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お話ししましょう
ーーーあれから10年の年月が過ぎた。
町は特に大きな事件は無く、相変わらず花の匂いを風が漂わせていた。
あれから10年、アカネは19歳となった。幼かった顔は大人びいていて、短かった髪は腰辺りまで伸ばしていた。アカネはすっかり町の評判の娘となっていた。
「行ってきます」
本を片手に、軽やかな足取りで店の入り口からアカネが出てきた。
「気をつけるんだよ」
「ハーイ」
フキがアカネを送り出すと、店にいた男2人がひそひそと話していた。目線はアカネに向けられており、うっとりするような表情だった。
「やっぱりアカネさんは綺麗だな」
「そうだな、彼氏とかいないのかな」
そんな会話を耳にしたフキは苦笑して、呟いた。
「いたら苦労しないさ」
フキはもう歳をとっており、相手のいないアカネを心配した。アカネの為でもあり、見合い写真を「これでもか!」と言うぐらいアカネに見せると
「しばらくはお見舞い写真は見たくない」と言った。
このまま、孫が見れずに死ぬのか、とフキは先ほどよりも深いため息を吐いた。