盗みましょう
ここは花の都「カンパニュラ」、どの国よりも多くの花屋が建ち並び、世界一の花の輸出量を誇っている。
そんなカンパニュラには、魔王が暮らしている「アキレア」と隣接しており、皆は魔王の逆燐を触れぬように、日々平和に暮らしている。
***
森に1人の少女が走っていた。10にも満たない年頃の少女が息を切らして小さな足を懸命に動かして走っていた。
手には少女の胴体ほど大きい焦げ茶の固そうな本が抱えられていた。
重さ約2kg程の本を抱えて走るのは大変そうだが、少女からは苦しそうな表情は見受けられない、むしろ、興奮したように頬を蒸気させていた。
少女は走る速度を緩ませて、やがて止まった。木が幾つも続いていたが、少女の行る場所には木が無く、あるのは柔らかそうな青い芝生だった。
「えへへ、また盗んできちゃった」
この少女は盗みを働いていた……。と、いうよりも、この本は少女の父親の書庫から盗んできたものである。
「早速読もう読もう!」
少女は本を置いて、寝そべって読み始めた。風が幼い少女の髪を遊んでるように見え、遊んでほしそうに少女の読書を邪魔するかのようにページをパラパラとめくる。
「へぇ、このお花はお薬になるんだ」
関心しながら少女は本を読み進める。少女の読んでいた本は花のことが詳しく書かれている医学本なのだ。
ふと、空を見上げると茜色に染まっていた。
「え!!もう夕方!?早すぎるよ~」
お母さんに叱られちゃう!!と、少女の急いで本を持ち上げてその場を去ろうとする。
「あ」
少女は思い出したように足を止めて振り返った。目の前には灰色の無機質な壁が一面に広がっていた。
「魔王さん、また借りさせていただきました。ありがとうございます。」
少女のいた場所は、魔王のいるアキレアと、少女の住んでいるカンパニュラの境目ギリギリの場所であった。
無機質な壁の正体は、魔王の住む城の裏壁でなのだ。なんと怖いもの知らず
腰を90度に折り曲げて礼を述べた少女は敬語に慣れていないのか、辿々しさが残る言い方であった。少女は満足したように急いで自分の家族が待っている家へと走っていった。
少女の頭の中は「今日のご飯はなんなのか」、「この本をどう言い訳しよう」だけが踊っていた。
少女は遥か頭上にある城の窓からは魔王が見てた事は知らなかった。