしょうな。従う事で今は多少損をしたとしても将来に利が出るとなれば協力するものだ」
「うむ、それでは我々が利となる物を与えなければならぬのですな。家臣達と良く談合いたそう」
「それはそうと元康殿は陸奥の二階堂殿をご存知か?」
「二階堂殿ですか?何処かで聞いた事がある様な・・・」
「都では『布団大名』とも呼ばれている御仁じゃ。朝廷に羽根布団を献上して官位を得たと噂になったそうじゃ」
「その方は織田殿とご関係が?」
「二階堂殿は陸奥では一体の領主と同盟を結んで交易を活発にして領地を富ませているそうじゃ。折しも儂は桶狭間の戦の前年に堺で二階堂殿にお逢いした。そこで今川の動きを知り儂に忠告してくれたのじゃ」
「なぜ陸奥の二階堂殿が今川の動きが分かったのです?」
「その情報源は恐らく商人共であろう。奴らは物の動きに敏感じゃ。そして二階堂殿はその情報をいち早く集める伝手があると言う事よ」
「布団大名と呼ばれる割にはなかなか一筋縄ではいかない御仁ですな。はっ、思い出しましたぞ」
「元康殿、何を思い出したのじゃ」
「陸奥の岩城殿の家臣が今川の領地で綿の木を探しておったのです。綿を大陸から買うのではなく日の本で栽培したいからと。三河周辺では少しながら綿の栽培をしている者がおり、ここから綿の木を買っていました。一部の者は移住したとも聞きました。そしてこれは二階堂殿の肝いりだと言う話があったのです」
「ほう、二階堂殿か。今度は綿で布団を作るつもりかのう」
「ええ、そんな事を家臣が話していたのを思い出しました。さすがは布団大名ですな」
「都の公家共がまた夢中になりますぞ」
「「ははははっ」」
読んで頂きありがとうございます。
清洲同盟での一コマでした。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。史実じゃなくて設定ですよ。