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ASASHIN  作者: 真鵬 澄也
11/11

第10章-決着-

 近くのバイクショップで買う。

「いらっしゃいませ、どんなものをお求めですか?」

 男の店員が聞いてきた。

「うーん、音が静かなのあります?」

「種類は」

「四百」

「え、四百。ですが、お客様には大きすぎるかと」

 店員は驚いたように言う。

 前のバイク買ったときも言われたな。

「大丈夫。前のもそうだったから」

「そうですか。…では色は」

 本当なら赤が好きなんだけど、目立つから、

「黒で」

「かしこまりました。そうしますと、この型がよろしいかと」

 そう言って、パンフレットを見せてくれた。

 その中に、前のやつと同じ型の物があった。

「…この中で、一番動きやすいのは」

「えーと、これですね」

 店員が指したのは左から二番目のバイクだった。

 良かった、同じ型じゃなくて。

「わかりました。これを下さい。いくらですか」

「ありがとうございます。しばらくお待ち下さい」

 店員は奥に行った。

 裕希は時計を見る。

 −8時20分か。

このあとアジトに行って、北村のことを調べあげると夜中になってしまうな。

 奴が一人なら簡単なんだが、そうもいかないだろう、シリュウが死んだことを聞いてるはずだ、居所を変えただろう。

 実行するのは夜中だ。

 しかし、今夜は無理だな、勇み足過ぎると良くないしな。

 明日…、だな。

 店員が戻ってきた。

「お待たせしました。132万4千円になります。お支払い方法は」

「カードでお願いします。一括払いでいいです」

 店員にカードを渡す。

 そんな裕希に、店員は目を丸くする。

 あたりまえだ、普通ローンで買うのが一般的で一括払いなんてめったにいない。

 店員は、カードを受け取り裕希の横で作業をする。

「……」

 不正がないようにか。

 ピリピリピリ。

 領収書を切る。その領収書と一緒にカードを返す。

「では、必ず口座をお確かめ下さい。ありがとうございました」

 バイクに乗り、走り出す。

「ありがとうございましたっ」

 アジトに向かう途中、ガソリンを入れる。

 確かに、乗り心地はいいな。

 午後九時十一分。

 アジトに着く。

 フゥー

 バイクをおいて、エレベーターに乗ろうとしたとき、管理人さんに呼び止められる。

「ちょっとカリさん」

「はい」

 カリという名で借りている。

「昨日の夜、貴女のお兄さんがいらしたわよ」

「えっ」

 お兄さん?

