48 佐竹の北進2
楽しんでいただければ幸いです。
がんばれ行盛くん!
1560年夏 二階堂氏 ~白川郡赤館周辺~
「行有殿、やはり寺山館は持ちませんでしたね」
「行盛様、佐竹の猛攻を受けてはやむを得ない事かと」
私は行有殿と顕頼殿を副将に二階堂の兵を率いて白川郡の赤舘へやって来ました。
赤舘自体は山城なのですが、その眼下には開けた土地が広がっています。
そしてその奥には佐竹氏の軍勢が横に陣を敷いている状況です。
味方の陣はと言うと、中央に蘆名盛氏様、右翼に結城晴綱様、左翼に石川晴光様と田村顕頼殿という陣営です。
残念ながら私は初陣だからが後詰に配置されています。
さすがにこの状況で先陣を望むのはおこがましいですね。
経験豊富な将が十分揃っているのだから、それを差し置いて出る理由がありません。
「それで山へ放った者達からの知らせはどうなっているのですか?」
「はい、今のところ迂回して攻め寄せる兵はいない様です。引き続き手の者を配置します」
「ご苦労でした」
今のところ佐竹氏に伏兵は見当たらない様ですね。
まともに当たっても勝てると思っているのでしょうか。
恐らく父上や私には選択出来ないやり方です。
父上はいろいろな事を知った上で戦に臨むよう私に教えてくれました。
正面から当たるだけでなく、選択肢を増やしてより有利な状況で当たるのだと。
同時に不利な状況で攻められない様、周りをよく観る事が肝要だとも教えてくれました。
このため二階堂では山岳に詳しい者や身軽な者、他から雇い入れた『忍び』と呼ばれる者を使い情報を得ると同時に、この仕組みを強化・育成した部隊を印地隊に組み込んでいます。
此度の戦でもその者達が山々を駆け回って情報を収集してます。
だからこそ後詰にいても戦場全体の状況が分かりまです。
相手の伏兵が居ないのであれば、こちらが一手仕掛ける事も考えましょう。
「行有殿、左翼はどのような戦になるとお思いですか?」
「佐竹の兵全般に言える事ですが、こちらの陣営の兵よりも戦の経験が豊富です。兵の数はこちらが若干上回るでしょうが、互角か押される展開になる事も想定するべきだと考えます」
「晴光殿はどちらかと言えば守りが得意だと聞いています。一度は相手の攻めを受け止めた上で顕頼殿が押し返す様な展開でしょうか」
「かなりの確率でその様な展開となるでしょう」
「それならば顕頼殿が攻めると同時に側面の山の斜面から伏兵を仕掛けてはどうでしょう?」
「行盛様もその様にお考えですか。私も勝つためには何処かに楔を打つ必要があると考えておりました。攻め上手の顕頼殿を援護すればより効果が高まるでしょう。伏兵が先でも面白い」
「やはり行有殿はお爺様に学んだ兄弟子ですね。貴方が同じ考えを持っているとは心強い。部隊を編成していただけますか?」
「承りました。この策は左翼はもちろん、本陣の盛氏様や右翼の晴綱様にも伝令を出しておきます」
「頼みます」
伝令から約一刻(約2時間)後に両軍の戦いが始まりました。
予想通り寺山館を落として勢いに乗る佐竹勢が若干押す様な状況です。
こちらは守りを重視して被害を少なくする戦い方をしています。
皆、左翼の様子を伺っているのでしょうね。
両陣営は弓を射合わせた後で、長槍の兵達が相手を打ち倒そうとして激しく槍を打ち下ろしています。
これ以上攻め続けられると左翼の石川勢が崩れそうですから、そろそろ頃合いでしょう。
「行有殿合図を」
「はっ、鏑矢を左翼の方角へ射よ!」
すると兵が鏑矢が放たれて甲高い音が響き渡りました。
それから間もなくして山の斜面から二階堂の兵が佐竹の左翼へ攻め入ります。
突撃可能な印地兵が編成されたので、投石からの切り込みが行われました。
伏兵を予想していなかった佐竹の兵はこれに対応出来ず硬直しています。
「顕頼殿が攻め入った様です」
動きの止まった相手右翼へ騎乗した顕頼殿を中心に田村勢の精鋭が攻め入りました。
二階堂の兵は十分に楔となった様で、徐々に相手右翼が田村勢によって押されて行きます。
そして程なくすると攻勢を支えきれなくなった敵右翼が崩れ、一部は敗走を始めました。
「総攻撃が始まりましたね」
佐竹の右翼が崩れ始めると本陣の蘆名氏から総攻撃の陣太鼓が鳴り響きました。
その結果、佐竹の陣は徐々に後退する動きを見せています。
さすがに戦上手の義昭です。
完全に崩れてはくれませんね。
こうして佐竹の兵は撤退し、味方の勝利で戦を終える事が出来ました。
大きな戦果を得る事は出来ませんでしたが、二階堂の名を汚す様な事は無かったでしょう。
突入した味方の兵に被害が出ましたが、おかげで多くの兵の命を救えたのですから堪えるしかないのでしょう。
父上や母上、そしてお爺様方にも無事な姿を見せる事が出来そうです。
読んでいただきありがとうございます。
史実においては赤舘辺りまでこの時期に攻略されている様ですが、連合軍がこれを撃退しました。
でも佐竹は今後も北進を諦めないのでしょうね~
なお、仕事が激ヤバで筆の進まない作者は毎日更新が綱渡り状態です。
11月初めは感想すら見れない状況もあるのでご了承くださいね(^^;)