第三話 ドラゴンとの闘い
目の前に黒いドラゴンがいる。
体格はかなり大きい。
(戦うとは決めたもののどうやって戦おう?)
ボクのやっている仕事はどんなことが起きるか予測不明な時が少なからずある。
そんなときに戸惑わないようにボクが身につけている服は様々な改造が施されている。
防弾、防刃は当たり前、念のため耐火装備でもある。
そのうえかなり軽い素材でできており、関節部は可動域の邪魔にならないようになっているから激しい動きもできる。
この服に付属のバックにはいくつかの便利道具も入っているのだ。
それに小さい割にたくさん入り、どんなものを入れても軽く、邪魔にならない。
以前どんな方法で作られているんだろうと疑問に思ったことがある。
ただ、聞いても教えてくれなかったのでとてつもない謎の技術と納得しておいた。
バックの中身は森を歩いているときに確認していた。
武器となりそうな物は小型のナイフ三本。
これはよく使い慣れているものであり、愛用の物である。
組織での謎技術によってできているらしく、かなり硬い。
以前岩や鉄、ついでに金属の鎧をきりつけたことがあった。
当然スパッと斬れることはなかったが、どんなに強い力できりつけても刃こぼれ一つなかった代物だ。
このドラゴンの鱗はどれだけ硬いかは知らないが、ある程度は攻撃も通るだろう。
あとは基本戦闘には使えないものばかりであった。
まあ主にサバイバルに最低限必要なものを入れてあるだけなので仕方がない。
そんなものが必要となる仕事って何なのかって?
その話はまた追々・・・。
いや、聞かない方が身のためというものだろう。
さて、自分の状況も確認できた。
「戦闘開始といきますか。」
ボクはドラゴンに対しすべての意識を向ける。
ボクが思考に費やした時間はほんの数秒ではあるが、その数秒のうちにドラゴンが行動を起こしていなかったことは幸運だった。
いくらドラゴンへの警戒と状況確認で思考を分割している。
そのためドラゴンが行動を起こしても比較的すぐに動けるとしても、対策ができる前と後では自分の勝敗に天と地ほどの差がある。
最悪の場合、命がけの行動をしなければならない。
ただでさえドラゴンという実際遭遇したことのない脅威に出会っているのに、余計に不利な展開になってしまう。
ボクはドラゴンを刺激しないように行動を起こす。
少しずつ左の腕をドラゴンの視界から隠れるように後ろへ持っていく。
その手が背中側につけているバックに回ると同時にナイフを一本取り出す。
そのままドラゴンの右側にじりじりと移動していく。
そこでドラゴンは動き出した。左の前足を外から薙ぐように攻撃してきた。
ボクはそれをよけるべく、左側に大きく飛ぶ。
着地までの間にナイフの刃を鞘から抜き順手で構える。
ドラゴンの攻撃は空振りに終わった。
ここでドラゴンが右の前足を振れば避けられないがそれはしてこない。
いや、できない。
ドラゴンの重心の関係上それをすると後ろ足で支えられなくなるためだ。
ボクは着地と同時に、ドラゴンの周りをまわるべく足に再度力を入れてそのまま走る。
ボクはドラゴンの背後へ回る。
ドラゴンはその時点で左前脚を戻していた。
そこでボクが後ろに回ったと気づいているのか、そのまま尾を振り上げた。
ドラゴンの尾はボクに向かって振り下ろされる。
とっさにボクは屈みながらナイフを頭上に構え、動き続ける。
「・・・っ‼」
ナイフとドラゴンの尾が接触した瞬間腕が持っていかれそうな力が加わる。
衝撃で体にダメージがいかないように力を分散し、逃がす。
ナイフを尾の進行方向に平行になるように合わせそのまま前進する。
ガリッと何かが削れるような音が鳴り、ナイフが尾に持ってかれ後ろに飛んで行った。
だが、ボクの体は尾の攻撃の届かない範囲に既に移動していた。
ナイフを一本失ったことはつらいが、すぐに意識を切り替え、そのまま動き続ける。
動きながらナイフをバックから取り出し鞘から抜く。
その間ドラゴンは後ろ足に力を籠め、いったん二足で立ちボクが正面なるように方向修正し前足を下す。
これで方向は変わったが最初の構図に戻った。
しかし、二度攻撃を受け、かつ周りを見たおかげでドラゴンの能力と特徴、そして自分との能力の差は何となくわかった。
差から見て勝てる要素は2割もないが何とかしてみるしかなさそうだ。
「さあ、様子見は終わりだ。
こちらからの攻撃を始めようか。」