第十一話 盗賊に襲われる
正面から男が歩いてくる手には安っぽい剣、顔には下卑た笑みを浮かべている。
そして周りからは複数の人間の気配がある。
周りの気配の人数はおよそ9人。
ボク達を全方向で囲んでいた。
ただ、うまく隠れてはいても素人同然の気配の消し方であるため、手練れはいないと思われた。
正面の男との距離が約2mほどになり、男が口を開く。
「よお、坊主。今すぐそこに身につけているもの全部と隣のお嬢ちゃんをおいて失せな。そうしたら命だけは助けてやるよ。」
口ぶり、恰好、態度から見て盗賊にしか見えないそんな輩であった。
というより盗賊以外に何があろう。
なんというかこうもテンプレな盗賊を見てしまうと、呆れの感情しか浮かんでこない。
あっ、ルーが警戒してボクの前に出ようとしている。
ボクはそれを片手をあげ制止させる、ここはボクに任せてという視線をルーに送る。
そしてボクは少し男に近づき口を開く。
「いやいや、ボクこう見えても女ですよ。そして邪魔なのでそこをおとなしく退いてください、おじさん。」
「あぁん? てめぇ今何つった?」
「邪魔なので退いてくださいと言ったんですよ、おじさん。あと鬱陶しいんで周りで姿を隠している方たちもさっさと解散して何処か行ってくれませんかねぇ。」
「なっ!?」
あ~あ~、正面の人かなり驚いちゃってるよ。
そして周りの気配も隠れているのを指摘されただけでただでさえダダ漏れな気配を余計に乱している。
正面の男も周りに潜んでいる連中動揺しているのがまるわかりである。
なんというか相手の威圧の仕方といい周りの連中の気配の消し方といい、完全に素人の集まりである。
こんなやり方では多少戦闘の訓練をしていればひるまないし、即座に気づかれてしまうだろう。
とまあ、普段ならこういうやつらを見かけると根本から鍛えるか、足を洗わせようと考えるのだがここは元の世界ではないし、ある意味チャンスである。
何せ金の源が自分から現れてくれたのだ。
まあただの盗賊だろうからそんなにお金ももっていないだろうが、ここは逆に相手から奪うことができれば、最低でも今夜の宿の代金くらいは手に入るだろう。
ただ素手で殺すのは手間がかかるのでまずは無力化からしていこう。
今回はこちらから仕掛けかつ相手の身ぐるみを逆にはいでしまおう。
それでいて暴れるようなら正面のやつが持っている剣で殺せばいいだろう。
というわけで正面の男に向けボクは口を開く。
「あっ! やっぱり解散はしないでください。ここでボク達が返り討ちにしてあげますので。さあ周りの人達もさっさと顔を出してください。」
相手を挑発するようにかつ丁寧な口ぶりで全方向にいる連中に声をかける。
すると、相手もからかわれているとでも思ったのか簡単にこちらに乗ってきてくれる。
正面の男が声を上げる。
「おいおい坊主、いやお嬢ちゃんか? 大人に向けてそんな口をきいてただで済むと思っているのか? ああん? なぜか見破られていたとはいえこちらには俺を含め十人はいるんだ。それをたった二人で返り討ちにするだって? 冗談言っちゃいけねぇ。訂正するなら今のうちだぞ。」
「いやいや、冗談ではありませんよ。たかがあなた達程度二人どころかボク一人で対処できますよ。」
「おうおう、言ってくれるじゃねぇか。そこまで言うんならやってやんよ。おい、おめぇら出てこい。作戦変更だ。こいつらまとめて殺っちまうぞ。」
と正面の男の声によって周りに隠れていた連中が姿を現す。
現れた連中の数は9、気配察知で見つけた数と同じであった。
ボクは出てきた連中を見回してみる。
その誰もが正面の男と同じような格好をして剣をもっている。
いや、ボクの真後ろにいる奴だけ少しだけ姿が違った。
他の連中よりも頭一つ分小柄でだいたいボクと同じくらいの背で、マントで全身を覆っている為顔はおろか性別の確認もできない。
武器はボクの使っていたナイフより少し大きめの短剣を持っていた。
ちなみにボクのナイフは一本は使い物にならなかったためルーと戦った場所に埋め、一本はルーの尻尾に弾き飛ばされた場所がわからなかったため探すのは断念した。
