第十五話 コロナの決意
コロナにつけられた隷属の首輪が外れた。
なんというかものすごくあっけなかった。
こんなに簡単にしかも指摘されていた危険もなく魔術の無効化と首輪の取り外しができるとは思っていなかったのだ。
こんなものなのだろうかと思い、一度周りを見回してみるとそうでもないようだ。
何故なら、魔術を無効化する方法を教えてくれたルーも、さっきまで隷属の首輪を着けられていたコロナも呆然としている。
この様子を見る限り、本来はもっと苦労して魔術を解除するのだろう。
確認のためルーに聞いてみよう。
「ルー、なんか簡単に外れちゃったけどこんなに簡単に外れるもんなの?」
ルーはボクの声で我に返り、答えてくれる。
「そんなわけないよぉ。そもそも魔力の取り込みから操作まではそんなに時間をかけないでできるにしても普通は半日、最短でも二刻はかかるんだよぉ。それをすぐに終わらせるなんてなんか納得いかないよぉ。それに魔術を壊すためにはすごくたくさんの魔力が必要なんだよ。それを少しの間で籠めちゃうなんてどれだけ一度に使える魔力量が多いのぉ?」
「いや、そうは聞かれてもできたものはできちゃったし、どれだけ魔力の量があるかなんてわからないよ。」
「あっ、それもそうかぁ。ごめんユウ、少し気が動転してたぁ。」
ボクはルーの質問に答えると、ルーはボクの状況を思い出したようだ。
なんというか完全にこの世界では異質というか普通とはかけ離れたことをしたということだけわかった。
ただここは一度話を切り上げて、コロナや盗賊たちの事を考えた方がいいだろう。
「それはそれとしてルー、今目の前の事をまず片付けてしまおうか。」
「あ~、それもそうだねぇ。まずはコロナを元に戻さないと。まだ呆然としているし・・・。」
「そうだね。というわけでコロナ、大丈夫? 何か首輪の後遺症でも残ってたりする?」
ボクはコロナの肩に手を置き、軽くゆすりながら声をかける。
コロナはしばらく放心していたが次第に元に戻ってくる。
「・・・はい?っは!? だ、大丈夫です。ちょっとぼ~っとしてただけです。首輪をしているときはほんの少し頭の中に違和感がありましたけど、今ではかなりすっきりしています。それで私に何の御用ですか?」
「ああ、大丈夫ならよかった。なら本題だけどまず一つ目はコロナ、君の事かな? これはあいつらに直接聞いたことで、嘘を言っている気配もなかったから本当の事なんだけど、君は両親と旅をしている最中にあいつらに襲われた。そのとき両親を殺され、君にはあの首輪がつけられた。ここまではいいかい? コロナの見てきたことと間違っていることとか覚えていないことあった?」
ボクは回りくどかったり、面倒くさいことは嫌いだ。
コロナの両親についてはコロナの目の前で殺されたことはあの男の証言で何となくだが予測できる。
だが、コロナの両親がコロナを置いて亡くなってしまったのは事実である。
それをコロナが理解できなければ彼女はそのまま居もしない両親を探し続け、いつか破滅してしまう。
だからボクはまずコロナに今の状況を理解してもらう、そのための問いである。
そんなボクの問いにコロナは平然と答える。
「はい。大丈夫です、ユウさん。ご心配ありがとうございます。しかし私はまだ14歳ではありますが、お父さんとお母さんと旅をしている間にこういうことが起こっていたときの覚悟もできています。それに旅を続けていればこういう理不尽はいくらでもありますし。だからお父さんとお母さんの死について目を背けるつもりはありません。それに二人を殺して私をこんな目に合わせた男達をどうにかしたいという気持ちもありますので、現実から逃げたり死んでなんていられません。」
なんというかものすごく強い娘である。
そのうえボクは少し考え違いをしていた。
元の世界では両親を目の前で殺されるなんてのは滅多にないことである。
そしてそれをいきなり見せられたら子供はどうにかなってしまうだろう。
しかしここは魔獣なんてものが存在する異世界、元の世界とは全く常識も違うし危険度も段違いである。
そのためこの世界の人間はかなり死に対していつでも覚悟を持っているようである。
