29 天文の乱1(地図あり)
楽しんでいただければ幸いです。
天文の乱編は少し長くなりそうです。
1542年春 伊達氏 ~西山城~
「晴宗様、ここはご覚悟くだされ。これ以上家臣どもを抑えるのは限界にございます」
俺は父稙宗に時宗丸を上杉へ送ることを止めさせようと何度も説得したが受け入れられなかった。
さらに時宗丸に多くの精鋭を付けて送ることが家臣に伝わると、内政に携わる重臣たちからも不満の声が大きくなっていった。
広い支配領域をもつ伊達の家臣団が弱体化することを恐れたためだ。
また、中野宗時や桑折景長ら重臣からは父が進めている権力の集中化が、これまでの支配と比べあまりにも極端であることに反発している。
彼らは父とともに『塵芥集』の制定に係わった優秀な官僚達だ。
だからこそ、この法制がもたらす影響が十分に理解できたゆえの反発だったのだろう。
伊達のために俺が決断するしかないのか・・・。
1542年春 二階堂氏 ~須賀川城~
「父上、先ほど晴宗殿からの使者より、稙宗様は病で臥せっており面会出来ない、との連絡がありました」
「そうか・・・。これは照行が申しておった伊達氏の内乱が始まったと見るべきかの」
「その通りかと」
とうとう始まったのか天文の乱が。
すでに稙宗様は晴宗殿に幽閉されたと考えるべきだろう。
なお、史実ではすぐに小梁川殿が稙宗様を救出することになっている。
ただし、二階堂として史実と異なるのは父晴行が現時点で存命なことだ。
須賀川城内を中心とした生活改善策が上手くいったためか、父は健康そのもので病死するような気配は微塵もない。
支配地も広がり領内の安定化を図るためにも父が存命でいることは大きかった。
安積郡で伊東氏の一部を家臣に組み入れる際にも父の格がものを言って上手くまとまった。
史実ではこの時期に父晴行が亡くなっており、混乱状態で家督相続と天文の乱を迎えている。
安積郡を田村氏にみすみす攻め取られるはずだ。
「それにしてもここまで二階堂が大きくなるとは予想せなんだ。初代当主二階堂為氏公以来で最大の領土を支配するとはのう」
「はい、これも父上はもちろんのこと、皆の働きのおかげです」
安積郡の半分を領土として組み込み、為氏公の時代に比べて倍近い領土を持つことになり父も感慨深げだ。
「内政改革も含めてお前の働きは大きい。照行、これを機に家督をお前に譲ろうと考えているのだが、どうじゃ?」
「父上、評価していただき有難いのですが、家督相続の儀は今しばらくお待ちいただけませんか」
「何か理由があるようじゃの」
「はい、今後稙宗様は幽閉から逃れられ、周辺の領主を糾合して晴宗殿に対抗なさるでしょう。もちろん娘婿のいる二階堂にも使者が来るはずです。その際に父上には稙宗様方として陣営に加わっていただきたいのです」
「始めから晴宗殿にお味方しなくても良いのか?最後は晴宗殿が勝つと聞いていた気がするが」
あくまでも予定ではあるが、父には伊達氏の内乱が晴宗殿の勝利で決着することは事前に伝えている。
「安積郡支配の仕上げのためです。伊東氏は晴宗殿へつく予定ですから、これをは稙宗様方として攻めるのです」
田村氏も稙宗様方として動くが、現状ならば阿武隈川が防壁となり簡単に安積郡へ侵攻することは難しくなっている。
恐らく攻められるとしても伊東氏の支配する北部の日和田、喜久田あたりの邑であろう。
「しかし、最後は晴宗殿にお味方するのであろう?」
「そうです。そのために不本意でしょうが、父上には私に隠居させられたという形で私へ家督相続をして欲しいのです」
「なんと!照行が強引に儂を隠居させるのじゃな。それを機に晴宗殿へお味方すると」
「はい、当初は父上の意向で稙宗様へ付いたものの、最終的に晴宗殿と近い私が家督を奪ってお味方することとします」
「儂をだしにするとは面白い。伊達氏も照行にかかっては盤上の駒のひとつじゃのう」
「いえいえ、これはあくまでも上手くいった場合のことですから、今後どうなるかは神のみぞ知るところです」
「わかった。思う存分やってみよ。して、儂はどうすればよいのじゃ?」
「私を蘆名氏、石川氏、岩城氏へ使者としてお出しください。ここで同盟の役割が大きく生きてまいります」
こうして俺は天文の乱を迎え、同盟者達のところへ使者として向かうこととなった。
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暫定的にでも評価いただければ幸いです。