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ASASHIN  作者: 真鵬 澄也
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第4章-依頼-

 とある一室、二人の男が話している。

「君に頼みたいことがある。この者を始末して貰いたい」

 ある男がそう言った。

 そして、ある男はその写真を取り言った。「カーリー」と

「やってくれるな、君にならできるだろう、カーリーと一・二を争う、ほぼ互角の君になら、シリュウよ」

「‥わかった」



 ……体が重い…

 ああ、そういえば。私…は、痛みを感じるということは、私は生きているのか…。

 体が動かない。『裕希‥』‥誰かが呼んでいる。

 懐かしい声のような気がする。

「裕希」

 誰だろう。重いまぶたを開く

「……」

「…裕希…」

 目に入った人物は、安堵の色を浮かべている。

「‥黒木…」

「はい」

「…勝手に名を呼ぶな」

「はい…」

 クスクスクス。黒木が笑う

「何がおかしい」

「いえ、ご無事でなによりです」

 無事…。そう。

「黒木」

 裕希は起きあがる。

「はい」

「なぜ私を助けた。なぜ私は生きている」

「……」

 黒木は黙っている。

「答えなさい黒木」

 話そうとしない。

「…総頭はどうした。私が生きているのなら生きているだろう。………そう‥だ、あいつは、総頭は、私より怪我が酷いはずだ。そうだな?」

 そう、思い出した。

「……はい、その通りです。貴女は、総頭に庇われていました」

「………」

 ちっ…。

 裕希は、総頭に助けられたことが気にくわない。しかし、本意ではないにしろ、助けられたことは確か。

「…今何時…」

「十一時半です。どこへ」

「学校に行く」

「そんな体で?」

「たいしたことない」

 ベッドから起き上がり、いったん家に帰る支度をする。

 フウッ。ため息をつく。

「黒木、とりあえず礼は言っておく」




 午後一時三十分。

 職員室に行く。

「先生‥」

「おっ。江藤来たな。大丈夫か?これ前中に配ったプリントな」

「はい。じゃ、失礼します」

「あっ、ちょっと待った」

「? なんですか」

「校長が呼んでるからすぐに行ってくれ。授業のほうはいいから」

「はぁ…」

 ガラガラ。ぴしゃん。

「………」

 なぜ校長が私を…。面識もないのに。

 …よくわからないが、行くしかないか。

 コンコン、校長室のドアを叩く。

「一年E組の江藤です。失礼します」

 そう言い、中に入り、校長の顔を見たとき、裕希は息をのんだ。

「…きさま…」

「待っていたよ。江藤君」

「いったいどういうことだ。なぜ貴様がここにいる、総頭」

「そう睨むな、ここの校長と親戚でな、急きょ頼まれたんだ。いわゆる、代理だ」

「…、怪我のほうは丈夫なのか」

「おやっ、心配してくれるのですか? 意外だが、嬉しいですね」

「べつに、ただその怪我は私のせいだからな。それだけだ」

 誰が貴様の心配などするか。

「それよりも何の用だ」

 総頭は、引き出しをあけ、一通の封筒を置いた。

 それは、私が出した退学届だった。

「……なんだ」

「貴女に手は出さない」

「何のことだ?」

「…黒木から聞いていないのか?」

「いや…」

 黒木のやつ、この分じゃまだ何か隠しているな。

「用はそれだけか。では、失礼する」

 裕希が去ろうとしたとき、総頭が言った。

「私の名は、東条院 秀之だ」

 裕希も思い出した。

 父親の死因を知りたかったのだ。

「…私も聞きたいことがある、父の死因は何だ?」

 東条院は答えない。その代わり、一通の封書を出した。

「洋一氏から預かったものだ」

「……」

 裕希は封筒を取り、部屋を出た。

 三年の教室。

 宮内は、裕希が屋上へ行くのを見かけた。このとき、怪我をしているこにに気づく。気になり、後を追おうとしたとき、顧問に呼び止められる。

「宮内」

「先生、何です?」

「ああ、江藤裕希って子がいただろ?」

「はい、江藤さんがなにか」

「実はな、退学が取り消しになったんだ」

「…ほんとですか?」

「ああ、それでな、彼女に会ったら部に戻るか聞いといてくれ」

「わかりました」


 裕希は、屋上で手紙を読んでいる。

『愛する娘 裕希へ

 この手紙を読んでいるということは、東条院と会ったのだな。ハッキリ言って、どう話したらいいのか私には分からない。東条院から初めてお前のことを聞かされたとき、正直言ってショックだったよ、同時に悲しかった。けど、お前を責めることは私にはできない。お前を騙していたことにはかわりはない。私は、お前から逃げていた。どう接したらいいのかわからなかったのだ、手紙を書くのも迷った。なぜお前が、暗殺者をしているのか、そうなってしまった理由を知りたい。

