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1話

 まぶた越しに光を感じ、眼を開けてぼんやりと天井を見つめる。

どうやら窓から西日が差し込んでいて、ちょうどその光が顔に当たっていたらしい。


 「って、ここどこだ? たしかさっきまで何かに追われて、それでいつのまにか草原にいて……」


 だんだんと意識がはっきりしてくるにつれて、ぶるりと悪寒が背筋を伝う。

自分の首がひきちぎれる生々しい感覚を思い出し、おもわずそっと首に手を当てた。


 「……なんともないな」


 あの熊のようなでかい生物に思いっきり頭を吹き飛ばされたはずだけど、今はちゃんと頭と胴体が繋がっている。

 

 「夢だったのか……? それにしてはやけにリアルだったけど」


 納得はいかないけれど、今はそれよりも考えなきゃいけない事がある。

いま自分がどういう状況に置かれているかを。

改めてあたりを見回してみても、今いる場所に全く見当がつかない。


 「誘拐? でも拘束とかされてないしなぁ」


 寝かされていたベッドは綺麗に整えられていて、荒事があったようには思えない。

むしろ客として招かれた時のような扱いだと感じた。

 体にも外傷はないようだし、無理やり誘拐されたとかは考えづらい。


 と、いまだ完全にははっきりしない頭を整理するようにぶつぶつ呟いていると、コツコツという足音がこちらに向かってきていることに気がついた。

はっとして身構えるが、部屋の中に身を隠すような場所はないし、武器になるようなものもない。

このまま通り過ぎてくれと思ったけど、非情なことに足音はこの部屋の前で止まり、続いてガチャリと扉が開く音がした。


 「あ、気がついたみたいね」


 俺は身構えたまま、入ってきた人物をみて言葉に詰まる。

おそらく俺の表情はとても人に見せられないような間抜け面をしているだろう。


 それくらい、目の前の少女は美しかった。


 普段の生活ではまず目にしない、流れるような銀の髪が西日を反射してきらきらと輝く。

整った顔立ちはまるで作り込まれた人形のようで、すらりと伸びた手足は一つの曇りもなく白く透き通っている。


 「そんなに警戒しなくてもいいわよ、別にとって食べたりしないから」


 そう言うと少女は、安心させるようにニコリと笑いかけてきた。

その仕草に思わず心臓がどきりと跳ね上がる。

俺が何も言えずに固まっていると、少女はゆっくりと俺に近づいてきてじろじろと体全体を見回す。


 「怪我はないみたいね。全く、あんな場所で寝てて無事だなんて本当に奇跡よ?」


 一通り確認が終わったのか、よし、と小さく呟いて俺から少し距離を置いた。


 「あ、あの、あなたは?」

 「私はアイリス・リーグベルト。アイリスでいいわ。一応この屋敷の主人よ」


 ようやく絞り出した声に、少女はすぐに反応してくれた。

名前からしてやはり日本人ではないようだ。

それにしはずいぶんと流暢な日本語だけれど、もしかしたら生まれは外国で育ちは日本、という外国人なのかもしれない。


 「俺は相川悠。ユウって呼んでくれ。それでアイリスさん、いくつか聞きたいことがあるんだけど……」


 早速、自分の身に起こってることについてアイリスに聞こうとして、目の前の少女が怪訝な顔でこちらを見ていることに気がついた。


 「えっと、どうかした?」


 何かまずいことでも言ったかと一瞬思考を巡らせるが、普通に自己紹介しただけだ。


 「あなた、私の名前を聞いても何の反応もないのね」


 アイリスが言っているいみがわからず、思わず首を傾げてしまう。


 「もしかして俺が忘れてるだけで知ってる人とか?」


 もしそうなら失礼な事をしてしまったかもしれない。

けれど、こんな美貌の人を忘れるとは思えないし、そもそも外国人の知り合いなんて俺にはいないはずだ。


 「いえ、私も初対面だと思うけど……。あなた、リーグベルト家を知らないの?」

 

 その問いかけに俺は素直に頷く。

もしかして彼女はどこか有名な家のお嬢様とかなんだろうか。

俺が何も言えずにいると、アイリスは少し考えるそぶりを見せてからまぁいいかと呟いた。

 

 「知らないなら知らないで別にいいわ。そっちの方が都合がいいし。それで聞きたい事って何?」

 

 「まず、ここがどこかから聞きたいんだけど」

 

 「ここはリーグベルト本家のお屋敷。場所的には……、そうね、オーリア国の最東端でわかる?」

 

 聞きなれない国の名前に思わず眉をひそめる。

というかここは日本じゃないのか?

それにしてはアイリスが使っている言葉は日本語だし、かといって彼女がデタラメをいっているようには見えない。


 「あなた、もしかしてオーリア国も知らないの?」


 何も言わない俺を見て、アイリスが深くため息をつく。

参ったと言ったばかりに頭をかかえた後、何かを決意したように彼女はがばっと顔を上げた。


 「わかったわ、質問に答える前にあなたが覚えている限りの事を話して。私のよくあたる勘が、あなたから面倒ごとの匂いがすると訴えているから」


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