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婚約破棄された令嬢の娘

ーフローリア・レディオー

それが私の名前。


でも……


ー私に与られた役目は

     『婚約破棄された令嬢の娘』でしたー



「お可哀想に………」


幼い頃から母と瓜二つの容姿を持っていた私は母の分身のように扱われていた。


「お嬢様がよい縁談に恵まれればいいが………お可哀想に………」 


そう聞かされるたびに私はなぜもそう可哀想だと言われているのかよく分かっていなかった。使用人達は優しく、私は母と父に惜しみ無く愛情を注がれて育ったから………。ただ、使用人達が母に似てくれば似てくるだけ、『お可哀想に………』と複雑な表情で私を見るのだけが疑問で。


思わず………


「私の何が可哀想なの?」


そう聞き返しても自家に仕える使用人達は複雑な表情で微笑むだけ。次第に成長し、言葉の意味が分かってくるにつれ、私は “お可哀想に………”その言葉を聞いて育ったせいか。自分を可哀想な娘なのだと思い込むようになっていた。だから、私は祖父の家に行った時に一度思いきって聞いてみたのだ。


ーお祖父様、私って可哀想なの?ー


何でも知っているお祖父様なら、私がなぜ可哀想なのか………子供心に理由が分かると思っていたからだ。だが、そんな私に祖父は………。


「誰がそんなことを言うんだい?」


その頃には宰相という立場を辞していた祖父が表情とは裏腹に穏やかに自分に問いかけて来たのを覚えている。それにフローリアは“みんながそう言うわ”と率直に返した記憶がある。それに“そうか………”と返した祖父は私を屋敷の外に連れ出した。


ーそして………ー


「………………つ!」


そこに広がる光景に私は言葉を失う。そこに広がっていたのは食べるものがなくて飢える人の姿だけ。その光景に幼い私が思わず、衣の袖を掴むと祖父が痛みに耐えるような表情で私を見下ろしたのだ。


「これが私達の犯した過ちの結果のひとつだよ。フローリア」


正直、私には一体何をさして祖父がそう言うのか分からずにいた。でも、使用人達が私に向かっていう“お可哀想に………”にという言葉にどれほどの価値がないのかを肌身で感じた瞬間。身を竦める私に祖父は穏やかに頷き、微笑む。


「フローリア、お前は何一つ可哀想ではないんだよ」


「?」


首を傾げる幼い私に祖父は言葉をかみ砕いて説明して下さったのだ。


「お前は、今死にそうなぐらい、お腹が空いているかい?」


「ううん!」


「じゃあ、お前は今、寒くて死んでしまいそうなほど寒いかい?」


「いいえ!」


「じゃあ、お前は今帰る場所がないかい?」


「いいえ!」


「じゃあ、お前には誰か大切な人がいなくなってしまったかい?」


「いいえ!」


何度も落とされる質問に私は首を振っていく。それに全て首を振ると祖父は“だろう?”と微笑んでいた。


「なら、お前は何一つ可哀想ではないね………」


「え?」


驚く私に祖父はそう微笑んだのだ。


「だって、お前には帰る場所もあるし、寒くもない。腹も減らしていなければ、お前を愛してくれる家族がいる」


ーなら、何一つ可哀想ではないんだよー


そう告げられる言葉に私は我知らず、泣きながら頷きました。今でもなぜあのとき泣いてしまったのか分かりません。でも、私はそれ以来自分が可哀想だとは思わなくなりました。ただひとつだけ、分からない事がありました。


「じゃあ、誰が悪いからみんながこうなるの?」


では、どうしてみんながお腹一杯食べられなくて、大事な人がいなくなってお家に帰れなくなってしまうのか幼い私には理解出来なかったのです。その質問に祖父が非常に驚いた顔をしていたのが印象的でした。


「………………………………………………」


何でも知っている筈の祖父の初めての沈黙に私は不安になりました。何かしてはいけない質問だったのか………そう思って祖父を見上げると祖父が苦笑に満ちた表情で民を見つめていました。


「………そうだね………フローリア………難しい質問だ」


本来ならば、当時王太子であった現王様が仕出かした婚約破棄の影響だと私に告げることも出来たでしょう。でも、祖父はそうは言いませんでした。


「あえていうなら………何も知らなかった事がいけなかったんだよ………フローリア」


そういうと祖父は私を抱き上げてくれました。


「何かを行えば、どうしてもその結果はついてくる。でもね、フローリア。その結果について批判出来るのはその結果に対してどうしたら良かったかを言える人じゃないといけないんだ。だから、お前がどうしてこんなにみんながお腹一杯食べられなくて、大事な人がいなくなってしまったか………どうしてお家に帰れなくなってしまったかを知りたいのなら勉強しなさい。そして………みんながお腹一杯食べられて、大事な人が傍にいてくれて。帰る場所があるようにして初めて君はこの結果を出した人を怒っていいんだよ」


「?」


祖父の言葉の全てを私は理解する事が出来ませんでした。でも、ひとつ分かったのは勉強すれば目の前のみんなが私と同じようにお腹一杯食べられるようになるのだと思いました。


「分かったわ!お祖父様!」


元気に答える私の声に祖父も何かを決心したようでした。


「民に生かされていた私達の無知と無策が彼らを苦しめてしまったんだからね………」


そう告げる祖父の顔は苦渋に満ちていて、とても苦しそうだったのを覚えている。




「ねぇ、リディア………」


「なんだい、フローリア」


向かいあって座りながらも互いにあまり会話する事もなく、ただ馬車に揺られるだけたったフローリアはふと思い出した過去の記憶に口を開く。


「私達は可哀想ではなかったわね………」


その言葉にリディアは少しの間、考え込む。馬車の軋む音だけが車内を支配する。何度目かの車輪の軋みの後、リディアはふわりと穏やかに笑った。

皆様のご感想ありがとうございました。個々にお返事させて頂きたいのですが、現在筆が遅いため書くことに集中させて頂いております。誠に申し訳ありません。頂いたご意見、ご感想を作品作りに活かさせて頂こうと思います。この場を借りまして御礼申し上げます。まだもう少し結末までかかります。お付き合い頂けましたら幸いです。

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