 ゆっくりと、お前と話がしたい。もう一度、お前をこの腕に抱きしめたい』

「……」

 ポタッ…。

 涙がこぼれる。

「うっ………」

 グシャリ…。手紙握りしめて声を殺して泣いている裕希の姿を、宮内は、声をかけずに去った

 屋上にいる裕希の姿を、あるビルの屋上からシリュウが見ている。

「‥あのカーリーが学生だったとはな、意外だったな」

 裕希は視線を感じ、その方向を見る。

 数秒、じっと見つめ合うが、シリュウが目を離す。

「……なんだったんだ」

 殺気を感じなかったので、気にせずに下に降りる。

「さすがだな、ただの視線でも気づくのか」

 ―と、シリュウは呟いた。

 裕希は保健室に行く、黒木に一時ぐらいに包帯を換えるように言われたのだ。

 ガチャッ。

「先生、包帯と消毒液下さい」

「んー? どうかしたのか」

「いえ、医者に時間がきたら換えるよう言われたので」

「そか、ちょっと待ってな」

 保健医は椅子から立って、包帯と消毒液を出して裕希に渡した。

「…?」

 勝手に私がやっていいのか?

「悪いな、これから行かなきゃならないところがあるんだ、すぐ戻ってくるから留守番頼むな」

「はぁ…」

 そう言って保健医は出ていってしまった。

 なんだかな‥いいのか生徒にまかして、よくわからんやつだ。

 まぁ、私にとっては都合がいいが。

「…ょ、いてて…」

 制服を脱ぎ、傷口を消毒する。

「……」

 傷を見て‥

「…無様だな‥」

 と呟いた。

 包帯も換え終わったころ、斎北が入ってきた。

「先輩…どうしたんですか? 怪我したんですか」

 斎北は手を切っていた。

「ああ、先生は」

「今出てます。留守番頼まれたんです。私が手当しますから、ここに座って下さい」

 消毒液はあるので、ガーゼと新しい包帯を棚から出す。

「‥ちょっと深いですね。いったい何したんですか? とりあえず止血だけしときますね」

「ありがとう…」

 それ以上何も言わない、何か言いたそうなのはわかった。

「なんですか?」

「‥その怪我、どうしたんだ?」

「…たいしたことありません。心配しないで下さい」

 まずいときに会っちゃったね。

「退学取り消しになったんだってな、部のほうはどうするんだ?」

「…まだ、わかりません。すみません」

「あやまることはない」

 ガチャッ。

「おや、客が増えてるな、悪い悪い」

 保健医が帰ってきた。

 保健医は斎北の傷の具合を見て言った。

「こりゃ医者に行ったほうがいいな。斎北、担任には言っておくから帰っていいぞ。あと江藤もだ、校長が傷に障るから帰るようにと言っていた」

「…はい」

 よけいなことを…。

 いったい何のつもりなんだ。なにを企んでるんだ。

「裕希ちゃん、今の校長と知り合いなのか?」

 ほら、面倒なことになったではないか。

「…まぁ」

 不本意だが、怪しまれると困るからな。

 それより、

「先生は校長先生のところに行っていたんですか?」

「ああ、今月の報告書を渡してきたんだ」

 この男信用できないな、なぜ私のことを知っている。名のっていないのに、私のカルテはないはずだ。

 アイツの犬か…?

