27 仲裁
楽しんでいただければ幸いです。
1540年初秋 二階堂氏 ~須賀川城~
二階堂が伊東氏を攻めて安積郡を攻略したところ、案の定伊達氏が仲裁に入ってきた。
既に二階堂は伊東氏の治める安積郡の約3分の2を攻略しているが、これをどこまで認めさせるのかが勝負だ。
そこで問題となるのが伊東氏が伊達氏の影響下で戦へ従軍していることだった。
これは安積郡を二階堂が領有すれば伊達氏の影響が低下することを意味している。
しかし、ここで交渉に成功しなければ二階堂が領地を大きく広げるチャンスはない。
史実では、天文の乱で稙宗方の田村氏が晴宗方だった伊東氏の安積郡に攻め入って占領し、田村氏の領土を拡大している。
何もしなければ同じ様な結果になる可能性が高いため、このタイミングで二階堂が伊東氏を攻める必要があったのだ。
領土を接する田村氏が史実と同じように支配を拡大するのは、二階堂が生き残るために不都合となる。
「それでは初めに伊東領の民が二階堂領の民へ攻撃を仕掛けたというのですな?」
「そのとおりです小梁川殿」
俺の前で伊達氏から派遣された一門の小梁川殿へ俺の相棒である保土原行有が弁明を行っている。
事の起こりは、よくある村同士の水利権争いだ。
領界を接する村が田へ引く水について争いとなり、これがエスカレートして紛争となった。
もちろんこれは俺が仕掛けさせたもので、伊東領の民はまんまと罠にハマったのだ。
その結果、民の紛争はよくある石合戦となったが、印地を普段から鍛錬している二階堂の民に勝てるはずもなく伊東領の民は劣勢となった。
このため伊東領の一部の者が矢を使ったのだが、ここに運悪く?視察に来ていた二階堂の家臣に矢が当たって亡くなったために争いが大きくなったという設定だ。
戦には表向きにそれなりの大義が必要だからね。
「しかし、伊達としては伊東氏の治めていた安積郡を二階堂氏が攻めとることを認めることは出来ません」
「小梁川殿、二階堂とてそれなりの被害があり、戦に掛かった金子もかなりの額となります。それを何の見返りもなく引き渡すことは出来ません」
想定したとおり両者の話は平行線となったようだ。
それならばここで俺が伊達氏へ仕掛けをするとしよう。
「小梁川殿、稙宗様より信頼の厚い方とお聞きしているあなたに内密の話がある」
「それは何ですかな照行殿」
「稙宗様は塵芥集などの優れた制度により領国の支配をされておりますが、これに一部の家臣が不満を持っていることは小梁川殿もご存知でしょう」
「・・・どこでお聞きになったかは存ぜぬが、お恥ずかしながらその様な者が一部にいることは事実としてそれが何か?」
「不満を持った伊達氏家臣の一部が晴宗殿を担ぎ上げて、家督相続を早く進める談合をしていると聞いております」
「まさか!?そんな話があるとは初耳でございますが・・・、それとこの件がどの様につながるのですかな?」
「伊東氏は晴宗殿に付く者どもだったのです。二階堂はもちろん稙宗様に臣従しておりますので、将来的に敵となりえる伊東氏をそのままには出来ませんでした。そのために安積郡へ攻め入ったのです」
「・・・すぐには判断がつきかねる話です。一度西山城へ持ち帰って稙宗様の判断を仰がねばなりません」
「ぜひそうしていただきたい。稙宗様には、二階堂は必ずお味方するとお伝えください。お力になると」
小梁川殿は史実で天文の乱の発端となった稙宗様幽閉の際に、これを救い出した忠臣だ。
小さな嘘はあるが、調べれば大部分は真実であることからおそらく稙宗様はこの話を信じるだろう。
その時にどれ程二階堂を重く見ているかが今回の件で分かる。
さて、この勝負どうなるだろうか?
後日、伊達氏より裁定が下った。
俺ははったりで安積郡の4分の3は領有したいと吹っ掛けていたが、稙宗様が3分の2、晴宗殿が3分の1と主張し、間を取って2分の1を領有できることになった。
二階堂としてはかなり上出来の結果だと思う。
俺が個人的に晴宗殿と友人関係を築いていることもプラスに働いているかもしれない。
よし、史実の天文の乱まであと少し。準備を怠らないようにしないと。
読んでいただきありがとうございます。
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