〜はじまり〜
小説の中には「死」「血」「怪我」等、軽くではありますが出てきます。
苦手な方はご注意ください。
もう四月だというのに、今日の寒さはいったいどうしたものだろう。
今にも雪が降ってきそうな空。
私、江藤 裕希、十六歳。
やっと中学を卒業して今日から高校一年生だ。
前の晩、一通の手紙が届いた。父からだった。
『親愛なる娘、裕希へ。
高校入学おめでとう。すまないが今年もどうやら帰れそうにありません。おまえにはいつも寂しい思いをさせてすまない。私も早くおまえに会いたい。なるべく早く帰れるようにします。くれぐれも体に気をつけて、高校生になったからといってあまり夜遊びをするんじゃないぞ。
父より』
ーという内容だった。
私の父は一等航海士で船長をしています。だから一年のほとんどが海の上です。家に帰ってくることは早々はありません。でも、こうやって月に一度手紙を送ってくれます。寂しくないと言ったら嘘になりますけど、私としては今の状態のほうが嬉しいのです。父には悪いですけど。
実は私、学生は副業なんです。そうすると、え、じゃあ本業は何?と思いでしょう。人には決して言えないことなんです。怪しい仕事じゃないですよもちろん。このことを知っているのは一人しかいません、私専属の仲介屋だけ。
私は「カーリー」という別の名を持つ暗殺者なんです…。
高校に入ったら、絶対に入ろうとしていた部活がありました。
いったいこの部活がある高校を、どれだけ探したか……。
放課後その部活の前に行く。
コンコンッ、っと、ドアを二回叩く。
すると、カチャっとドアを明けて出てきたのは、ものすごい美人の三年生のお姉さんだった。
そのお姉さんは私を見て、
「もしかして、入部希望者?」
と、これまた奇麗な声で言った。
私はちょっと緊張して、
「ハイッ」
と、応えた。
「中へどうぞ」
そういわれて中へ入ってみると、何と私のほかにもいっぱい、入部希望者の一年生がいるではないですか。
男と女、半々くらいかな。そんなに人気があるのかなぁと、思っていると、
「それゃあ」
そう言って話し始めた人を見た瞬間、あたしはわかってしまった、みんなの入部動機が、だってカッコイイんだもの、ここの部の人たち、女の先輩は美人だし。
この人達が目的だと、一目瞭然。
まったく、本気で入部したいと思ってるあたしは、どうなるのって感じよ。
「入部動機がどうであれ、入部テストに合格しなければ、入部することはできないからそのつもりで。ちなみに俺は、部長の宮内健悟だ」
入部テスト……ねぇ。
そりゃぁ、まっね。すんなり入らせてくれるとは、思ってなかったけどね。
どんなテストだろうと思っていたら、別の先輩がしゃべった。
「そして俺は、副部長の斎北貢だ。テスト内容はデスクワーク担当の水野聖から聞いてくれ」
クス。
この人が一番人気とみた。私の勘だけどね。
「代わりの紹介どうもありがとう。テスト内容は、知力・体力・瞬発力の三つだけです。そんなに難しいものじゃないから、地力は暗記・種類判別、体力はマラソン、女子は十キロ、男子は十五キロです。頑張ってください」
それを聞いた瞬間、希望者の一人がおどおどしながら言った。
「すいません、あたしやっぱりやめます」
そう言って、出ていってしまった。
すると、ほかの子達も次々と、僕も私もといって出ていってしまった。
気が付くと、私だけになっていた。
部屋の中は静まり返っている。
沈黙を破ったのは、斉北副部長だった。
そして、沈黙を破った一言が、
「根性ねぇな」
だった。
顔のわりに、けっこうキツイ性格とみた。 まぁ、確かに私もそう思うけどね。
次に口を開いたのは美人な先輩、名倉あや子さんだった。
「別にいいじゃないの。いつものことじゃない。あなただって悪い気はしないでしょ、あんな可愛い子達に慕われて」
「まぁ…な、でも、好かれるってのも大変だぜ?あや子はどうなんだ?」
「あたし? あたしは別に平気よ、だってみんな可愛いじゃない」
「あ、そ」
そう言って、斎北副部長は奥の部屋に行ってしまった。あたしのことなんてすっかり忘れてるみたい。なんか存在を無視されたみたいで、ちょっとムっときた。
でもあたしのことを気付いててくれた先輩がいた。宮内部長と水野先輩だ。
「残ったのは君だけだね、名前は?」
「はい。一年E組 江藤裕希です」
「じゃあ、江藤さん。これからテストやろうと思うけど、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
「じゃ、聖。あと頼む」
「オーケイ。それじゃあ江藤さん、今から十分後に、体操着に着替えてグラウンドに」
「わかりました。じゃ、失礼します」
教室にはもう誰もいない。
ちょうど今、午後三時をまわろうとしている。
こんな時間ではみんな帰ってしまっている、部活に入る人達以外は。
着替えが終わり、教室を出る。そして長い渡り廊下。
この渡り廊下は、三つの名前をもっている。
それは昼と夜、昼の時は「キューピット・ロード」これは、お昼休みになるとカップルが多くなることから、つけられたのだそうです。そして、夜の名は「オレンジ・ロード」夕方になるとこの渡り廊下全部が、夕陽で染まることからつけられたそうです。
たしかに、夕陽に染まったこの廊下はすごく奇麗だ。
グラウンドには、水野先輩だけがいた。
「じゃ、始めるよ。タイムとの勝負だからね」
ピストルを構える。
「よーい…」
水野先輩のかけ声がかかり、
パーンというピストルの音とともに、私は走り出した。
十キロならまだ平気だ、なぜなら、体力がなければあの仕事は、やっていられない。
それで、二十六分で難なくクリアー。楽勝だね。
そして次の暗記と判別。これもできなければ、勤まりません。
最後は瞬発力。
これはそんなに必要じゃないけど、ちょっとでいいかな程度。
ーで。無事に約一時間で終わってしまった。
それで、全然バテていない私を見た水野先輩は、ビックリしていた。(フフン)
「江藤さん、すごいね君。特にマラソン、陸上やってたの? 中学時代」
「いいえなにも」
言えるわけがない、本当のことなんて。
絶対に。
「結果は今日の夜にでも電話するよ」
「はい」
それで私は、家の電話番号を書いたメモを渡した。
大丈夫だよね、今日は仕事入れないように寺島さんに言っといたし。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「ハイ、さようなら」
教室に戻り制服に着替えて、そして家に着いたのが午後五時。
プハーッ!
お風呂上がりにはやっぱり、麦茶に限るわ。麦茶の一気飲み!
ほんとは、ビールのほうがいいんだけどね、まだ私は未成年だからおあずけってわけ。まぁ飲んじゃうときもある、すごく嫌なことがあったときなんかね。やっぱり、こういう仕事をしているとね、いろいろあるのよ。
ピロロロロッ♪
明日の支度をしていると、電話が鳴った。
「はい。江藤です」
宮内部長からだった。
「江藤さん、おめでとう、合格だよ」
「本当ですかっ」
「ああ、明日から正式部員だ。じゃ、明日放課後、部室で待ってるよ」
そう言って、宮内部長は電話を切った。
しばらくの沈黙。
「…やった…」
ポツリと呟く…。
ヤッター! 心の中で叫ぶ。
正式部員だっ。
とと、嬉しさのあまり、コップを落としそうになってしまった。アブナイアブナイ。
まだ、何の部に入るか言ってませんでしたけど、明日から私は、探偵部員です。




