婚約破棄のもたらしたもの
リディアの穏やかな笑みに馬車内を長い沈黙が支配する前にフローリアは笑顔で口を開く。
「ごめんなさい。リディア。そもそも過去の話をした所で現在に何かもたらしてくれる訳でないから思い出すだけ………時間の無駄よね」
笑顔で自分の過去をバッサリと切って捨てたフローリアにリディアも肩を竦めて切り捨てる。
「ま、過去を思い出した所で私達に何かしてくれる訳ではないからね」
「そうよ!………せっかくならもっと建設的な話をすべきよね………私達………」
「そうそう時間はお金なんだからね」
過去の教訓は大事だが、感傷なんて思い出すだけ無駄という結論に達した二人はうんうんと頷くと互いに手に抱えた紙を捲る。暫くののち、再び書類に視線を戻していたリディアはそう言えばとフローリアに口を開く。
「君から隣国の大使とお近づきになりたいから是非、隣国の大使の出席する夜会があれば連れて行って欲しいと聞いていたから連れて来たけど、目的は?」
世間話のように問われる内容に、こちらも資料を読みふけっていたフローリアが顔を上げて満面の笑みを浮かべる。
「もちろん、新たな販路の拡大に決まってるわ!」
まるで恋する少女のように頬を染め上げたフローリアはうっとりと今日の野望を語りだす。
「隣国では今、新たな製法で作られた安価だけど丈夫な布で作られたこのドレスが大流行なの!」
そう言うと触ってみてとドレスの裾を差し出す。恥じらいもなく差し出された裾にリディアは表情を変える事なく手を伸ばす。
「従来品よりも手触りがいいね」
「そうでしょう!」
リディアの評価にフローリアはふふと笑う。
「だから、安価で丈夫になった分、装飾品を買える余裕が出るのよ」
「………それは良いね………フローリア」
フローリアの着眼点にリディアも口許を緩める。珍しく隣国の薄水色のドレスに身を包んだフローリアが現れた時から抱いていた疑問が解消される。そして………
「だから、新たに低価格で作られたうちの髪飾りと耳飾りをつけているのか………」
「さすが、リディアね」
「これでも王太子だからね。一応」
白銀の髪に映えるようにつけられた鉱石を加工した髪飾りにリディアは笑みを深くする。王太子として自国の名産品に詳しいのは当たり前の話だ。
「値段も従来品よりも安く………3分の1ぐらいの値段で売り出す事も可能だと思うわ。リディア」
屑石扱いだった石を使うため、従来よりも低価格で売り出す事が出来るらしい。また職人技でしか出来ない小振りの石の加工した髪飾りや耳飾りはどうしても高価になりやすく、装飾品として高級品になるのだ。それに比べて大ぶりの鉱石だと加工は容易く、新たな職人育成にとっても雇用が産み出しやすい。リディアの反応に気をよくしながらもフローリアは憂鬱気に呟く。
「それでも………かつて失われた技術に対抗出来るとは思わないけど………」
「………………………………」
その言葉にリディアも微かに目を伏せる。
ーそうー
かつてリディアとフローリアが生まれる3年前に破棄された婚約がもたらした最初の悲劇
ーそれはー
自国経済の崩壊だった
筆が遅く、ご迷惑をおかけしております。
読み返しながら仕上げておりますが、一話目の誤字・脱字を恥ずかしく思います。申し訳ありません。
少し短いですが、キリと次話への繋がりのためにここで切らせて頂きました。