表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ASASHIN  作者: 真鵬 澄也
10/11

第9章-別れ-

 -裏国総本部

 東条院の部屋。

「総頭、ほんとに裕希さんと切るおつもりですか」

「………」

 東条院は応えない。

「江藤様との約束は、どうなするつもりですか」

「……洋一との約束は守る」

「では」

「ただし、生活費の工面だけだ」 

「え。それでは、仇をという約束は」

「彼女も言ったであろう、今回のことは仇ではないと」

「しかし」

「黒木、情を入れすぎだぞ。少し頭を冷やせ」

「……わかりました」

 黒木は部屋から出ていく。

「………」

 総頭のおっしゃることはよくわかる。だが、裕希さんにもしものことがあったら、約束は守れないんですよ。そのことは貴方もわかっているはずです。総頭。

 裕希さんは、死ぬことなんて何とも思っていないんです。むしろ…、死にたがっているんです。今までは江藤様が、父親が生きていると信じていたから生きていたんです。ですが、父親がいない今は‥。

 だからこそ、我々が歯止めにならなければならないはず。

「総頭、そうではないのですか?」

 …まだ、何か隠してらっしゃいますね。

 裕希さんの傷の具合が気になりますので見に行きます。

 途中、榊とすれ違う。


 コンコン。

 榊が扉をノックする。

『誰だ』

「私です」

『入れ』

 プシュウッ。

 東条院が言ったと同時に、扉が開いた。

「失礼します」

「…北村の様子は」

「今のところ変わった様子はありません」

「北村から目を離すな。シリュウが殺されたことを知るはずだ。奴もそう馬鹿ではない、次に殺されるのは誰かわかるはずだ」

「わかりました。随時、報告いたします。失礼します」

 プシュウ。

 榊は部屋から出て行った。

 東条院は、椅子に座ったまま窓側に向きを変えた。

「……」

 洋一…、これで良かったのか…

『……洋一、なぜ本人に理由を聞かない? 家に帰っていないそうではないか』

『秀之、俺は怖いんだよ』

『怖い?』

『ああ、あの子の顔を見るのが怖い。自分がアサシンだと、父親に知られたとわかったら、あの子はきっと、私の前から姿を消してしまう。それが怖いんだ』

『洋一‥』

『…秀之、頼みがあるんだ』

『なんだ』

『もし、俺の身に何かあったら、あの子を頼む。仇だけは討たせないでくれ』

『わかった』

『ありがとう。あともう一つ俺の我が儘を聞いてくれ』

『なんだ?』

『‥なぜアサシンなどになったのか、アサシンになる者達の理由を知っているだけに、わからないんだ。私は:あの子を死なせたくない…。秀之、あの子を死なせないでくれ。でも、あの子のしたいようにさせてくれ』

「…洋一」

 お前が死んでから、まだ一ヵ月しか経っていないんだな。

 まるで何年も前のことに思える。

 洋一。

「このままでは娘は死んでしまうぞ」

 東条院は空を仰ぎ洋一に言った。



 黒木は裕希の家に来ている。

 ピンポーン、ピンポーン…。

「……」

 さっきから何度も押しているが、返事がない。

 出かけたのか……?

 いや、あの傷で出かけられるわけがない。

 あの人のことだ、出るのが面倒なのかもしれない。

 そう思い黒木は、玄関まで行く。

 ノックをする前にドアノブを一応引いてみた。すると、

「…っ!」

 カチャ…。

 扉が開いた。

「……」

 そうっと中へ入っていく。

「…裕希さん?」

 リビングにはいないので、キッチンの方へ行くと、テーブルの上に伏せっている、裕希の姿が目に入る。

 近くにより様子を見る。

 裕希は、ぴくりとも動かない。

 スゥ−、ス−…

 熟睡しているようだ。人が入ってきたことに気づかぬほど。まあ、不穏な気配じゃないからというのもあるが。

 そっと裕希の額に触る。

 ……熱が‥。少し高い。

「ここじゃ良くないな」

 下がるのも下がらない。

 …カタン。

 黒木は、そっと裕希を抱き上げ、二階へ運んだ。

 裕希をベッドに寝かしたあと、下へ降りる。すると、リビングのテーブルの上にコーヒーカップが五つ置いてあった。

 誰か来たのか、五つのうち一つは裕希さんのだろう。あの人はまたコーヒーを飲んだのか、あとの四つは‥四にあてはまるものは、ああ、あの探偵部の人たちか。

 あの人達とはどう決着をつけるのだろうか、あとで聞いてみよう。


 黒木が来てから二時間後。

 午後七時半過ぎ。

 フッと、裕希は目を覚ました。

「………」

 ここは‥、自分の部屋:か。

 自分の…。

「……!」

 ガバッ。

 飛び起きる。

 自分の部屋だって?