ボクはそこを考えていなかったようで、その辺りの考えを一度改める必要があった。
さてそんなわけで話を戻すとしよう。
ボクはコロナの心が壊れてしまうのではないかと心配でつい確認してしまったがそれは杞憂に終わったようだ。
これで次の話に移れる。
だがコロナの話を聞く限りこの話題もすぐに片が付きそうである。
「さてコロナ、その答えが聞けたところで次の話だ。それはあの男達をどうするかだよ。ちょっと事情があって一人だけ先に殺してしまったわけなんだけど、残りの八人はどうするかコロナの意見も聞こうか。
ちなみにボクとルーは事前に答えは決まっていてね。簡単に言うとお金が欲しいからあいつらの身ぐるみだけはがしたらあとはコロナに任せようと思っているよ。あっ、そこでボク達も盗賊みたいだなんてツッコミを入れるのはやめてね。それともしコロナ自身が殺したくても手を下せないようならボクが代わりにやってあげてもいいよ、対価はもらうけどね。さあ、どうする?」
ボクは次の話題、男達の処遇についてコロナに尋ねる。
普通ならボク達が下してしまってもいいんだろうけど、今回はあいつらに復讐したそうな者が目の前にいた為、判断をそっちに任せようかと思った。
だからボクはあの男達を殺さずにおいてその処遇をコロナに任せたのだ、ついでに最大限の自分たちの要求も載せて。
無責任と言われようがこれはコロナ自身の権利であるとボクは考えている。
それをボクが勝手に手を下してしまえばコロナの権利を一つ潰してしまう。
それは下手をすればコロナから恨みを買うかもしれないということでもある。
そういうのは極力避けていきたいのだ、ボクは。
だからボクは一度コロナに権利を与える。復讐という名の権利を。
コロナは少し考え、ボクに対してゆっくり口を開く。
「復讐はしたい・・・です。今すぐ、に、でもあいつらを、お父、さんとお母さん、を無残に殺、したあいつら、を殺し、たいです。でも、私には、人、を殺せるほどの、覚悟があり、ません。今、も殺してやりたい、のに、やろうと思うと、心臓、がバクバ、クして、身体が、震える、んです。どうしたら、いいんで、しょうね、ユウさ、ん。」
コロナは震えながらボクに心の内を話す。
無理もない、たとえ自分や周りの人が死ぬのを覚悟したとしても、それと自分自身で殺すのはまた覚悟が違う。
死というものは普通に暮らしていれば誰にでも日常的に訪れるものである。
ましてや、魔獣という人より強大な存在があったり、元の世界よりも盗賊などの悪人が多くいるであろうこの世界ではもっと身近になることである為、覚悟をするのは容易である。
しかし、その逆の自分が人を殺すとなると話は別である。
普通に生きている人間が自分から望んで人を殺す場面というのは事故などの偶然を除けばかなり少ない。
例えば、悪人に襲われたり戦争時に敵に襲われてしまい、相手を殺さなければ自分が死んでしまう状況に陥った場合。
例えば、自意識を失ってしまうほどの激情(怒りや哀しみなど)に駆られてしまった場合。
例えば、物心ついた時からそういう教育をされ、殺しが日常になっている場合。
例をあげてみても本当にそういう場面は少ない。
人は日常で起こりうることは予想や覚悟はできるが、非日常の事は予想も難しいし、覚悟もすることはないだろう。
そしてコロナは今、そういう場面に立たされている。
おそらくコロナは、言葉通り本心ではそう思っているのであろう。
しかし予想や覚悟していなかった事に戸惑いためらっている。
そういう場面でボクはどう立ち回ればいいのだろう。
ボクとしては薄情ではあるが、今の状況を早く片付けてしまい町に向かいたい、為この状況を打開する行動を起こす必要がある。
そしてボクはその行動方針は決まっている。
あとはそれを実行するべく声をかけるだけである。
「コロナ、無理はしなくても大丈夫。でも、今の状態だとちょっと危ないからね。まずは少しだけ落ち着こう。さあ深呼吸して。すぅ、はぁ~~。すぅ、はぁ~~。・・・・・。」
ボクがそう言うとコロナも真似をして一緒に深呼吸をしようとする。
