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こんな女に誰がした  作者: 相川イナホ
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令嬢の最期

 「お前の魔力は甘い。」


 夢の中で超イケメンが私を口説いている。

 ああやだ、とうとうこんな夢を見るまで壊れ方がすすんじゃったよ。


 「我に名を与えよ」


 「じゃポチ?」


 「ポチ?それは犬につける名前じゃないのか!タマも却下な」


 「あれー?元の世界の事知ってるの?」


 「我も転生者なのだ。もっと厨二くさいかっこいい名前をつけてくれ」


  彼、もしくは彼らは(・・・)龍なのだそうだ。

  何故か私に名前をつけて欲しいらしい。

 

 私はうーんとうなる。


 「ジェロモニ」


 「・・・・・」


 気にいらない?強そうなんだけど。

 

 「神龍 ジークハイド」

 ジキルとハイドをもじったんだけど。

 

 「そ、それでよいぞ」


 よーし 神龍ゲットだぜー!



 て、ところで目が覚めた。


 欲求不満かな?アハハ(乾)


 というか、もう壊れてるのかもね。






 腹筋を使ってベットから起きる。今日もラジオ体操からはじめるぞー



 あ、今日、おでこの包帯が取れるようです。首のまわりの痣は一足先に消えたようです。


 

 「あとが残ってしまいましたね・・・。おきれいな顔なのに」


 「どうせ死にますしね」


 「・・・・・・」


 フォローできず医者はかたまる。


 あまり彼のような善人をいじめてもいけないので鏡を要求する。


 額のところにうっすらとあとが残っている。

 ん?何だろなんかの模様のようなあとなんだけど


「内出血のあとなので時間をおけばいずれは消えますよ」

「その時間があとどれくらい残っているのか」

「・・・・・・」

 あ、いかんネガティブ思考になっている。



 今週末あたりやっと王様夫婦が帰ってくるそうだ。

 

 「それまでの命ね。」


 そろそろ遺言状でも用意いたしますか。



 親しかった令嬢仲間に3通。父母にそれぞれ一通。大祖父さまに一通。

 よくしてくれた侍女や侍従にも一通。元侯爵令嬢とはいえ罪人の私によくしてくれたあの女看守さんにも一通お礼を書いた。

 ばか兄貴には書いてやらん。あの薄情者め。



 王太子にはたった一言、「こんな女に誰がした」

 それだけ書いてやった。渡すつもりはないけれど。


 私アンジェリクという元侯爵令嬢は私が私であるという前に、王太子やその仲間によって作られてしまった偽りの人物像で処刑される。

 それは彼らが権力者だから。彼らから見た私がそうだからだ。


 そこに私の真実はない。だが、それもまた真実。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 長い塔の階段を白いワンピースを着せられ、手枷をはめられたまま下っていく。

こっちの世界では白いウエディングドレスを着るという風習がないが、今着ている服は皮肉にもまるで前世の世界でのウエディングドレスのようだ。


 化粧を施していない私の顔は幼い。

 まわりに舐められないようにキツイ化粧で自分を装っていたから。

 件の私の自殺未遂の時の兵士が泣きそうな顔で、私のことを見送ってくれていた。たった一人にでも、この場において死なせたくないと思ってもらえたことを良しと思わなければ。

 少なくとも私は死んで当然の人間ではないと思える。  



 塔の下へつくと罪人を運ぶ黒い箱馬車が止まっていて私はそれに押し込まれる。


 騎士の一人が私の手をとってくれようとしたが、私はそれを断り一人で乗る。


 馬車の箱の扉の閂が下され、私は処刑場までの長い道のりを窓のない馬車の中で一人揺られる。


 けっきょく間に合わなかった。

 逃げ出す算段も、無実の嘆願も。



 もうあきらめていた。何もかも。

 この世界では命の価値が安い。

 なんの咎もなく消えていく命のなんと多いことか。

 無実の罪で殺される娘も、私が最初ではなく最後でもないだろう。


 馬車が大きく揺れ、処刑場についたようだった。

 処刑は残忍にも、魔物に食い殺させるというものだった。

 本当、私がいったい何をしたというんだろうね。


 魔物のすまう谷に突き出すように木の橋が渡され、途中で切れている。

 そこを一人で歩かせて、落ちたら墜落死、死体は魔物に食い散らかされるというものだ。

 物好きにも見物人が何人かきているようだ。

 王太子と男爵令嬢の姿も見える。アリソン男爵令嬢が手にもつ扇に隠された口元がたしかにVの字にあがるのが見えた。

 下種いね。


「・・・罪を悔いてアリソン嬢に謝れば刑は考えてやってもいいのだぞ」


 このごに及んで王太子はそんな事を言う。


 しかし私の言葉はいつも同じだ。


 「いいえ、私は間違った事をしてはおりません。謝る必要はありません」



「・・・・はじめろ」


 足に嵌められていた枷がぬかれ、橋の前に立たされる。

 普通のご令嬢なら失神しているかもしれない。


 執行役にせっつかれる前に私は歩き出した。


「待て!アンジェリク、謝れと言っているのだ。謝ってくれ!」


 私は振り向いて王太子に言う。


「王族というのは一度口にしたものを違えてはいけません。・・・・私からの最後の苦言だと思って聞き届けてくれますよう」


「アンジェリク!意地をはるな。死んでしまったら何にもならぬのだぞ」


 王太子の言ってることは支離滅裂だ。この刑場に私を連れてきて死ねと命令したのは彼なのに。



 前世でも私は意地っ張りで要領の悪い人間だった。今世でもそれはかわらない。




 鳥が頭上を飛んでいた。

 私にも羽があったなら。



 橋の端まで歩き、何もない空間へ、迷うことなく私は身体を傾けた。


 重力にひかれ私は下へと落下していく。


「待て!アンジェリク!」


 王太子が悲鳴のような声をあげ立ち上がるのと、湧き上がる喜びを隠せず口元が笑ったままのアリソン男爵令嬢が王太子にしがみつくのが目の端に見えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あああああああ!」

 悲鳴があちこちからあがり、一瞬のうちにひとつの命が消えた。


 すすりなく声があちこちからあがり、非難の視線が王太子とアリソンに向けられる。


 そこに土煙をあげ、かけつけた馬が一騎。


「その処刑待った!王からの中止命令だ!」



「遅い・・・もう終わった」



 表情をなくしたかのような王太子はそのままアリソン男爵令嬢をおいて帰ってい

く。


 王の書状を手にかけつけた、処刑された侯爵令嬢の兄は膝をついて大地を殴り、妹の名前を呼び、慟哭した。


 彼は間に合わなかったのだ。

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