36 天文の乱8(地図あり)
楽しんでいただければ幸いです。
1547年初夏 二階堂氏 ~安達郡本宮~
稙宗方との対決の時が来た。
晴宗方となった二階堂は蘆名氏、石川氏ら約2000の兵が安達郡本宮に陣を張っている。
稙宗方は近隣の二本松畠山氏など約3000の兵が北に展開している。
本宮は畠山氏系の本宮宗頼殿が治めていたが、晴宗方に付いたために畠山義氏殿に本宮城を落とされている。
このため稙宗方は安積郡へ攻め込むために本宮城へ集結していた。
自分の領内で戦いたく無かった俺達は、稙宗方を迎え撃つべく本宮へ進軍してきたのだ。
この一帯は平野部があり多くの兵を展開し易い。
伊達政宗と南奥州連合が戦ったのも瀬戸川を渡ったこのあたりだったような気がする。
一度見に行った古戦場跡は国道から少し入った田んぼの中にあったから正確な場所は分からんが・・・。
「照行殿、それにしても二階堂の兵は凄いですな。たった1日でこのように立派な陣地を作り上げるとは」
「いつも道普請ばかりしておりますから手慣れたものです」
「「ははははっ」」
川の少し手前に盛氏殿から褒められたが、これは野戦築城の技術が向上している印地隊の仕事だ。
馬防柵に近い形状の防御柵を設置し、その手前を掘って簡単な堀と土塁を作った。
今では土槍も隊の中で普及しているので作業効率も大幅に上がっている。
武士なら嫌がるこの様な作業も、農民出身が多い印地隊の兵は得意な仕事だ。
これが自分達の命の安全に繋がると思えば、戦い以上に本気で作業に臨むというものだ。
兵が多い自分達が優位に立っていると思って戦場に来た稙宗方も驚いているだろう。
瀬戸川を渡る橋の周辺に設置したため、これを避けるためには川を無理に渡って来る必要がある。
ただし、そうなれば城の水堀を渡って攻める様なものなのでかなり苦労する。
こちらは遠距離攻撃が得意なので川を隔てた戦いでも有利になるため、橋から攻めて来なくとも問題はないのだ。
太陽が上がり頂点に達した頃、稙宗方が一斉に進軍を開始した。
始めは川を隔てて弓や投石が行われ、こちらが優勢に戦いを進めることが出来た。
稙宗方も二階堂と戦うからか、十分な盾を準備して来ており兵の多さを生かしてジリジリと前進する。
負傷している兵もいるようだが、これを後方に下げて元気な兵を次々に押し出しているようだ。
こちらも石や矢が無限では無いため、手持ちが無くなると柵まで戻って戦うこととなった。
川を渡って勢いの付いた稙宗方の兵は、柵の中を槍で攻撃しようとしたり、柵を引き倒そうと殺到する。
しかし、柵の中からの攻撃は思ってもいないものだった。
稙宗方の持つ槍よりもはるかに長い槍が突き出されたのだ。
史実でも各地で用いられたこの長槍は、突くよりも叩くことの方が威力を発揮するが、柵を隔てた特殊な状況では突くことが有効となった。
このため稙宗方の兵は一方的に被害を被ることになった。
ここで更に追い打ちを掛ける。
「行有、投石だ」
「はっ、印地隊投石開始!」
川を渡ろうとして多くの兵が集まっていたところへ、大きな音がして投石器より石が発射された。
城門を壊す物よりは小さいが、それでもソフトボール大はあろうかという石がいくつも稙宗方の兵を頭上から襲う。
兵から叫び声が上がり、直撃すれば少なくとも大怪我をする威力を目にして、当たらなかった兵にも動揺が広がった。
移動式の投石器が効果を発揮したようだ。
普通の野戦では兵がばらけてここまでの効果は期待できないが、環境を限定することが出来れば威力を発揮することが出来る。
この効果を更に上げるために将を狙って攻撃した。
これが功を奏したのか、負傷して後方へ下がる将が増えたため、郎党も後方へ下がることになり攻撃の圧力が弱まった。
戦国時代の戦は、鉄砲が本格的に登場するまで損耗率が低かったと聞いたことがある。
兵は自分の命が大事なので怪我を負えば逃げるし、死ぬまで戦うのは一部の武士だけだったらしい。
稙宗方の兵は明らかに士気が下がり、腰が引けている。
このタイミングで押すべきだ。
「盛氏殿、お願いいたします」
「承った。者どもかかれっ!」
「「「おおおぅ!」」」
柵に作っておいた扉が開くと、蘆名氏を中心とした騎馬や兵が飛び出して稙宗方の兵に攻め込んだ。
既に逃げることを思い浮かべていた兵は、我先にと逃げ出している。
狙われるのは主に将などの侍であり、農民である雑兵は討ち取っても手柄にならないため、多くは逃げ出す事が可能なのだ。
これも史実と違う展開だけど仕方がない。
本来は二階堂が単独で倍以上の稙宗方の兵と戦って、双方大きな被害を出していたはずだった。
それに比べるとここでの戦いでは晴宗方の死傷者は少ない様だ。
出来るだけ被害が少ない戦いを望んでいる俺としては、今回の結果は十分な結果だろう。
最後の仕上げは主に二階堂以外の者に譲ったがあれでいい。
盛氏殿からも「戦いの最後をお膳立てして頂き申し訳ない」と恐縮されたが問題ない。
ここからの戦いは蘆名氏が中心となるのだから、それを印象付ける事が重要なのだ。
これで領主達は一気に晴宗殿の陣営に傾くだろう。
後は父上が幕府よりいい結果を持ってきてくれるのを待つだけだ。
読んでいただきありがとうございます。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。