「カッコイイお兄さんね」

「はぁ、どうも」

 私に兄はいないぞ。きっと黒木だな。

 まったく、よくやるよ。

 部屋に戻り、とりあえず上着を脱いだ、包帯を取り替える。

 傷口を見つめる。

「……」

 こんな怪我さえなければ、とっくに奴を殺せたのに。アイツさえ邪魔しなければ、…くそっ。

 …フゥ。

「どっちにしても明日だな」

 奴の居場、自分の足で捜さなきゃ。


 ブウォンッ。

 翌朝といっても午前十一時半

 行動に移す。

「…まさかこの私自ら、聞き込みするとは前代未聞だ」

 まっ、最後だから我慢するか。

 今日の服装は、黒のスーツに白のチャイナ風のシャツ、そして黒のジャケット、ファスナー式のね。でなきゃ銃が見えてしまうからね。

 化粧はしてる、もちろんサングラスも忘れずに。




「すいません。ちょっとお聞きしたいんですけど」

 以前住んでいた周辺で聞き込みを開始する。

「なにかしら?」

 斜め向かいの住人らしき女の人に聞く。

「そこに住んでた北村さんなんですけど、引っ越ししたんですか?」

「さぁ、でもここ最近見ていないわねぇ」

 おばさんが首を傾げていると、

「美土里町じゃない?」

 と、別の人がきた。

「あなた知ってるの?」

「ええ、たしか美土里町にある別荘に行くって、知り合いらしき人たちが話してるのを、聞いたのよ」

「ずいぶん遠くに行ったのねぇ」

 美土里町。

「そうですか、ありがとうございました」

「いいえぇ」

 裕希はお辞儀をしてバイクに戻る。

 美土里町にいるのか。

 美土里町は、ここから十キロぐらい離れた町だ。

 別荘とか言ってたな、たぶん登録はしていないんだろう。

 登録してあれば一発でバレるからな。

 さて、と、奴の居場所もわかったことだし、お昼でも食べに行くか。

 ブオン。走り出す。

 美土里町まで、一時間ちょっとで行ける。


 裕希が昼ご飯を食べているとき、探偵部の四人は、顧問から裕希が退学したことを聞かされていた。

「先生、どういうことなんですか。退学は、取り消しになったんじゃないんですか?」

 あや子が言う。

「一度はそうなったんだがな。実は私も良くわからないんだ。校長が受理したそうなんだが」

「校長先生が?」

「ああ」

「今日は来てますか?」

 斎北が聞く。

「あ、ああ、ってこらお前たち、どこに行くっ!」

 顧問がしゃべ終わる前に、四人は校長室に向かって走り出していた。

「話聞いてもらえると思うか」

 走りながら宮内が聞く。

「無理にでも聞いてもらうさ」

 斎北が応える。

 校長室前。

 コンコン。

 ガチャ。

「失礼します」

 あや子が一番にに入る。

 つづいて宮内、斎北、水野とつづく。

「何かね。何かあったのかい」

 東条院は表情一つ変えずに言った。

「突然申しわけありません。私は三年A組の宮内健悟です」

「C組の斎北貢です」

「F組の水野聖です」

「E組の名倉あや子です」

 次々と挨拶をしていく。

 そして東条院も、

「私が、校長代理の東条院だ」

 宮内が切り出す。

「単刀直入にお聞きします。今更なぜ、江藤裕希さんの退学を受理なさったんですか」

「なぜって、君たちに関係あるのかな」

「部の後輩です」

「部は辞めたと聞いたが、違うのか?」

「……いえ、本当です」

「だったら関係ないんじゃないのかな」

 東条院の言っていることは当たっている。

「…校長先生は、裕希さんの知り合いなんですよね」

 あや子が話し出す。

「そうだか」

「親友の娘が学校を辞めるんですよ、平気なんですか?」

「いくら親友の娘だからとはいえ、本人が望んだことだ。私にはどうすることもできないんだよ」

「だったらせめて、理由を教えてくれませんか」

「…今頃それを聞くのかね? 君たちは知っているはずだ、それに、本人から聞いているはずだが」

 東条院は知っているのだ。裕希が自分の正体を話したことを、黒木から聞いたのだ。

「……え、聞いてません、けど」

 あや子が言った。

 スイッ…。

 斎北が前に出る。

「校長、貴方は知っていたんですか」

「貢?」

 あや子が怪訝な顔で言う。

 宮内と水野は黙って見ている。

「‥だとしたら?」

「辞めさせようとは、思わなかったんですか?」

「思わないね。彼女が好きでやっていることだ」

「死んでも? 平気なんですか」

「えっ。 ちょっと何言ってるの? 裕希ちゃんが死ぬですって?どういうこと?」

 斎北にあや子がつめよる。

「この間、裕希ちゃんが俺たちに言ったことは本当のことだ」

「…! そんな」

 愕然とするあや子。

「…彼女にとって、君たちは危険な存在だ」

「どういう意味ですか」

「そのままの意味だ」

 コンコンッ。

 途中、誰かが来た。

 ガチャ。

「……あ、お話中でしたか」

「かまわん、この者たちは知っている」

「はい」

 入ってきたのは、榊だった。

「榊、先生?」

 四人とも、驚いている。

「報告いたします。北村は昨日、美土里町に引っ越しました。この他に変わった様子はありません」

「家には」

「はい、一歩も出ていないようです」

 クッ。

 東条院が笑う。

「馬鹿な奴だ。おそらく裕希はもう、居場所を突き止めているだろう」

「おそらくは。あの方なら簡単でしょう」

 東条院と榊、二人の会話に茫然と聞いている四人。

「下がっていい」

「失礼いたします」

 ガチャ。