 そうか、あたり前か。あいつは裏国の総頭だったな。

「じゃ、裕希ちゃん、一緒に帰ろうぜ」

「はい」

 黒木のところに行ってみるか。


「先輩、ヘルプに行くんでここでいいです」

「そうか? 一人で平気か」

 !。

「平気ですよ。意外と心配性ですね、斎北先輩は」

 クスクスクス。

 ほんとに、そんなことを言うのは、知らないとはいえ、黒木と貴方たちだけですよ。まったく。

「人による」

「……!」

 プっ。

「あははははっ!」

「なにがおかしいんだ?」

「くすっ‥いえ。やっぱり似たもの同士だなぁと思いまして」

「誰と誰が」

「斎北先輩と宮内部長」

「健悟と? なんでだ」

「同じこと言うんですから」

「…あっ…」

 クスクス。

「人のこと言えませんね。先輩?」

「‥気を付けて帰れよ、じゃあな」

「はい、ありがとうございます」

 斎北は、少し赤ら顔で病院に向かって行った。

 くすくす。まいったなぁ、どんどん違う顔が見えてきちゃって、突き放そうにも突き放せないじゃないか。

「…まいったな」



 キィー。

「いらっしゃいませー」

 店員の声が響く。

「お席のほうは」

「カウンターに行きますので」

「はい」

 まだ三時頃なので客はいるが、仕事のことじゃないので気にしない。

 カウンターに座る。

 直接黒木に注文する。制服なので酒は飲まない。

 コト‥、グラスを置く。

「どうしたんですか? こんなに早く」

「東条院に無理やり帰らせられたんだ」

「え? どういうことですか」

「こっちが聞きたいよ、奴は、親戚の代理だと言っているがな、まぁ、これはホントだろうな。黒木は何も聞いていないのか」

「いえ何も。どういうつもりなんでしょうか」

「さあね、それより…戻らなくていいのか?」

「…戻れと言われるまで戻る気はありません」

「…そうか‥」

 裕希は分かっていた、東条院は黒木を放さないと、このことは黒木には言わない。黒木もわかっているだろう。

 店がクラブに変わる時間がきたので、帰ることにする。しばらく仕事はしない。

「じゃあね」

 店を出る。

 このとき宮内と合う。どうやらバイトの日だったようだ。

 今日は運が悪いな。

「今晩は部長。これからバイトですか?」

「ああ」

「頑張って下さい。じゃ、失礼します」

 軽く言葉を交わして去る。

 店に入った宮内は、黒木に言った。

「今の子と、お知りあいなんですか?」

「ああ、君の後輩なんだって?」

「はい。可愛い後輩です。でも、最近元気がないのが気になるんですが、店長は何か聞いてませんか?」

「いや」

「そうですか」

「………」

 黒木は、裕希をこのままあの高校においておくのは危ないかもしれないと思っていた。

 家に入ろうとした裕希は、またあの視線を感じた。

「………」

 この間は気にしなかったが、二度も感じるということは、明らかに私をつけている。殺気は同じく感じないのだが。

 ハッキリと断定できないが、何となくわかった。黒木には知らせない。

 

 早朝、東条院のところに行く。

「東条院っ。私のことは本当に誰も知らないのか」

 東条院は、いきなり入ってきた裕希に驚くが、椅子に座る。

「そうだが。なにかあったのか?」

「昨日からつけられている、殺気はないが」

「黒木には言ったのか?」

「いや」

「なぜだ」

「言う必要もないだろう、これは私の問題だ」

「ならばなぜ私に言いに来た」

「勘違いしてもらっては困る。お前達のほうが要素が多いからだ」

「ふむ、断言しよう、私はそんな命令を出してはいない」

「…そうか」

 こいつの目は、嘘を言っていない。とすると誰だ?

 考え込んでいると、東条院が言った。

「調べるか?」

「…いや、そんな必要はない、無用だ。待っていれば向こうから仕掛けてくる。それを待つ」

「無茶はするな」

「…なぜ私にこだわる」

「君を失うわけにはいかないと言ったはずだ。それと、洋一氏から君のことを頼まれているからな」

 父さんが…。

 裕希は驚きを隠せない。

「変に誤解しないでほしい、洋一氏に頼まれたから生かしているのではない、私が君を気に入ったからだ。バカバカしい話だろ?」  

 フッと、裕希は笑い、

「だな」

 ―と言った。

 そして

「依頼をしたのが、裏国の者だったら知らせるよ」

 そう言って出て行った。

 屋上に行く。

「…足を洗うつもりだったけど、しばらくは無理そうだ」

 ハッ…。

「江藤さん」

 不意に、誰かに声をかけられる。

 振り返ると、この間部室に来て映画がどうのと言っていた人だ。

「なにか?」

「実は君にも出て欲しいんだ、この映画に」

 はぁ?

「あの、私、部は辞めたんですけど」

「そんなの関係ない」

「でも、困ります」

 そう言っているのにもかかわらず、先輩は、無理矢理台本を裕希に押しつけ、

「ヨロシク」

 と言って、行ってしまった。

「……」

 裕希は呆気に取られて言葉が出ない。

「…な…なんなのいったい」

 なんて無責任なヤツだ。

「……!」

 視線。またあの視線だ。

 視線の先を見る。

 …頭にきた…。

「いい加減にしないか、かかってくるならさっさとかかってこいっ」

 と、思わず言ってしまった。

 いかんいかん、ここは学校だ。

「しかし、困ったな」

 裕希は下に降りた。


 ビルから見ていたシリュウ

「お言葉に甘えて、かからせてもらう」


 授業中、誰かが何だあれと言った。

 最初、裕希は気にしなかったが、皆が騒ぎ始めたので外を見る。

「なんて書いてあるんだ?」

「K・I・L・L、by DG:なにこれ」

「……」

 KIIL、byDG……。殺す、DGより。DR、ドラゴン。ドラゴン=シリュウ。私と同じ暗殺者だ。コードネームはシリュウだがドラゴンが正式の名だ、このことを知っている者はいない。私がなぜ知っているのか?

邪の道はヘビってね。

 しかし、噂は本当のようだな。予告を出すというのは。

「‥変わってるわ‥」

「ホンとよね、何だと思う? 裕希」

「えっ?ああ、何だろね」

 まず、思わず声に出してしまった。

「………」


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