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出会いと始まり


【野良犬の話を知っているか?】


その言葉に知らないと答える人はいない。野良犬と言っても、そこら辺にいる汚い犬のことじゃない。今や伝説となった


【野良犬と呼ばれた男の話】


西暦3120年 

現在の日本は、たった一人の男によって外部から護られている。今から15年前に起きた世界的大規模な戦争、その中でも日本における死者はたった二人だけだった。その二人とは、総理大臣と日本軍の大総統だった。その戦争は各国々から集まった総勢5万人の反乱軍による暴動から始まった。戦争は国土の奪い合いに発展していった…それまでに最大と言われていたロシアは三分の一に、中国はほぼ壊滅。代わりに、その土地に新しい国が誕生した。


【ミズガルズ王国】


その国に住む者は、必ず新しい名前が与えられる。それは悪魔であったり天使であったり、神話で聞かれる名前をもらい、その半分以上がミズガルズ国軍に入隊する。出身国は関係なく、誰でも入隊する権利を持っている。だが、国王が許可すればの話。


だが日本は少し違う


一応日本もミズガルズ王国の一部だが、国王が野良犬を気に入り、特別に日本の全ての権利を彼に渡した。以来野良犬は日本を統治している。大総統閣下というわけだ…そして、その人物が今、僕の目の前にいる…



------



「テメェが?」

「はい。オセ准尉です。今回人事異動を受けて参りました」

「ふーん…」

「(ふーんって…)あの、ミズガルズ国軍での個体登録書です」


書類の入った封筒を渡す。受け取る、というより奪い取られ…


ビリッビリッ

「あぁ!何するんですか!」

「うるせぇな。コピーだろ?気にすんな」


容赦なく紙屑にされた…結構厚みあったんだけどなぁ


「コピーですけど破らなくても…」

「んなもん要らねぇんだよ。俺が欲しいのは度胸と根性と覚悟だ」


少なっ!?それだけでやっていけるのか!?でも実際出来てるんだよなぁ…さすがは伝説となった男ということか。


ここは山奥の古びた平屋。野良犬のアジトと呼ばれ、戦争中にもかかわらず砲撃を一撃もくらわなかった場所。何故、僕がここにいるかと言えば…先に話した通り人事異動だ。ミズガルズ国軍から日本軍へ…時々少人数送られるらしい。でも大半はミズガルズに帰ってきていた。しばらく歩けないほどボロボロになって…


「ついて来い。今から入隊テストを行う」

「入隊テスト…ですか?」


ズカズカと進む後ろをついていく。こんな平屋に実習場でもあるんだろうか…進んでいくと部屋の前で止まった。そこには蒼い髪の人が立っていた。


「トオマ」

「はい」

「こいつに準備させて、他の奴らもつれて来い。裏山だ」

「了解しました」

「あの…入隊テストって、何をするんですか?」

「簡単だ。今からテメェの“根性”を見せてもらう」

「根性…」


簡単…信じていいのかな…?



-----



裏山…確かに裏山だ…平屋の裏に聳え立つ山。動きやすい服に着替えさせられ、山から200mほど離れた細道にいる…なんか人ぞろぞろいるし…


「おいチビ。これ付けろ」


チビって…僕?だろうなぁ…明らかに僕を見てるもんなぁ…付けろと言われたのは…布?すね当てみたいだ。不思議に思いながら受け取ると


「あれ?重い…」

「錘だ。両脚に付けろ」

「はい」

「つけ方は分かりますか?」


さっきの人だ。トオマさん…だっけ?この人も錘を付けている…よく見れば大総統も…ここにいる全員が付けている。


「大丈夫です。あの、皆さんは…?」

「日本軍の隊員達です。彼らの訓練メニューに合わせてテストをします。向こうにいる4人は、君と同じ異動者ですよ」

「(僕以外にもいたんだ)メニューって、大変ですか?」

「最悪、錘を外してもいいですよ」


彼の言葉の意味は分からない。だけど、隊員達の様子を見る限り…ものすごく嫌な予感がしてきた…


「いいかテメェら!!」


大総統の声が山に木霊する。すると、隊員達が静まり返り、表情が険しくなった…というより目つきが変わった。


「異動の野郎ども!!今からあの山を登ってもらう!!自力で登り、自力でここへ帰ってこい!!」

「あの山をって…錘を付けた状態で!?」

「そうですよ。気を付けてくださいね。滑りますから」


いや、問題はそこじゃないと思う!無茶だこんなの…普通の人じゃ登るのに一日はかかる…そう考えていると、屋根の上から声がした。


「はいは~い。構えてね~。スタートするよ~」

「踏ん張れよテメェら!!」

≪うぉおおおおお!!!!≫


なんだかわからないけど、すごい迫力…楽しそうな笑みを浮かべる大総統…無事に返って来れるかな…?


パァン!!