 パタン。

 榊は戻っていった。

「榊は、私の部下なんだよ」

「部下? いったい貴方は」

「さて、裕希のことだが、彼女のことは忘れてくれないか」

「そんな…」

 シクシク…。

 あや子が泣いている。

 ガチャ…。

 宮内がそっと促す。

「‥俺は、忘れることはできません」

「………」

「殺し屋が、本当の彼女だとは思いません。何か、理由があるんだと思います」

 じっと斎北を見る東条院。

「知りませんか」

「…いや、私も知らない。これは本当だ」


 美土里町。

 裕希は北村の家の近くの喫茶店にいる。

 その喫茶店からは北村の家が見える。

 軽い昼食をとりながら、じっと様子を見る。

 近所の人の話だと、家にいるようだ。

 午後一時をまわったところだ。

 カチャン…。

 コーヒーを置く。

「……」

 どうするか、夜まで時間がありすぎる。

 …事を、早めるか。

 とすると、どうやって中に入るか。

「…………」

 カタ…。

 席を立ち、トイレに行く。

 パタン…。

 バックから携帯を取り出し、北村の家にかけた。

 プ、プルルルル・プルルルル‥

 ガチャッ。

『もしもし』

 男の声。

「私、裏国の者ですが、北村様でいらっしゃいますか?」

『ああ、そうだが何か』

「はい。総頭、東条院様から貴方様にお渡しするよう頼まれたものがございます。近くまで来ているのですが、そちらへお伺いしてもよろしいでしょうか」

『…分かった。鍵は開けとくから勝手に入って、置いていってくれ』

「かしこまりました」

 プツ‥。

 電源を切る。

 フッ。

 裕希が笑う。

 馬鹿な奴だ‥。

 頼まれた物などあるわけがない。

 あるといえば、鉛玉をくれてやるぐらいだ。

「行くか」

「ありがとうございました」

 喫茶店を出て、北村の家に向かった。

 北村の家の周りには、木々が茂っている。

 ガチャッ。

 玄関を開け中に入る。

「失礼いたします」

 と言いながら周辺を見渡す。

 シンとしているが人の気配はする。

 二階…か。

 キィ…、パタン。

 出た振りをする。と同じに気配を消す。

 懐から銃を出しながら、二階へ上がっていく。

 ボディガード達はいないらしい、一つの気配しかしない。

 気配のするほうへ行く。

 扉が閉まっている。

 息を整えてドアノブに手をあて、そっと開ける。

 スー…。

 椅子に座っている姿が、目に入った。 

 銃口を向け、

「…北村英夫だな、こっちを向いてもらおうか」

「!だれ、だ」

 電話の声と同じ。

 本人か。

「シリュウを知ってるか?」

 バッ!

 奴が振り向く。

「おまえはっ!」

 ビクッ!

 銃を向けられていることにビクつく。

「お前え、は、カーリー…」

 くす。

「はじめまして、北村英夫さん?」

「どう…して、ここ、が」

 声が、震えている。

 ニッ…。

 そんな奴の姿を見て笑う。

 それは余計に恐怖心をかきたたせる。

「た…、助けてくれ。何でもする。命だけは、金ならいくらでもやる。な?」

「………」

 こんな小さい男なのか、こんな男に、父さんは殺されたのか。

 裕希の胸の中に、失望感がよぎる。

 チキ…。

 撃鉄を引く。

「! まっ、まってくれっ」

「………」

 こんな奴にっ!

 グッッ!

 引き金を引いた。

「!…っ」

 ドタッ…

 男が倒れる。

 銃弾は、奴の眉間に命中した。 

 北村は死んだ…。

 なんという呆気なさだ…。

 その場に立ちつくす裕希。

 裕希の中に、ある感情があがっていった。それは、失望感ではなく、無力感に近いものだった。

 …ぽた……

 涙が頬をつたう。

 目を伏せる。

「…まだ、まだ泣くな」

 部屋を出、家を出る。

 バイクのところへ行く。

 携帯電話を出し、東条院の携帯にかける。

 その間も涙があふれる。

 プルルルル・プルルルル。


 ピッ・ピロロロロ・ピロロロロ。

 東条院の携帯が鳴る。

「ちょっとすまない」

 ピッ。

「はい……誰だ?」

『……私だ』

「! 裕希っ」

 東条院の言葉に斎北がかけ寄る。

『…仕事は済んだ、…後始末は頼んだよ』

「……わかった。今どこにいる」

『………』

「裕希?」

 プツッ。

 切れる。

 プー、プー、プー。

「……」

 裕希…。

「校長?」

 斎北が聞く。

「…切れたよ」

「え…」

「二度と…彼女に会えないかもな」

「そんな」


 途中で、電話を切った裕希。

 ギュッと、手を握る。

 涙が止まらない。

 うっ…。

 父…さん、父さん、なんで…、なんで私、生きてんのかな…。

「ねぇ、なんでかな‥」

 もう…、生きてる意味、無くなったのに。

 …これから……

「……どうしよう……」



 この後、裕希は姿を消した。

 生きているのか死んでいるのか、それは誰にもわからない…。

 ただ、誰もが願っていた、生きていることを。











 

 −−−2年後−−−


 裏国総本部、東条院の部屋。

「総頭っ」

「なんだ」

「カーリーを見付けたという報告がっ」

「! どこだ」

「アメリカ・ニューヨークですっ!」










                     -END-

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