「す、ぅ、はぁ。すぅ、は、ぁ。すぅ、はぁ~。すぅ、はぁ~~。「どう? 少しは落ち着いた?」は、はい。まだ少し心臓がバクバクしていますが、体の震えは収まりました。」
「そう、落ち着いてよかった。このままだと心に体が着いていかなくなってしまいそうだったからね。そんな状態だとどんなことをしても危ないんだよ。・・・さて、それは置いといて、話を戻そうか。コロナ、君は両親の仇を討ちたい、そうだね?」
ボクがそう聞くとコロナはうなづいてくれる。
「でも、君はあいつらを殺そうとすると体が震えて動けなくなってしまう。そこもいいね?」
少しの間沈黙するが再びコロナはうなづいてくれる。
「話はそれるけど、コロナの状態は少しではあるけど説明できる。君は心のほとんどではそう思っている。でも、本当の心の奥底、つまり無意識で殺したくないと思っている。いや、ちょっと違うかな? 無意識に両親の仇は討ちたいけど、殺しまではしたくないんじゃないかな? まあ無意識なんてわかるすべもないから完全に予想だけどね。ここまでは大丈夫?「・・・(コクン)」うん、少し戸惑ったようだけど理解してくれたようだね。物分かりが良くて助かるよ。さて、解決方法だけどはっきり言ってすぐには対処できないんだ。いや、できないことはないけどちょっと危険でね。終わったあと精神、心が壊れかねないんだ。そして言い方は悪いけど、ボクはこの程度の事でコロナにそうなってほしくない。たぶんご両親もこの場にいたらそう言ってくれるんじゃないかな? もちろん仇を討ってほしくないわけじゃなくて、仇を討つためにそこまでしてコロナの人生を壊したくない、そう思うんじゃないかな?」
ボクが話していくと、コロナは落ち込んだり、嬉しそうな顔をしたり、もう一度落ち込んだりと感情の落差が激しい。
そして、ボクの最後の言葉にはコロナも少しは考えてくれているようである。
(さて、そろそろいいかな?)
ボクはコロナの状態を見て提案を持ちかける。
「コロナ、考えているところ悪いけど提案がある。さっきも少し話したけど、少しだけ対価をもらえればボクが君の恨みを晴らしてあげよう。もちろんその方法もコロナの言うとおりにするよ。それでどうかな?」
ボクが最後の言葉と同時に尋ねるように少し首をかしげると、コロナは少しポカンとした後考え始める。
そして数分考え込んだのち、答えがまとまったようで顔をボクに向けてくる。
(さっきから少し思っていたけど、コロナはだいぶ理解と決断が早いな。普通なら決断一つとってもに十分以上かかるのに。まあボクとしては助かるけど・・・。)
「ユウさん、少し確認です。私が払う対価について教えてください。あと首輪の時も思いましたけど、どうしてユウさんはそこまでしてくれるんですか? 私とあなた達二人には先程出会ったばかりだというのに・・・。」
コロナは率直に疑問に思ったことをぶつけてくる。
「それはね、ボク自身にメリットがありそうな事と、ちょっと放っておけなかったから・・・かな? 正直理由はわからないかな。ボクは自分自身にメリットがないと動かないし、面倒事は極力避けたい。だから面倒事になりそうなことは放置が基本。でもボクが自分から何となくの理由で動いた時には自分自身にメリットがあると無意識で理解できているから。と友達は言っていたかな? まあなんにせよボクにはわからないかな。・・・ああ、それと対価だったね。それはね情報ともう一つ。今後ボクと接するときは、君自身が隠している本当の君で接してしいってこと。どうかな?」
ボクがこういうとコロナは少し驚いた顔をした後、考え込みうなづいてボクの方を見た。
「わかりました。では私はユウさんに頼ませていただきます。殺すか殺さないかはともかく私の恨みを晴らしてください。それと、対価については終わった後でいいですか?」
とコロナはボクに向けて答えてくれる。
どうやらさっきの言葉で納得したようだ。
まあコロナの顔を見るとそれ以外にも考えているようであったがその辺りは保留とする。
ボクはコロナの質問にうなづき、コロナとどうやって恨みを晴らすかの相談をしていく。
さて、この後は仕事の時間である。
奴らの断罪の時間はもう目の前に迫っていた。




