45 上洛(照行編)
楽しんでいただければ幸いです。
1559年冬 二階堂氏 ~京・斯波家仮御所~
奥州が安定して平和が続いた事からやっと俺も40歳で上洛の機会を得ることが出来た。
須賀川から石川を経由し、御在所峠を越えて岩城の平から船で畿内を目指した。
途中で小田原や清水などにも停泊しながらの長旅は少し疲れたな。
それでも地上の街道をひたすら馬や徒歩で移動するよりはかなり早い。
幕府の官僚化している一族への挨拶や将軍近臣への付け届けを済ませてから将軍への謁見もかなった。
若い頃から苦労をしているせいかキリっとした顔立ちだった。
二階堂は将軍就任の際に六角氏や伊達氏と共に援助したので対応も柔らかい。
感謝の気持ちがあったのか義輝様から「輝」の諱も賜った。
これからは俺も輝行だな。書簡の名前とかは変わらないんだけどね。
読みも同じだから混乱も少ないから好都合だ。
無事に謁見を終えて帰ろうとすると、廊下でこれから謁見に向かう者とすれ違った。
とても鋭い目つきの痩身の武将で20代半ばぐらいだろうか?
街中で会ったら絶対に避けて通るタイプの人物だ。
御所の外にも多くの者がいる気配がするので有力大名なのだろうか?
「あの方はどちらの方でしょう」
「ああ、尾張の織田殿です。御父上の代から幕府への援助を頂いている方ですね」
なっ、あれが織田信長か・・・。
かなり雰囲気がきつい印象だ。
熱田で聞いた話によると尾張一国を掌握してとても勢いがあると聞いている。
近習も来ているなら後に有名になる武将とかも一緒に来ているかもな。
見ても誰か分からないのが残念だ。
そんな事を考えながら俺は御所を後にした。
1559年冬 二階堂氏 ~堺~
今日は楽しみにしていた堺の街の見物だ。
南蛮船も入港しているので珍しい品が売っているかもしれない。
一番のお目当ては唐芋などの農産物だ。
救荒作物になる品種があればぜひ手に入れたいものだ。
そうして家臣数名と堺の街を散策していると、前から剣呑なオーラを放つ一団が歩いてきた。
何かヤバそうな人達なので視線を外して通り過ぎようとすると声を掛けられる。
「失礼だが、御所でお会いしませんでしたかな」
声を発した人物を見ると見たことがある人だった。
えっ、お、織田信長降臨なの。
ヤバそうな一団は織田信長一行だったのだ。
尾張を統一して家臣もオラオラ感を出しているから見た目だけだとチンピラっぽい奴もいる。
御所の時とは違って信長もラフな格好だから分かりにくかった。
信長も南蛮船を見に来たのだろうか?
「これはご挨拶が遅れましたな。陸奥国から参った二階堂輝行でござる。織田信長殿とお見受けしたが」
「やはり二階堂殿でしたか。お噂はかねがね」
う、噂って何よ。俺は織田になんかちょっかい出して無いよ?
「ははは、二階堂の様な小領主をお知りとは珍しい方ですな」
「こちらには熱田からの知らせが良く入るのです。ですから岩城殿と組んで交易を行っている二階堂殿の事も耳に入っておりました」
うちの情報は熱田経由で入っていたのか。
隠している訳ではないから商人には少しづつ名が売れてきたとは聞いていた。
しかし、陸奥国の小領主の情報まで把握しているとはさすがに信長だな。
やはり、目線が経済に向いているせいなのだろう。
「そうですか。今後は奥州の産物を各地で販売するつもりです。ぜひ交易が盛んな熱田にもご協力頂きたいですな」
「ははは、ぜひお願いした。一層熱田の港が賑わう事でしょう」
「そうなれば織田殿も潤いますかな?」
「「ははははっ」」
俺は冷や汗を必死に隠しながら笑う。
ポーカーフェイスの訓練は完璧なのだ。
そうだ。史実どおり信長に生き残ってもらえるように少し情報を流しておこう。
俺は信長に断って近づき耳元で囁いた。
「今川殿に不穏な動きがあります。ご用心を」
その瞬間、信長の目が鋭さを増し、一瞬だけ威圧感が辺りに放たれた。
しかし、それもすぐに収まり、俺に「かたじけない」と言い放つと「勝三郎、参るぞ」と言って家臣達と去って行った。
あー怖かった。本物は違うねやっぱり。
でもあんな上司だったら俺はメンタル的に耐えられないね。
信長の家臣に転生していたら終わりだったろうな。
こうして俺の上洛は幕を閉じたがいろいろ収穫があった。
幕府からは諱を貰った他に『信濃守護』に任じられたし、朝廷にも関係者へ献上しておいたら『従四位上弾正大弼』に任じられた。
堺の街では運よく唐芋の他いろいろ入れる事も出来たからいい旅だった。
奥州が平和を保って、また来れればいいんだがな。
読んでいただきありがとうございます。
将軍よりも信長に出会って浮かれる主人公です。
上洛の収穫は十分あったようですね。
ちなみに、勝三郎は池田恒興の設定です。
なお、史実では1600頃にならないとサツマイモは伝来しません(^^;)
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。設定ですからね。