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7/8

やっぱりそんなに甘くない

ー君が生まれて来てくれてよかったー


その言葉に満面の笑みを浮かべてリディアを見つめたフローリアは口を開く。


「ありがとう。そう言って頂けて嬉しいわ。でも、30点よ。リディア」


儚げな雰囲気で自分に微笑むリディアをそう評価すると再び資料に視線を落とす。まったく容赦のないフローリアの評価に儚げな雰囲気を一瞬にしてかき消したリディアはふうとため息を吐く。


「せめて、50点って言って欲しいよ」


そう言って肩を竦めるリディアは50回目を迎えたプロポーズが失敗に終わっても悪びれもしない。そんなリディアのプロポーズも国益を考えてと分かっているフローリアはニコリと笑う。


「あら、貴方が私の条件を叶えてくれるなら、私はいくらでも喜んで貴方の腕をつかんで教会の階段を駆け昇るわよ」


リディアの求婚をあっさりいなしてみせたフローリアはだってと微笑む。


「リディア、私は海と技術と資金力が欲しいの」


「今、頑張ってるよ。今回の社交界出席も君の欲しいものを手に入れるためだからね」


フローリアの言葉にリディアは分かってるよと肩を竦める。

祖父である宰相の後を必死に追いかけるフローリアこそ、自分の目指すものを手に入れる最大の協力者だと思った。


ーだからー


“君の頭が欲しい。フローリア、結婚しない?”


一回目のプロポーズ(仮)はフローリアの執務室で。一回目は目を瞬かせたフローリアから十点と評価され、条件が一つ加わった。


“私、鉱石を更によりよく加工できるようになりたいの。サラン国の技術が欲しいわ。リディア”


さらりと自分以外の妃を迎えろと要求してくるフローリアに撃沈。フローリア以外の妃も国の発展に必要だと思っていたので条件を飲む。


“フローリア、君しか私のことを分かってくれる人はいないよ。結婚してくれないかい?” 


二回目はそれなりに整った夜景の見えるテラスで雰囲気を大事にした。度重なる経験で培った知識を思う存分注ぎ込んだ。これで落ちない女性はいないと思ったのに………。


“まぁ、嬉しいわ!リディア、私も欲しいものが増えたの!でも、それにはお金がかかるから豊かな領地をお持ちのナミビア国のご令嬢は必要だと思うの”


確かに国の発展にはお金がかかるから資金力が必要だと分かっていたので、ただいまナミビア国のご令嬢を口説くためにことあるごとに国を訪問している。フローリアように“君の資金力が必要だと思っていた”で堕ちる女性が欲しいがそうはいかない。結婚に夢は必要だ。たとえ、そこに打算しかなかったとしても。それ以来、時たまプロポーズをしてフローリアの反応をみながら、心が跳ねる口説き文句を探している。一番高かった点数はちなみに65点だ。


三回目は直球勝負。


“君を国外に出すつもりはないよ。フローリア”


執務室でフローリアを令嬢達に好評な少し高慢な表情で見つめてみた。だが、地図を眺めて呻いていたフローリアが自分の姿を見つめた時に勝ったとほそくえんだリディアの前でフローリアが立ち上がったのだ。腕を捕まれて促された時には少しだけ勝ち誇った気になったが、予想は斜め上を行く。


“リディア、凄いわ!リディアは私の欲しいものが分かったの!私、海が欲しいわ!海が!”


目の前で地図を前にはしゃぐフローリアに何も言えなかった。



どこか悪戯を思いついたような表情をするフローリアを前にリディアは嘆息する。


「私には君を国外に出すつもりもないし、誰かに渡すつもりはない」


「安心して、リディア。行き遅れたり、誰ももらってくれなくてもお兄様が私の面倒をみてくれるわ」


国一の美少女が麗しいドレス姿で“任せて、老後の計画は完璧よ”と胸を叩く姿は彼女に憧れる令嬢達や彼女に淡い幻想を抱く子息達には見せられない。麗しいドレス姿のご令嬢達が彼女を見習ったら、この国は行き遅れの令嬢で溢れかえるかもしれない。それは違った意味で困る。国の発展のためには産んで育ててもらわなくてはいけない。いつでも変わらないフローリアを前にリディアは苦笑する。


「………大丈夫だよ。フローリア」


たとえ、彼女に抱く感情が普通の結婚相手に抱く感情と違っても彼女が自分の最大の理解者であることは変わらない。それに答えようとフローリアが口を開いた瞬間。


ーコンコンー


御者が到着間近の合図に壁をノックしてくる。


「着いたようだね」


「ええ………」


リディアの声にフローリアも頷きながら、抱えていた資料を鍵つきの箱にしまう。リディアも書類を箱にしまっている。その横顔を眺めながらフローリアは優しい気持ちになる。


“君がやりたいことをやりたいようにやればいい”


何回目かのプロポーズの時にかけられたリディアの言葉に自分の気持ちは決まっている。月並みにー好きーという言葉では表せない感情がそこにある。きっと自分はリディアの求める妻にはなれないし、ならないだろう。それが分かっていて“好きにやればいい”と言ってくれるリディアはフローリアの最大の理解者だ。


ーだからー


「フローリア」


馬車が会場の入り口についたのか動きが止まった。扉を開けた従者に軽く頷き、馬車を降りたリディアはフローリアをエスコートするために自分に手を差し出す。それにふわりと微笑んだフローリアはリディアの手に手を重ね、口を開いた。


「喜んで」

ここまでお読み頂きまして誠にありがとうございました。後、一話お付き合い頂きましたら嬉しいです。

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