令嬢、魔法使いをめざす
女看守シロネ視点が前半にあります。
アンジェリク様が頭を打った翌日からおかしい。
女看守として罪人の塔に潜入していたシロネは困惑していた。
理解不能な呪文を唱えていたと思えば、急に令嬢らしからぬ行動、ベットの上をゴロゴロと転げまわったり、急に腕立て伏せをしたりはじめたり
脚をはしたなくも開いて屈伸させたかと思えば蟹股で妙な踊りを踊ったりさっぱり理解不能だ。
打ち所が悪かったのかもしれない。
それまでの令嬢は、同じ女から見ても優雅で気品に満ちていた。
牢に閉じ込められてから、朝を迎える度に、令嬢の憂い顔や泣きはらしたような瞼のふちの赤みに気づいて、シロネはそっと同情の涙をぬぐった。
食事も水もほとんど口に通らなくなっている見え、どんどん儚くなっていく風情は心にくるものがあった。
が、今はどうだ。
出されたものはすべて食べ、日中は兵の目のないときは奇妙な踊りをしているか
どうやら騎士団がするような訓練メニューを己に荷しているらしい。
疲れるのか夜は熟睡しているし。表情も豊かになった。
食べ物については、自分が毒が混入されている物を検査し、取り除くようになったからかもしれないが鼻も効くようである。この間は付け合せのパセリにかけられたドレッシングの毒を看破していた。
毒を混入している人物もなかなか死なないアンジェリク様にしびれを切らしたようで、こんなところに?というような場所へ毒を混入させてくる。
もはや手当たりしだいのロシアンルーレット状態。
おそまつなものだ。
パセリの時には失敗した。私の毒の判別の仕方は水に溶かして魚が死なないかどうか調べるものだったので、パセリは普通残すだろう?という先入観で見逃してしまった。気をひきしめないと。
でも混入されているもののローテーションで、毒を混入させている者の目星はついたけど。泳がせておいて元をつきとめなくちゃ。
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日課のラジオ体操をして、今日も怪我予防。
終わったら腹筋背筋腕立てに反復横跳び。
昔は部活少女でした。
壁の石の隙間に指をかけてクライミング。
むぅ。まだ握力が足りませんね。
天井近くまで登れたけど、それから足をかけるところがなくなったら手がぶるぶるしだして、今日はここまでだなとやめる。
うーんまだ塔の外壁を伝って降りるのは無理か。
いやね、やることないのよ。
本なんかの差し入れもないし、刺繍も編み物もさせてもらえない。
何かやることないかなーって考えていたら、アンジェリクさんのハイスペックぶりからして運動もいけるんじゃね?と思ってやってみたらこれがすごい。
鍛えれば鍛えるほど身につくというか。
面白くてついつい腹筋がうっすら割れるまでやっちゃってました。
塔の下が広場になっていて、そこでは王国軍の兵士と騎士団が練習しているのがよく見えるのでマネっこしてエア剣やエア槍の練習をしてみたりもした。
しかし一番熱が入ったのは魔法の練習だ。
私は王太子妃になるためのマナー講習やレッスンが多すぎて、あまり魔法を教えてもらえなかったが、こっそり家の書庫に忍び込んで本を読み、知識だけは豊富だった。
もちろんクリーンなどの生活魔法や癒しの魔法は教えてもらっていたが、貴族のの、しかも女性が、しかも私の場合未来の王妃(予)でもあったし
戦闘魔法覚えても、先頭にたって戦う事態とかは絶対こないってことで意味がないって言われてたんだよね。
なので、こっそりと自宅とは言え、書庫に忍び込むという令嬢らしからぬ事をした訳なのだが、記憶が蘇る前であっても、私という人間の興味の本質は一緒だったらしい。
だがしかし、やっぱりファンタジーだもの。魔法は使えないより使えた方がいいじゃないか。
暇になっちゃうとあのクソったれ王太子に対するどす黒い感情がフツフツと湧いてきちゃうので、精神の安定の問題からも、打ち込めるものがあるのはいいのだ。
この世界の魔法はそんなに大規模なものじゃない。
もっとも攻撃的な魔法はファイヤーボールどまりだし一般的に薪に着火できたり
ちょっとした水を生み出せたり、それだけできれば「魔法使い」と言われる。
本当にすごい魔法使いは隠者とか賢者とか言われて、人との関わり合いをたって生活しているらしい。
そりゃ、そんだけ能力差あったら普通の人と一緒には暮しにくいかもね。
あれこれやってるけど、結局は現実逃避なのかもしれない。
こうやっていても、だんだんと死へのカウントダウンは近づいているわけだし。
とはいえ、処刑所の使用は王様の承認がないと使えないらしく王太子も勝手に私を私刑(王太子個人の怨恨による私に対する懲罰としか思えない)にはできないらしい。
あーやだな。何とかして逃げられないかなー。
白馬に乗った王子様とか迎えにきて助けてくれないかなー。
ってその王子様に嵌められたんだった。
アハハハ(虚)
人間が無理でも 伝説の神竜とかテイムしたら助けてもらえないかなぁー。
※ パセリは普通残すというのはシロネの個人的な意見で、この異世界でも食べる人はいます。