42 石鹸と船
楽しんでいただければ幸いです。
1553年春 二階堂氏 ~須賀川城~
昨年の秋に収穫したエゴマ油を使って二階堂の特産となった石鹸が冬の間に作られた。
この石鹸を衛生管理のために使用する事を広めるには時間が掛かった。
汚れを落とすだけの効用ならば見て分かるが、目に見えないバイ菌などを落とすと言う概念が無いためだ。
これを解決するために『鬼』と『寺社』に力を借りた。
この時代の人々はバイ菌を知らないが、鬼や物の怪ならば物語として知っており、祈祷の習慣が一般に根付いている。
そのため、手を洗っても目に見えない小さな鬼が付いており、これが食物と一緒に口から身体へ入ると病気になると教えれば納得してくれたのだ。
この鬼を石鹸で退治する訳だが、鬼を退治出来る説得力を得るため寺社の力を借りる事にした。
それは二階堂が作った石鹸を寺社で祈祷して貰い、鬼を退治できる霊験あらたかな物として広めることで人々の信用を得ると言う方法だ。
この取りまとめを二階堂の菩提寺である曹洞宗長禄寺へお願いした。
長禄寺は大きな寺領を持ち、天皇の勅願寺となって栄えている由緒ある寺だ。
ここに領内の寺社との仲介を頼み、祈祷により支払う金の調整をして貰うこととした。
この祈祷料には寺社改革の狙いが含まれている。
寺社は領地を持ち、治めた土地の税を受け取ることで地域に一定の支配力を有しているが、この統治が僧兵の存在を認めさせる一つの理由ともなっている。
寺社の持つ武力、これを解消するため祈祷料として金銭を支払う代わりに寺領を徐々に返還させる方針だ。
地域とトップである長禄寺がこれを主導する事でその効果は高くなるだろう。
寺社は本来の役割を全うして欲しい。
俺が思うに宗教は基本的に人を救うための教えだと考えている。
戦国時代に宗教が盛んになったのは、人の心が多くの戦により荒廃したからではないだろうか。
追い込まれた人間はどこかに救いを求めたがるはずだ。
それをシステムとして拾い上げるものが宗教だったのだろうと思う。
悩みを持った人々の話を聞き、それに対してどうしたら救われるのかを示すことで心の安寧をもたらす。
ある意味カウンセラーとしての一面も持ち合わせていたのだろう。
二階堂領内においては宗教の差別を行うつもりはない。
領民の心を癒すものであれば認めるし、保護するつもりだ。
ただし、争いを持ち込んだ場合は容赦しないがな。
さて、二階堂印の石鹸もたくさん出来たことだし、行有に頼んで岩城氏へ営業に行ってもらおう。
畿内へ売り込むためには岩城氏の協力が必要だからな。
一筋縄では行かない重隆殿をどうやって説得するかが問題だ。
お互いが利益を得る事が出来るやり方を示さなければならないぞ?
1553年初夏 岩城氏 ~平・大館城~
「重隆様、お久しゅうございます」
「行有殿、よう来たの。此度は何を照行殿から仰せつかって来たのじゃ?」
「はい、平から京までの船による輸送を更に発展させる為の方法についてのご提案をお持ちしました」
「ほう、更に発展させる方法とはいい話の様だの。聞かせて見よ」
「はっ、ありがとうございます。まずは、船を増やすために共同で資金を出すと言う方法でございます」
「船は今でも十分あるぞ?」
「現在でも蘆名氏などの荷も増えてきております事から、近い将来に船が不足気味であると考えております」
「具体的にはどうするのじゃ」
「船を増やすため、二階堂の他、蘆名氏、岩城氏が共同で金を出して船を手に入れ、これを運用いたします。その益は、出資した比率で出資者へ支払われることとなります」
「ふむ、交易と違いすぐには利益を収める事は出来んな。それに船は事故の危険がある」
「その為に船の収益から一部を別に保管しておき、事故の際はそこから補填いたします。そうすれば財政にも影響は無いかと存じます。財の保管は岩城氏へお任せせよと言い使っております」
「相変わらず手堅いやり方を考えるもんじゃのう。そして共同の資金の管理を儂らに任せるとは、こちらを信頼するという証じゃ。良いじゃろう、この件は進めると照行殿へ知らせてくれ。これからもお互いに利を出そうとな」
「はっ、必ずお伝えします。照行様も大変お喜びになることでしょう。奥州特産の品々も京辺りの裕福な者達に知れ渡り、販路も拡大しているとの事。今後も一層皆が発展することでしょう」
読んでいただきありがとうございます。
仕事が多忙でストックがありません。自転車操業中!(^^;)