第四話 ドラゴン倒れる
ボクは今、ドラゴンと戦っている。
戦いを始めてから約10分。
現在の状況は・・・・。
ドラゴンは無傷。
ただし先程の観察によって、何となくドラゴンの瞬発力、攻撃力、防御力はわかった。
ドラゴンの正確な能力はわからないけど、ボクとの能力差は天と地ほどの差がある。
まず、瞬発力は大きな体躯のためかボクよりは遅い。
判断力はかなりあるようなのでそこで瞬発力を補っていそうだ。
攻撃力は確実にボクより上。
尾の攻撃を受け流すだけで少し腕が持ってかれ、ナイフを手放さなければならなくなったということから、もしボクが正面から受け止めに行けば、良くて吹き飛ばされるか、運が悪いとつぶされて即死ということになりかねない。
防御力もかなり高いと予測できる。
尾の攻撃の際、受け流していたとはいえ刃が通った感触が全くしなかったことから、ボクの手持ちのナイフでは貫くどころか、傷をつけることさえ難しい。
ただ、ナイフの強度はドラゴンの尾の攻撃をギリギリ受け流せたことから十分だろう。
(というかそんな強度を持つナイフを作ることのできるボクのいた組織っていったい何だろう?)
その強度をもってしても鱗を切れないのは厳しい。
まっとうな手段をもって戦おうとすれば、ボクは瞬殺される。
・・・と、こんな感じである。
まさに絶体絶命である。
だが生物にはある程度弱点が存在する。
そこをうまくつけば、勝つことはできなくても何とかこの状況を打開できるかもしれない。
さて、ドラゴンといえば架空の存在である。
そのドラゴンもまた鱗が固い。
だが、その中で一つ割れやすい鱗があるという設定の物がある。
その鱗は他の鱗と違い、逆向きに生えていることから逆鱗と呼ばれている。
その逆鱗にはまた二つの設定で書かれていた。
一つはその逆鱗を割るとドラゴンは怒り、暴れだすというもの。
もう一つは割るとしばらくドラゴンはおとなしくなるというものである。
そして対峙しているドラゴンにも逆鱗があった。
ドラゴンが方向転換したとき首に逆さに生えている鱗があったのだ。
まずはこれを狙ってみることにする。
現在の装備で割れるかどうか、そして割れた場合暴れるかおとなしくなるか、かなり命がけの賭けである。
ボクはナイフを逆手に持ち構える。
こうすれば受け流しで腕に負担をかけないし、ナイフで突くという動作では順手よりは力が入りやすい。
一番の理由は、ナイフを順手で持って戦うことより逆手で持って戦う方が慣れているというものだが。
受け流しや力の入り方云々はあまり重要じゃなかったりする。
「・・・っ‼」
ボクはドラゴンに向かって駆け出す。
動きはほとんどノーモーションである。
ドラゴンは突然に、しかも前触れもなく動いたためか一瞬動きが止まる。
その一瞬でボクはドラゴンの首の近くまで抜けた。
その勢いのままボクは体を反転させ、一気に腕を振り上げ、ドラゴンの腹と首の付け根辺り(どこからが首かはわかりにくい)にある逆鱗に向けてナイフを突き立てた。
ガキィッと鈍い音が響き、ナイフが弾き返された。
ドラゴンは攻撃されたことで少し後退する。
その隙にボクもバックステップでドラゴンとの距離をとる。
バックステップをしながら逆鱗らしき部位を見ると割れてはいなかったが、ナイフを突き立てた所を中心にひびが入っているのが見えた。
少し距離を取った後、ボクはナイフを一瞥する。
そのナイフは刃の部分の至る所にひびが入り、もはや使い物にならなくなっていた。
おそらくこのナイフではドラゴンの鱗に当たるだけで砕けてしまうだろう。
ボクはナイフを捨て、最後の一本を取り出す。
そこでドラゴンも体勢を立て直したのか、お返しとばかりにこちらに向けて爪での攻撃を仕掛けてくる。
ボクはそれをさらに後ろに下がることでかわす。
そこからボクは後ろにかかっている力を反転させ前へと突っ込む。
ドラゴンはそれに対し、鋭い牙の並んだ口を開け迎え打とうとする。
ボクは足に力を入れさらに加速し、ドラゴンに向けて一直線に進む。
そしてドラゴンに近づき、あと少しでくらいつかれそうなところでに重心いっきを下げ、上半身を下に落とす。
そのままドラゴンの首元に駆け抜け、体を反転させる。
ドラゴンは一瞬ボクを見失い、探すために首を戻す。
それに合わせボクは腕を振り上げ、先ほどの攻撃でひびの入っていた鱗に向け、突き立てる。
バリンッと割れるような音が鳴る。
「グガァァァ。」
それと同時にドラゴンが咆哮を上げ後退していく。
ボクも警戒をして後退していく。
そしてドラゴンは数歩後退したのち、一瞬ボクを見て倒れた。
「・・・・・・・ッふぅぅ。」
ボクはしばらく警戒を緩めずに倒れたドラゴンを観察し、再度襲ってこないのを確認してから体の力を抜いた。
ボクは何とかドラゴンとの戦いに勝ったらしい。
気が抜けた瞬間、森で目が覚めてから起こったことを思い出した。
それと同時に考える。
(どうしてボクはこんな状況に陥ってしまったのだろう。
そして、今後ボクはどんな出来事に巻き込まれてしまうのだろう。)
そんなことを考えながらボクは視線を倒れたドラゴンに向けた。