34 天文の乱6(地図あり)
楽しんでいただければ幸いです。
1546年早春 二階堂氏 ~守山城~
俺は二階堂の兵を率いて守山城を攻めている。
前回の攻撃は城を包囲し、暗に田村氏の兵を引き付けるだけで落とすつもりが無かった。
しかし今回の攻撃では必ず守山城を落とすつもりだ。
それは三春城から田村氏の援軍が無いからだ。
実は蘆名氏へ田村氏の三春城攻めを任せている。
これまで何かとうるさい存在であった田村氏だが、蘆名氏と共同で田村氏を攻め滅ぼすか、最低でも臣従させることで合意している。
このため田村郡北部は蘆名氏が、南部は二階堂が領有する予定としており、二階堂が南部の拠点である守山城を攻めているのだ。
守山城は南側と東側が川によって分断され、北側と西側を二重の水堀を巡らせている堅城だ。
主郭、二郭、三郭に加え出丸まで備える守山城は小さいながらも防御が堅い。
投石機で城門を破壊しているが、攻め入るのも簡単ではない。
城主の田村顕頼殿が前回の反省からか兵を十分に城へ入れている様で、少なくとも200以上はいると考えられる。
攻城戦も3日目、十分に正面からの攻撃を意識しているので、そろそろ搦手からの攻めを入れるとするか。
「行有、準備は出来ているか?」
「はい、印地隊へは今夜にも攻撃出来るよう整えさせております」
「今夜は月も隠れる。子の刻(11時頃)に仕掛けるぞ」
「はっ、兵を少しずつ抜きながら夜に備えさせるとしましょう」
こちらは城側の四倍は兵がいるので、当初から交代で城を攻めている。
更にそこから一部の印地兵を抜いて元気な状態で夜間攻撃に備えさせた。
それに比べ守備側の兵は責められ続けて徐々に疲労が溜まってきているはずだ。
二階堂は遠距離攻撃が多いため、攻められるばかりで精神的にも辛いと思う。
夜も更け月が隠れ辺りが暗闇に包まれた頃、川の東側へ静かに移動する兵達がいた。
すると同時刻に西側正面から二階堂の兵20程が火矢を放つ。
そのため、守山城の兵は泥の様に疲れた体を無理やり起こして西側へ集まる。
城が騒がしくなり東側へは守備側の誰も気を回していない隙を利用し、川の向こうにいる作業を進めた。
「そろそろいいだろう」
「はい、合図をします」
本陣から兵が走り、火矢を川の東側へ放つ。
すると、そこから大きな火の玉が守山城の主郭へ放たれた。
火の玉は主郭の建物にぶつかると大きく広がって建物に炎が広がった。
「よし、成功だ!」
この火の玉の正体は焙烙玉だ。
ただし、火薬は作れていないので焼夷弾もどきだ。
陶器の玉の中に油や燃えやすい木くずを入れて、これを筵で包み火を付けて投擲したのだった。
投石も同時に行ったので、破壊された建物の内部にも火が回る。
その結果、城主の顕頼殿が居るはずの建物が燃え上がったため城兵に動揺が走った。
中には消化のため主郭方面へ戻る兵もいたため、正面の防御が疎かになる。
「かかれ!」
「「おおおう!」」
そしてそこへ一気に二階堂の兵が押し寄せて城内へ攻め込んだ。
それから一刻後、城門から三郭を破られ、主郭へ火をかけられた守備側は二郭に立てこもったが力及ばず降伏した。
俺の前には城主の顕頼殿が膝を付いて座っている。
「武運拙く敗れました。照行殿、私の首と引き換えにどうか城兵の命をお助け下さい」
いやいや、俺は首狩り族じゃないから首はいらないよ?
「城兵の命は助けましょう。その代わり首ではなく、私に顕頼殿の命を預けてはくれぬか?」
「命を預けるとは?」
「貴殿の力を見込んで、私の配下となって欲しいのだ」
顕頼殿は困惑しているようだ。自分命が許されるとは思っていなかったらしい。
「どうして私などを配下とするのです?二階堂氏には保土原殿や須田殿など優秀な武将が多くいらっしゃるではないですか」
お前が将来、この地域でも有名な将になるからだなんて言えない。
青田買い出来るような将がこの時代の奥羽にはあまり居ないから確保したいんだよ。
「それが田村氏のためにもなるからだ。今頃は三春城を盛氏殿が攻めているだろう。私の配下となって兄の隆顕殿を蘆名氏へ臣従させるのだ。そうしなければ恐らく田村氏は保てまい」
とりあえず蘆名氏の力も借りて脅してみた。
田村氏は現在、北側以外を晴宗殿の陣営に囲まれており、史実と比べ支配領域も小さいので風前の灯だ。
「・・・分かりました、照行殿、いえ、照行様へ従いましょう」
よし、武将ゲット!いのちだいじに作戦のためには、俺の手足となって働く優秀な武将が必要だからね。
一週間後、顕頼殿が三春城へ使者として入り、兄の隆顕殿を説得して蘆名氏へ臣従させた。
これで田村郡の北部が蘆名氏、南部が二階堂の勢力下に入った。
今後は稙宗様方である北の畠山氏を抑えておく必要があるが、こちらは蘆名氏へ対応を任せる。
そして二階堂はと言うと再び畿内へ使者を出す事となったのだ。
読んでいただきありがとうございます。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。