銃声と共にスタート…したはずなのに、大総統はすでに豆粒!?速っ!!隣にいたあの人もいつの間にか大総統の後ろを走っている…アンタらホントに人間!?

出遅れたのもあって僕が最後尾。やっと山の梺についた…途端に僕は恐怖を覚えた。木が真横に生えてる…急なんてもんじゃない、絶壁の山だ。それでも容易く登って行く人達…仕方なしに僕も木を利用して登る。だが、錘の付いた脚は思うように上がらない。なかなか厳しいテストだ…あの人が言っていた最悪ってこの事か。


「おーいチビ!!まだこんなトコにいたのか!!」


三分の一くらい登った時、少し離れた所から呼ばれた。声の方を見ると、先に走って行った大総統たちがすでに下山していた。


「え!?もう登ってきたんですか!?」

「早くしろよぉ!!日が暮れちまうぞ!!」

「頑張ってくださーい!!」


恐るべし大総統…恐るべしあの人…恐るべし山…だけど、ここまで来て諦めるのも嫌だ。頑張ろう…登ってしまえば下りるのは簡単だ。もう少しの辛抱だ…



-----



「ハァハァ…あと…ちょっと…」


確かに下山は楽だったが、登るのに時間をかけすぎた…辺りは闇。街灯なんか無いから真っ暗だ。スタート地点まで一本道で良かった…1m先もまともに見えない。ヘロヘロ走っていると、前方に灯りが見えた。誰かいるんだ!助かった…


「お?誰か帰ってきたぞ?」

「あれアイツだよ!一番小さいの!」

「もうちょっとだぞ!」


手を振ってくれてる人がいる…あと少し…もう、体力が…


「ゴール!」

「おめでとー」

「おかえり~」

「ハァ…どうも…」

「ちゃんと錘付けたままじゃん」

「やるね~」


無事生還…だけど、ついた瞬間力が抜けて崩れるようにその場に座り込んだ。脚が重い…息が出来ない…フラフラする…こんなに厳しいテストがあるなんて聞いてないよ。


「あれ?…大総統と…あの人は…?」

「あぁ。あの二人なら山だよ」

「え!?また登ってるんですか!?」

「本来、あの二人はコレを3セットやるんだ」

「もうじき帰ってくるよ」


化け物かよ…どんな体力してんだ…数分してから、足音が聞こえてきた。誰だかわからない…でも山の方からってことは2人のうちどちらかだろう。


「あ!いたいた!」

「おかえりトオマさん」

「おかえり~」

「ただいま。よかった、本当に自力で帰ってたんですね」


にこっと笑うその人は、息一つ切らしていない…とても遠い存在に思えてきました。


「おーチビ。ココにいたのか」

「大総統」

「先に帰ってましたよ」

「ほー。やるじゃねぇか。おい!誰かコイツら送り返せ!」

「はーい」


ぽいっと放ったのは、僕と同じ異動者の三人だった…え?ひょっとして、三人を担いだまま山を行き来してたのか?でも、送り返すって…?


「あの人たちどうしたんですか?」

「途中の木に引っ掛かってた」

「え?」

「登山中に落ちたのか、下山に失敗したか。あと一人は死んでた」

「死…!?」

「よし!テスト終わり!今回の合格者は一人だ!」


ビシッと指を差される。ニヤリと笑う大総統…


「チビ。テメェだ」


見事、僕は合格した。平屋に戻り、執務室に通された。登録書の申請を行うことになった。



-----



「へぇー君も日本人なんだ」

「はい。両親が反乱軍に参加していました。その事もあって、僕もミズガルズ国軍に」

「兄弟とかは?」

「兄が一人。ミズガルズで大佐になったらしくて」

「大佐だって~」

「すごいねー」


顔を見合わせてはしゃぐ二人…さっきのトオマって人と屋根の上から合図をしていた人だ。大総統は興味なさげだ…書類を片手に頬杖をついている。


「ご両親はどうしてるの?」

「んな事どうでもいい。で、名前なんだった?」

「あ、オセです」

「歳は?」

「今年で18です」

「はぁ!?まだガキじゃねぇか!」

「こ、これでも准尉です」


書類にいろいろと書き込む。書き慣れていないのか、トオマって人に注意されながら書いている。どうやら御付の人のようだ…


「そういえば、オセって天使?悪魔?」

「悪魔って聞きました」

「オセは、ソロモン72柱の序列57位、変身と幻惑を司る豹。妄想と狂気をもたらす悪魔で、人間を別の動物に変身させる力があるとか。そして変身した者はそのことに気付かないとか」


ニコニコしながら説明したトオマさん。なんでこんなに詳しいんだろう…


「動物かぁ。ココにピッタリじゃねぇか」

「ピッタリ?」

「ついて来な」



-----



執務室を出て廊下を進む。裏口だろうか、玄関とは反対の方向にある扉。それを開けると、目の前に階段があり、その上に建物があった。平屋のようだが…中に入ると軍の人たちがいた。稽古場かな?喧嘩にしか見えない殴り合いをしている…荒々しい音や声が響く。