最後の一本は日常生活なら使えないこともないが戦闘などに使うとすぐに壊れてしまいそうなためバッグの奥底にしまい込んである。
かなり話がそれたので話を戻そう。
ボク達は合計十人に囲まれた状態である。
ボクはボクはルーに視線でここを動かないように伝える。
その間に周りの連中はマントのやつを除きボクとの距離を縮めてきていた。
この9人の持っている剣の間合いは約1mであるため剣の届く距離まで複数人で距離を詰めようとしていた。
対するボクはルー戦でまともな武器をすべて使ってしまったため素手での戦いとなる。
そしてバッグの中で使えるアイテムというと手製の閃光玉くらいだろうか。
なのでバッグから閃光玉を取り出し呼吸を整える。
そして息を吐くと盗賊たちとの距離がある程度詰まったところで目をつむり、閃光玉を地面に叩きつけた。
すると地面に落ち割れた球からまばゆい光が広がる。
その光は目をつむっていたボク以外の目を焼き一時的に視界と正常な判断を奪い去る。
「「「「「「「「「ぐわぁっ!!!」」」」」」」」」
「っ!?」
「ピャッ!?」
周りを囲んでいた盗賊たちのうめき声をあげ、マントのやつが息をのみ、隣のルーがかわいい声を上げた。
(ごめん、ルー。)
とりあえず何も伝えずに驚かせたことを心の中でルーに謝り、目を開けて行動を起こす。
まずは周りにいる9人の無力化である。
ボクはいっきに光で目をやられている盗賊の一人の懐に入りこみ、当身をくらわし意識を奪う。
一人目の意識を奪ったらすぐに二人目へ向かう。
二人目も即座に意識を奪い、三人目、四人目と意識を奪っていく。
そして八人目の意識を奪い最後の一人を狙う。
最後の一人はなんの偶然かボク達に声をかけた男である。
九人目ともなると先ほどの閃光玉による効果は薄れ始め、その男はうっすらとしか見えないながらもボクに対し剣を構えていた。
ボクは足の筋肉に力を込め一気に加速する。
そして男の正面まで進み、男の股間に蹴りを入れる。
男があまりの痛みに前に倒れこむと同時に顎に一撃を入れ意識を刈り取った。
これでボク達を囲んでいた9人は無力化できた。
最後はマントのやつだけである。
ボクはすぐに方向を変えマントのやつに向けて距離を詰める。
マントのやつも同時に駆け出しこちらへ向かってくる。
いっきに相手との距離が詰まる。
相手はそのまま腕を伸ばし短剣を突き刺すように突進してくる。
ボクはその突きを自らのスピードを落とさずに左手を使い右側に受け流しすれ違う。
そしてすれ違う瞬間奴の腹にこぶしを握り一撃を与える。
「カハッ。」
奴は肺の中の空気を吐き出すと同時にぐったりとボクに倒れこんだ。
これで十人全員の一時無力化が完了である。
次に行うのが盗賊たちの拘束である。
毎度おなじみのバッグから拘束用の縄を取り出し縛り上げていく。
順番は主に意識を刈り取った順である。
しばらくは目を覚まさないだろうがもし目を覚ましたらまた意識を狩るのが面倒くさい。
そういうわけで閃光玉で目くらましを使われた後、目が回復したと思ったら戦闘が終わっていたことに呆然としているルーにも縄を渡し二人してテキパキと縛り上げていく。
その間にルーに対し今の戦闘で何をしたか説明していくうちにルーの目が段々とキラキラしてきていたが一度放置する。
9人を縛り上げた後、最後にマントの奴を縛るために抱き起こす。
それと同時に奴のかぶっていたフードがめくれ奴の顔が現れた。
それはボクと同じくらいの年頃の少女であった。
流れるような銀髪で少し薄汚れてはいたがかなりの美少女であった。
そして一番目についたのは頭の上についている、狐のような耳である。
そう、マントの奴もとい少女は獣人であった。
盗賊と思しき9人の人間の男たちの中と1人の獣人の少女。
そんな組み合わせに違和感を覚えボクは一度こいつらの事を聞いてみたくなった。
でも話を聞こうとして襲われたら元も子もないため、ボクはこの少女も拘束していくのであった。




