婚約破棄から得たもの
「でも、何より納得いかないこと事はどこの国もうちに手を出したくせに途中で侵略を止めたことかな………」
自国の弱点をさらりと分析したリディアはふふふと笑う。
「確かにそこまで弱ってる国があれば私だってあまり調べもせずに手を出すと思うんだよ。でも、経済の崩壊、政情不安、食糧自給の崩壊って3拍子が揃ってるからね。簡単だと思うじゃないか………でも冷静に考えたら侵略して属国にしても税収は少ないし、旨味が少ないってのも分かるんだよ。うちも確かに死に物狂いで侵略を止めて来たしね。………でもさ………酷いと思わないかい?どこの国もこの国を侵略はしてきたけど、途中で侵略を止めて帰るんだよ。なんて自分勝手だと思わないかい?フローリア!」
別に戦があればいいと思う訳ではない。でも国の事を愛しているが故に他国に“お前の国、魅力なし”と判断された事が地味に悔しかったリディアは拳を握りしめる。その指摘にフローリアもそうねと哀愁を漂わせる。
「………そうね。国があることは非常に嬉しい事だけど………途中で停戦交渉されて。勝手に帰られてもね………」
侵略しても旨味がないどころか経済の崩壊、政情不安による治安の悪化。食糧不足による飢饉。支配が支援に変わる事実は多くの国から侵略してまで欲しい国になれなかった自国に対する最大の屈辱。本当によく国が残ってた!と驚愕するほど侵略されているにも関わらず、相手からの停戦交渉。ちなみに侵略して来てもらう事で国が飢饉備えて蓄えていた備蓄を開ける必要にかられ、自国民がその食糧で助かるという事実。まったくもって不可抗力な幸運過ぎる。ちなみに浮浪者達が食糧を求めて兵士に志願したため、予想以上の兵士を集めることが出来た事も勝因だ。
「私が王位についたら絶体に侵略したい国一番になるために全力を投じたいね」
もちろん侵略して来た国には手痛い教訓はくれてやるが、他国が侵略したくなるぐらいには豊かな国を作る。ぐっと拳を握りしめるリディアを前にフローリアも勝ち気に微笑む。
「私は四年後の税収を2割アップのために頑張りたいわ。うちは鉱石だけが取り柄なんて言わせないんだもの」
加工できる職人がいなければ鉱石はただの屑石だ。磨く人間が居て、輝くことが出来る。
ー目指せ、豊かな国づくりー
副題は他国から見て魅力的な国になろうだ。
このキャッチーコピーを元に、リディアとフローリアは自分の野望のために走り続ける。誰のためでもない。自分が欲しいもののために自分に出来る事をするだけ。
「そんな婚約破棄王子様は隣国の大使様の居るパーティにどんなご用事が?」
リディアの見据える未来の形を支えたいと願うフローリアは悪戯を思い付いた表情で微笑みかける。フローリアの問いかけにリディアはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの表情で応じる。
「隣国の大使のご子息が隣国の王太子のご友人らしくてね」
「まぁ、それは念入りにご挨拶しなくてはいけないわね。リディア。だって、我が国は政情に不安はなく、友好国として非常に適しているんですもの」
リディアの言葉にフローリアは嬉しげに笑う。この国はこの20年近く、自国の政情不安を優先した。他国との国交はないに等しい。豊かな国を作る足掛かりに色んな人脈作りにリディアは奔走する。
「年頃も我々と同じぐらいだから………頼むよ、フローリア」
その言葉にフローリアは頷く。
「任せて、リディア。私、大使様からご子息に婚約者がいないと聞いているもの。ご満足頂けるまで躍り続けるわ」
ーフローリアの欲しいものは誰も飢えない豊かな国ー
ーリディアの欲しいものは誰も泣かない豊かな国ー
婚約破棄が起こした騒動は豊かな国を衰退させた。
ーしかしー
婚約破棄から得るものも確かにあった。
「ねぇ、フローリア………」
「何?リディア」
呼び掛けに顔をあげたフローリアはリディアを見つめる。その眼差しにリディアはくしゃりと笑う。
「君が生まれて来てくれてよかったよ………」
その言葉にフローリアは満面の笑みを浮かべた。
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