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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ニートな俺が異世界に召喚された件について

作者: 三塚章

「よかった、無事に召喚できた」

 オレは、甘い女の子の声で目が覚めた。

 足元に、ピンクの髪を一つに結び、ドレスを来た美少女が大きな杖を持って立っている。

今まで見たこともない子だった。

「初めまして。私はティナともうします」

 甘い声の少女が言う。

 目が覚めたばかりでぼんやりしていた俺は、必死で現在の状況を把握しようとした。

 自室のベッドで眠っていたはずなのに、毛布も枕もなくなって、いつの間にか石の床に横たわっていた。そして体の周りを囲む魔法陣。奥に祭壇がある所を見ると、どこかの神殿のようだった。

「こ、これってもしかして……」

「はい、私は魔法使い。あなたを、あなたの世界からこの世界へお呼びしました」

「キタ! 異世界転生!」

 俺は思わず叫んでいた。

 ラノベやゲームで夢見ていたことがついに現実になるなんて! 死んでいるわけではないから、正確には転生とは違うけど。

「あなたには、魔王を倒してほしいのです」

「やっぱり!」

 ティナちゃんの説明によると、こういう事だった。

 この世界には、神と呼ばれる一族がいる。人間の物よりも永い寿命と、不思議な力を持っているという。

 魔王ルシーはその神一族の長の子供だった。神の長はルシーが生まれたとき、『この世界のいかなる者もルシーを傷つけることはできない』という祝福(ようは魔法のような物)を我が子に授けた。

 しかしルシーは、愛した人間が他の人間に殺された時から性格が歪んでしまい、人間達を滅ぼそうとしているらしい。祝福の撤回はかけた本人しかできず、ルシーの父親はすでに死んでしまったので事実上不可能。

「つまり、この世界に生きる者には魔王ルシーを倒すどころか傷一つ負わせることはできないのです。どうか、手を貸してくれないでしょうか?」

 俺に断るの選択肢はなかった。さえないニートな俺だが、やっと自分のターンが回ってきたのだ。旅の途中で美少女に出会って、ハーレムを作るんだ!

「おおおおお、俺でよければ、よ、喜んで!」

「ありがとうございます!」

 ティナちゃんはにっこり微笑んだ。

 か、かわいい。これからどんなが出てくるかも知れないが、やっぱりティナちゃんが一番になるかも。早くあんな事やこんな事をしてみたい!

「でも、俺は剣なんて使えないよ? 何か苦労しないで強くなれるチートなアイテムなんか……」

 そう言った時、ふいに近くで足音がした。

 青い鎧を着た青年がいつの間にか近付いていた。

「君は……」

 ヒュッ、と空を斬る音がした。右腕の付け根に、氷の糸を巻き付けたような冷たさが走る。重い荷物を置いたような音をたて、腕が落ちる。

 倒れた勢いで、胸を床に打ちつけた。

 いつの間にか青年が抜いていた剣にはべったりと血がついていた。

「もちろん、剣の腕もないあなたに戦ってくれとはいいませんよ。手を貸してくれるだけでいいのです」

 ティナちゃんが切れた腕に杖の先端をかざした。  

 メキメキと音をたて、手が真っすぐに、薄くなって硬直していく。爪が水飴のように伸び、また固まった。俺の腕は肌色の剣になった。

「祝福の外にある、異世界の人間の腕で作ったこの剣ならば、ルシーを斬ることができるでしょう」

 ティナちゃんの声が少しずつ遠くなっていく。視界が隅から暗くなって、血が体を濡らすのが分かる。

「しかし、向こうの世界の住人を連れて来て、勝手に殺すとは少し気がひけるな」

「大丈夫ですよ、勇者様」

 笑みを含んだようなティナちゃんの声だった。

「なるべく、向こうの世界に迷惑をかけない人物を選びました。向こうではいなくなっても誰も困らない人間です。そんな人間でも一つの世界を救えるのですから、きっと本望でしょう。勇者様、どうかご無事で」

 最後の力を振り絞って、俺は頭を持ち上げた。薄れていく意識の中で、ティナちゃんと勇者がキスをしているのが見えた。

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