 たしかキッチンで眠ってしまったはずだ。

 誰かがここまで運んだ?

「………」

 考えられるのは一人、こんなことをする奴はアイツしかいないだろう。まったく。

 そっと、ベッドから降りる。

 薬が効いたのか、熱はほとんど下がった。

 パソコンのほうへ行く。

 東条院が来ていた…

何もしていないだろうけど、一応大事なやつは持っているが。

 そう思いながら周りを見る。

 すると、何かが無いのに気づく。

「………、シリュウが置いていったフロッピーが無い…」

 見たのか?…、東条院はあれを見たんだ。パスワードの部分も。

 そして持ち帰った。

 フゥ…。

「コピーでも取っとくんだったな」

 さて、アイツの顔を拝みに下に降りるか。

 トントントントントン…。

 リビングに行くと、そいつがいた。

 そいつは、銃の手入れをしていた。

 ハァー。

 ため息をつく。

「黒木、何をしているんだ。そんなもんリビングでやらんでくれ、しかも人の物まで」

「‥裕希さん、熱はどうです?」

 裕希の言ったことなど全然気にしてない様子。

「ああ…ほとんど下がったよ、薬飲んだからね」

「それは良かった」

 黒木は、少し笑って言ったあと、また、手入れし始める。

 呆れて見る裕希は、額に手をあて言った。

「黒木、なぜ戻ってきた。お前たちとは切ったと言ったであろう」

 黒木は手を止めた。

「…総頭は、貴女を死なせない、仇は取らせないと言っておきながら、貴女と手を切った。その理由がわからないんです。なぜ今になって」

「そんなの簡単なことだ。父さんとの約束を、あれほどまでに守る奴だ。だったら答えは一つ、最後にもう一つ、頼まれたことがあるんだろ」

「どんな…」

「さてな、まぁ、大体予想つくけどね」

「……」

 黒木は黙ってしまった。

 裕希は黒木に冷たく言う。

「悩む必要はない、貴方には関係の無いこと。早く帰るんだね、店も、休んでられないだろう」

 言い終わると同時に、二階に着替えに行く。

 今度は、ちゃんと調べてから行かなければ、面が割れているからまた変装しないと。

 このチャイナドレスは、血でダメになったから何を着るかな。

 クローゼットの中を覗く。

 うーん。

 ああそうだ。バイクを買わなきゃならないから、やはりパンツルックだな。

 そうすると、ジーパンか。まともな格好でバイクは目立つからな。

 黒のジーパンに、黒のTシャツ・ジージャンでいいな。この格好していけばいいだろ、ちょうど胸の包帯も絞めるし。

 着替え終わり、偽造カメラ(これはウォークマンを改造したもの)を出す。

 ナイフは靴に仕込んであるからいいとして、銃はどうするかな、左肩は無理だし‥右肩に掛けるか。

 銃を右脇にしまう。

 髪は濡れた感じにする。

 サングラスをかけ、下に降りる。

 黒木は…、いた。

 玄関に立っていた。

「出るんだったら出て」

「一つだけ、聞いてもいいですか」

「……なに?」

 靴を履きながら応える。

「あの人たち、探偵部の人たちはどうするんです?」

「ああ、そのことなら平気」

 ガチャッ。

 玄関から出る。

 カチッ。

 鍵を閉める。

 歩きながら話す。

「平気?」

「ああ。バラした」

「……!」

 黒木はギョッとする。

 信じられない顔をする。

 裕希はクスっと笑った。

「信じてないみたいだったけど。なんたって、笑い飛ばされてしまったからな」

 笑っている裕希を見て黒木は、

「なぜ平気でいられるんです。もしかしたら信いてない振りかもしれないんですよ」

 と言った。

「…いや、あれは本当に信じてない。ああでも、一人だけいたな」

「誰です?」

「斎北さんだ。どっちが本当の私なんだと言われたよ、信じる信じないは関係ないんだ、言っても言わなくても、どっちにしろここを離れるんだからな。だったらスッキリしてから行こうと思ってな」

「……どこへ」

「さぁね、まだ決めてない。さて、これで本当のお別れだ、二度と家に来るんじゃないよ、アイツがいい顔しないだろ。それと、アイツにこれ渡しといてくれ」 

 そう言って出したのは、退学届だった。

「一応出さなければならないからな。それじゃあね」

 黒木に背を向け、歩き出した。

 その後ろ姿を見つめ黒木は叫んだ。

「裕希さんっ、死なないでくださいっ!」

 -と。

 もちろんこの声は、裕希に届いた。

「……さぁね」

 裕希は、ポツリ、そう呟いた‥。

 黒木は、結希の姿が見えなくなるまでそこにいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