21 生活向上
楽しんでいただければ幸いです。
1538年秋 二階堂氏 ~須賀川城~
食料増産計画の一環で救荒作物として蕎麦や麦の増産を開始したが、既に蕎麦切りは完成させて父に食べてもらい高評価を得ている。
次は小麦を製粉していろいろ作りたいが、ここでまつ姫のために開発したものを作るつもりだ。
それは『饅頭』だ。
饅頭は中国で生まれたが、本来は肉まんの様な物のことを言うが、日本へ饅頭を伝えた僧が肉食を禁止していることから小豆を甘葛で煮た物を入れて現在の饅頭の原型となったらしい。
奥州では気候のため甘葛があまり摂れないし、輸入品である砂糖を入手するのが難しいことから、今回は麦芽糖の水あめを作って小豆を煮る。
すでに水あめの仕込みは昨日からしており、糖化液の入った桶に藁のむしろを巻いて保温し、一晩熟成させてある。
俺は殆ど寝ていない状態で料理人の様子を見に行った。
料理人も昨夜からの披露宴で寝ていないはずだ。
「照行様、煮詰めた飴がいい具合いなっています」
「どれどれ」
水あめは煮詰まってよい飴色となっていた。
甘くていい香りが室内に広がっている。
「よし!これで小豆を煮てくれ」
「はい!」
とてもいい返事だ。お互いに寝不足でハイテンションらしい。
小豆を煮るのにも時間をかけるため、料理人達に交代で様子を見る様に伝えると、俺は仮眠するためにその場を離れた。
仮眠から目覚めると日が真上に上っていた。俺はかなり寝過ごしたようだ。
料理人達の様子を見に行くと、そこには睡眠不足と疲労から死屍累々となった者達が床に横たわっていた。
「照行様、出来上がりました」
ただ一人生き残った料理頭が俺に蒸しあがったセイロを指示した。
「よくやった!後はゆっくり休んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
こうして彼も屍の仲間となった。
夜が遅かったためおそらくめまつ姫は朝食を食べていないはずだ。
お昼も軽く済ませたのであれば、八つ刻(午後3時頃)なのでお腹もすいてくるだろう。
俺は侍女に饅頭の乗った膳を持たせてまつ姫の下へ向かった。
先に訪れることを連絡しておいたので、まつ姫とお付きの侍女が俺を出迎えてくれた。
「昨夜は遅かったが、大事無いかまつ姫」
「はい、皆様に良くしていただいきましたので」
「そうか、実はまつ姫と一緒に食べようとこんなものを用意したのだ」
すると後ろの侍女が膳を俺達の間へ運んできた。
「姫に喜んでもらおうと京で食べられている饅頭という菓子を作らせた。一緒に食べよう」
「まあ、これが饅頭」
本来は砂糖饅頭となるのだろうが、甘味が貴重なこの時代ならこれでも高級品となる。
まつ姫は懐紙で包まれた饅頭を手に取ると、少しだけ口に頬張った。
「ん、甘い、美味しい」
どうやら喜んで貰ったようだ。
時折水を口に含みながら、まつ姫は饅頭を食べ切った。
「どうでしたか?」
「はい、とても美味しゅうございました。二階堂ではいつもこのようなものをお召し上がりなのですか?」
「いえいえ、まつ姫がいらっしゃるので特別に作らせたのですよ」
「それは、ありがとうございます。このようなお菓子は伊達でも食べたことはございませんでした」
京土産として菓子はあるだろうが、それは日持ちのする干菓子だろう。
まして砂糖は高級品で薬として取り扱われいると聞くから、伊達氏で砂糖菓子を作ることは少ないのかもしれない。
「喜んでいただいてよかった。残ったものもお食べください。その代わりに悪くならないよう、今日中にです。もちろん、侍女の方々には別にお持ちしますよ」
お、物欲しそうに後ろに控えていた侍女達の顔から喜色満面の笑みがあふれている。
ここでもグッと心を掴んでおく必要がある。甘味は武器になるのだ。
「実はまつ姫に使っていただきたい物があるのです」
俺は侍女がお盆に載せて差し出した、紙で包まれた物を手に取った。
「それは何でしょう?」
「石鹸というものです。汚れを落とすもので、手に付けてこすると泡立ちます」
「石鹸、ですか?」
「石鹸は南蛮から渡ってきた物ですが、我が領でも偶然似たような物を作ることができたのです。須賀川城でも皆に使ってもらうつもりです」
「ありがとうございます。ぜひ使わせていただきます」
実は須賀川城内で手洗いうがいの習慣づけをしようと思ったのだが、手洗いの石鹸が無かった。
そこで石鹸を試作することになったのだが、なかなか上手くいかなかった。
領内の狩りが盛んになったので試しに獣の油で石鹸を作ったのだが、匂いがする上に柔らかくて城内で使うのには向かなかった。(羽毛の洗浄などにはすでに使っている)
そこで岩城氏との伝手で海藻灰を手に入れ、近隣で手に入るエゴマ油へ混ぜることでようやく獣油ほど香りの強くない硬質の石鹸を作ることに成功したのだった。
これで須賀川城内の衛生管理が進み、病にかかる確率が減ることだろう。
食生活の多様化も進めているから、栄養バランスも良くなっているはずだ。
この調子で生活環境を向上させて病死フラグを折り、父上を長生きさせるのだ!
読んでいただきありがとうございます。