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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢の毒吐く

作者: 田山

 あの、なんていうんだったかしら? そうそう、気付いたらテンプレと呼ばれるような転生とやらをしていたのよ。

 忘れもしない、夜会のための準備が終わって、さあ馬車に乗り込もうって時だったわ。玄関の階段から滑り落ちて、頭をうちつけて、ぽーんと思い出しちゃったのよね。

 なんとも都合のいいことに前世の記憶をまるごと思い出したわけじゃなかった。どうやら自分のいるこの世界は、前世で読んだ漫画の中で、わたしは典型的いじめっこ役だった……みたいなことだけわかったのよ。


 でもたかが前世の記憶がなんだっていうの!

 産まれて16年間この世界で生きてきて、そんな簡単に価値観なんて変わるわけないじゃない。

 それにわたし、あの漫画の世界のいじめがダメだなんて思えなかったのよね。だって、婚約者なのにメイドと浮気されて、しかもお前が悪いんだなんて言われて……しかもね、危害を加えるにしたって、この世界では許容範囲内の折檻だったのよ。これで正気を保てる人なんていないと思うんだけど、あなたもそう思わない?

 とにかくむしゃくしゃしてやってしまったんだけど、前世の記憶通りに敢えて行動したのはやりすぎだったかもしれないわね。可哀想な婚約者とメイドは駆け落ちした先で流行り病で亡くなったの。

 あら、いやね毒殺なんてわざわざわたしがやるわけないでしょう。やったのは恥さらしな婚約者の家の方ね。わたしは知っていたけどなにもしなかった。ただそれだけよ。


 記憶のなかには婚約者のことだけじゃなくて、いくつも懸案事項があったわ。漫画の中では両親もいろいろやらかしてたの。

 国庫の横領から賄賂、脱税、やりたい放題。最終的には薬と人身売買にまで手を出して、あまりに酷いってんで処刑されるってオチなわけ。

 今のあの人たちが同じことを裏でやっているなら、それこそ本当に首と胴体をさようならしてもらうしか方法がないわよね。

 もちろん、わたしだって自分の身は可愛いからね、殺されることが確定しているならそれなりに対処するわ。


 ようはね、どうしようもないから両親には退場してもらうことにしたの。

 だってあの人たち、高圧的で、神経質で、プライドだけは馬鹿高くて、偏見の塊なのよ。気難しいからちょっとでも気分を損ねると使用人を折檻して、最終的に殺してしまったこともあったわ。とにかく人道的じゃないし、そもそもわたしのような子供が育つのよ? そりゃもう更生の余地がないわよね。

 まあ別に、下働きの人間が可哀想、奴隷は解放しなくちゃだとか、折檻や戦争はすべきでないとか、そんな清廉潔白なことを言うつもりにはさらさらなれなかったわ。それが彼らの仕事のうちなわけだしね。

 ただ、見栄ばっかりで金庫も底をついてるのに、浪費癖が抜けなくて借金が雪だるま式に増えることだけは阻止する必要があったの。

 毎日のように宝石商やドレスの仕立て屋がきて、うちは侯爵家でもないのにどこからそんなお金が出るのかしら、なんて記憶が戻る前から思っていたのだけど、それはもう当然の如く足りなくなっていたのよ。数代前からずっとだしね。

 知らぬ存ぜぬ、見て見ぬふりを続けた結果、どれだけ後ろ暗いことをやっても足りないってくらいの借金が山となっていた……ってわけ。


 とにかく内々ですませたかったわたしは、両親を黙らせるだけの物的証拠を確保したわ。

 ただ、夫もいないわたしだけでは女伯になるにしろ後見人やらが必要となるだろうし、そもそも傍系の親族がいるから爵位をあいつらに掠め取られる線が濃厚だった。

 だから、わたしは兄を説得することにしたの。


「折檻も必要だけど、いきすぎてはやはり、いけないと思うのよね。ノブレスオブリージュは対外的にはやはり必要よ。というか、あんな両親がこのまま変わらなかったら、バレたときはわたしたちも危ないんじゃないかしら?」

 なあんて甘っちょろい言葉しかかけなかったんだけど、所詮は兄も自分の身が可愛かったのね。両親と自分は関係がないって言い切れるうちに、自分が害虫(りょうしん)を排除しちゃえば安全だろうなんて考えてたみたい。

 わたしのことは使える駒程度にしか見てないことはバレバレだったけど、上手いこと誘導してわたしの掴んだ証拠を兄に掴ませて、邪魔な両親にはさっさと隠居してもらったわ。

 邪魔者を排除してさあ大変、代わりに立った兄は借金の額に驚いて泡を吹いてぶっ倒れたんだけど、わたしの丁寧な再教育のおかげでとても屋敷が快適になったわ。


 ん? ああ婚約者のこと?