「あの、ココは…?」

「俺の本拠地、剣術道場だ」

「剣術道場?」

「俺で四代目なんだがな。俺は羽山流剣術道場師範、羽山魁だ。これからよろしくな」

「(な、なんかすごい!)あ、それで、僕の名前と何の関係が?」

「ココにいる連中は、名前に一文字動物の名前が入ってんだよ」


そう言うと、トオマさんに目配せをした。トオマさんは頷き、壁に掛けてあった小さな板を持ってきた。それは名札らしい…よく見ると結構な数掛けてある。


「俺も、ココの門下生なんだ。鷲野トオマっていうんだ。トオマって呼んでくれていいよ。よろしく」

「あ、鷲…」

「今いる連中だけでも紹介するか」


集まれテメェら!!その一言だけで全員が集まった。すごい…団結力と言うのか、結束力と言うのか…やっぱりすごい人なんだ。そう思った。


「あ、新人だ」

「ほんとだ、新人だ」


僕を指さす二人。同じ顔、同じ姿、違うのは髪の分け方くらい…


「この二人は犬山レンとケン。双子だよ」

「僕がレン。お兄さんだよ」

「僕がケン。弟の方」

「よろしくです」

「「よろしく~」」


息ピッタリ。さすが双子…そんなこと考えてたら、後から背中を突かれた。さっきの人だ。


「僕は兎山びと。よろしく~」

「変わった名前ですね…」

「ウサギの“兎”に“山”に、ラビットの“びと”だよ」

「とことんウサギですか」

「終始ウサギだよ~」


とても気さくな人のようだ。自分で言ったことに自分で笑っている…それを見ていたら肩を叩かれた。振り返ると少し目つきの悪い人がいた。


「俺は鶴崎ハヤト。よろしく」

「気を付けろチビ。そいつに触れると変態がうつるぞ」

「失敬な!」

「暇さえあれば鏡見てるんだぜ」

「…ナルシストってやつですか」

「ド変態だ。間違った大人だ。めんどくせぇ野郎だ。自分大好き馬鹿だ」

「言い過ぎです!逆に!魁さんは自分が美しいと思わないのですか!?」

「思うかボケ」


冷ややかに答える大総統。でも確かに…大総統は男の僕から見てもカッコいいし…綺麗だと思う。艶がかった少し長めの黒紫の髪、深い紫の瞳…綺麗な顔立ちに不釣り合いな左目の傷。華奢に見える細身の体…なんでこの人が野良犬と呼ばれたのか…


「何見てんだ?」

「あ、いえ…」


人は見かけによらない。きっと何か理由があるんだ…有名な人ではあるが、その理由を知る人は少ない。軍上層部が詳しいらしいが…戦争が理由としか僕は知らない。



-----



一通り紹介されて道場を出た。今はトオマさんに部屋まで案内してもらっている。思ったより広い家だ…平屋って言っても広すぎる…トオマさんの背中を見ながら歩いて、結構時間が経ってると思う。そこでふと思い出した。


「あの、トオマさん」

「何?」

「トオマさんの階級って…」

「あぁ。ココでは階級は関係ないよ。言うとしたら大総統補佐かな」

「関係ないって…?」

「魁さんはそういうの嫌いなんだって。もともと気分屋だからね。あるのは、師範と門下生って関係くらいかな?」


呆れたというように笑うトオマさん。きっと、大総統とは古い関係なんだろう…あれ?

そういえば…随分若く見えるけど、みんな何歳なんだろ…


「どうかした?」

「い、いえ…別に」

「そう?あ、ココが君の部屋だよ。自由に使ってね」

「ありがとうございます」

「ゆっくり休んで」


にこっと笑って背を向けた。歩き出した時…


「あ!」

「どうかしました?」

「部屋の鍵はちゃんと閉めてね」

「はい」

「じゃあおやすみ」

「おやすみなさい」


挨拶を交わして部屋に入った。さすが平屋…部屋自体が広く入口以外は襖だ。浴室もあるみたいでホテルのような気分だ…シャワーを浴びて布団を敷いた。寝ようかなと思ったとき…


ドォン!!


と轟音が響いた。ビックリして腰を抜かしてしまった。しばらく音は続き、喧嘩をしているような…そんな叫び声も聞こえてきた。それから数分後、事態が収拾したのか静かになった。扉を開けて確認しようとしたとき…


「新人~」

「起きてる~」

「…はい」



コンコンと扉を叩かれた。開けると、さっきの双子がいた。なんかわかんないけど、あげる~あげる~と言って、紙袋を押し付けてきた。


「明日演習見学な」

「早く起きろよ?」

「はい、わかりました」

「じゃね」

「また明日~」


双子はそれだけ言い残し、スタスタと去って行った。紙袋…明日見よう。




Next…

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