30 天文の乱2
楽しんでいただければ幸いです。
1542年初夏 蘆名氏 ~黒川城~
「盛氏殿、遅くなりましたが当主就任誠におめでとうございます」
「照行殿、こちらこそ祝いの品をいただきかたじけない」
蘆名氏では昨年盛舜様から盛氏殿へ家督が相続された。
すでに祝いの品は送っていたのだが、当主となった盛氏殿へ声を掛けるのはこれが初めてだ。
盛舜様はまだ50歳を越えたばかりで十分政務を担える歳だが、自分の目が黒いうちに後継者を育てようという考えだろう。
兄の盛滋公が亡くなって家督を継いだ際は、松本大学や猪苗代氏の反乱があって苦労したのでその影響もあるはずだ。
史実であれば、この家督相続直後に猪苗代盛頼殿が反乱を起こしていた。
しかし、俺からの献策もあって盛頼殿は内政に勤しんでおり反乱を起こさなかった。
「それにしても照行殿が予想したとおりになったのう盛氏」
「はい父上、照行殿から聞いていなければ気が動転することでした」
「「はははは」」
同盟を申し入れた時に伊達氏の内部にある不安を伝えていたので蘆名氏としては想定内だったのだろう。
「おかげで家臣達の前でも当主らしく泰然自若としていられ申した」
「あれで盛氏も家臣達から頼もしい当主だと思われたであろうな。これも照行殿のおかげよ」
俺からの事前情報はこんなところでも生きたようだ。
「既に稙宗様や晴宗殿より使者が参っているかと思いますが、蘆名氏はどちらに付くお考えですか?」
「当主として思案しているところでしたが、二階堂氏はどうするのです?」
「娘婿でもありますので稙宗様へ付くこととしました」
「そうですか。ここで同じ娘婿の蘆名が稙宗様へ付けばかなり有利になりますね。我々も稙宗様へ付くことにしましょう。どうでしょう父上」
「うむ、儂としても異存はない」
「ありがとうございます。そこでお頼みしたいのですが、蘆名氏には稙宗様へ付いた後に晴宗殿方の伊達郡伊東領へ攻め入ってもらえませんか」
「ということは二階堂氏も安積郡伊東領へ同時に攻め入ると考えてよろしいですか」
「はい、我々は伊東領南部へ攻め入りますので、蘆名氏には北部へ兵を進めていただきたいのです」
「よろしいのですか?今の二階堂氏ならばこれを機に残る伊東領全域を領有することも可能では」
「正直に申せば可能かもしれません。しかし、二階堂は既に分相応な領地があると思っております。ですから蘆名氏には伊達郡伊東領を得ていただき二本松畠山氏への対応をお願いしたいのです」
「しかし、畠山氏は稙宗様方となるのではないですか?」
「恐らくそうなるでしょう。しかし、二階堂は後に晴宗殿へ付くつもりなのです。その上で蘆名氏には晴宗殿へ付いていただき、畠山領を攻略していただきたいのです」
二階堂が伊達氏と近い領土で対抗するのは規模的にかなり無理があるため、南部の畠山氏は蘆名氏へ任せたいのだ。
「照行殿はそこまで先の事をお考えですか・・・。今のところ形勢不利な晴宗殿へ付けば、その恩賞も大きく見込めるでしょうね」
「ここは二階堂氏に倣い後日晴宗殿へ付いても良いかもしれぬ。そうなれば恐らく伊達氏の従属からも離れることが出来るじゃろう」
「畠山氏への対応も含めて家臣らとも相談しますが、父上、これは蘆名にとっても千載一遇の機会なのでは?」
「そうじゃな、奥州仙道(奥州街道沿いの領地)への進出は蘆名氏の念願であったからの。ここは二階堂氏に乗るべきであろう」
「ありがとうございます。これで二階堂は蘆名氏とともに繁栄出来るでしょう」
こうして蘆名氏との交渉は上手く運ぶことが出来た。
盛舜様からは「照行殿はまことに抜け目のないご人じゃ」と言われたが、生き残るために精一杯やっている結果だけのことだ。
盛氏殿からも「今後もよろしく」と友好的な言葉をいただいたので安心である。
次は石川氏、岩城氏へ使者として行こう。
ただし、その前に須賀川城へ寄ってまつ姫とイチャコラするけどね!
読んでいただきありがとうございます。