 そう、あなた知らなかったのよね。忘れていたわ。ええと、彼はそこそこ有名な伯爵家の嫡子なの。二番目だったんだけど、物騒で人死にの多い昨今でしょう。長男が死んだときのための保険に、ってちゃんとした政略結婚の確約が幼い頃からしてあったってわけ。その相手がわたしだったのね。

 それなりに幼なじみとしての情もあったし、顔の美しさにはときめきも感じていたのよ。でもわたし、そもそも自分が一番だから、相手のことなんて正直どうでもよかったのよ。え? 知ってた? なによ、うるさいわねぇ。

 ともかく、悲しいことに見目麗しくて人気が高くていらっしゃった婚約者さんのおかげで、婚約者として親密になれるわたしへのやっかみは相当うっとうしかったわ。

 そのストレスのせいで、チクチク嫌味を言うキャラクターになってしまったところはあったかもしれないわね。けど、ヒロインらしき影もないうちから、他の人から貶められるほど酷い仕打ちをする悪役ではなかったわ。

 ええ、気に食わない政敵を追い落とすために汚いルートで証拠をでっち上げたり、密約をなかったことにして社交界から追放してみたり程度はしたけど。その程度は普通に誰しもやることでしょう? やり方が汚い? そんなの誉め言葉にしかならないわよ。

 それでね、婚約者との関係も良好だし、仮に向こうのせいで破棄するならせいぜい取るもん取らせて貰うわよって感じで考えていたわけなんだけど……ああ、ヒロインは最近入った新入りのメイドだったのよ。それは若くて純真で可愛かったわ。ま、死んだ今となってはざまあみろって感じだけど。駆け落ちされたらどうしようもないわよね。持参金が浮いたのはありがたかったから、ちょうどよかったのかもしれないとも思ったしね。


 筋書き通りなら没落する予定だったから、それは困るって思っていたところだったのよ。やっぱり闇市だとしても表の爵位がある程度関わってくるものね。

 わたし、人身売買には興味があったの。腕のいい健康な奴隷を安く買って、高く売り捌いたらどんなにか素晴らしいんでしょう! え? なんでってうち貧乏なのよ。借金まみれって言ったでしょう。

 知らなかった? 奴隷ってとてもいい商売なのよ。そりゃ扱いは家によって違うし、労働環境だって奴隷側に選ぶ権利なんざないけど、ようはわたしは前世でいうところのコンサルタントや人材派遣会社的な地位を確立したってわけ。場合によっては芸能プロダクションっていってもいいかもしれないわね。

 せっかく高額で購入しても、気に食わなかった奴隷はただの穀潰しだし、殺すにしても手間が大変でしょう。だから、売ったらそこでおしまい、ではなくて払い戻しも可能ってことにしたら、もう手数料だけでがっぽがっぽよ。何度も奴隷を拐ったり買い取ったりする手間も減って、必要になればわたしが教育を施してやったから効率も以前の10倍よ、10倍。

 それまでこんなビジネスモデルなんてない世の中だったから、闇市業界ではわたし、結構有名なのよ。クライアントだって馬鹿ばかりじゃないわ。無駄に生け贄を殺して快楽主義に走る処刑大好きな某異端審問官やら、サバトに走る諸侯なんかよりよっぽど建設的なんだから当然よね。


 ただ、最近困ったことになっているのよ。しがない地方貴族の一族でしかないはずの我が家に、なんでか黒い噂の絶えない辺境伯の周辺のやつらがウロウロしてるのよね。丁重に生首をお返ししてるんだけど、一体なんだっていうのかしら?

 あらやだごめんなさい、また誰か屋敷に来たみたい。あなたはそのままここにいてちょうだいな。来客対応をお兄様にお任せしたらまた戻ってくるから。じゃあね。

この後、めくるめく悪役令嬢と辺境伯の愛憎入り交じる戦いの火蓋が切って落とされるッ!

……のだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] これは長編は難しそうだが3~10話位の中編はできそうですな。
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