貧乏クジ
マイブームとか、最近の自分だけの流行だとか。恐らくそれは誰もが持っているものだ。
当然私も、今ハマっている事がある。深夜の散歩だ。
夜の静かな町は、何処と無く寂しげで、しかし昼とは一風違う姿がまた魅力的なのだ。
さて、話をしよう。これは私がいつものように散歩をしていたときのことだ。
深夜3時。車も全く通らない、まるで世界が静止したかのような空間を、私は何をするともなくブラブラと徘徊していた。
時々、未だに明かりのついている部屋を見ると、その部屋の人間は果たして何をしているのか…。などと考えてしまう。
静寂が支配している空間に、突如として異質な音が紛れ込んだ。
ザッザッザッ…と、足音が背後から聞こえてくる。
(はて、私の他にも散歩する人間がいるのか?それとも夜通し作業をしている人間が、何かを買いにコンビニにでも行くのか…)
振り向くか?いや、振り向けない。とても怖くて振り向いてなどいられない。
なら、後ろの人から逃げるか?いや、追いかけられてもいないのに、逃げるだなんて不自然極まりない。
と、その時だ。
「すみません」
後ろの人が、話しかけてきた。
「は…」
と、返事をしかけてふと疑問に思う。
普通、こんな夜中に人に話しかける人間がいるだろうか?
否、断じて否。そんな人間、まともな精神状態とは思えない。
が、流石に黙ったままというのもどうだろうと思い、私は「はい」と振り向いた。
夜中でまわりに街灯もないせいか、相手の顔は全く見えない。
一応、声から女の人だということだけは分かる。
「どうかしましたか?」
「はい、少し貴方に質問がありまして」
「はぁ、質問ですか」
「貴方、子供は好きですか?」
「へ?」
「ですから、子供は好きですか?」
予想外の問いに戸惑いを隠せない私に、彼女は同じ質問を繰り返し尋ねてきた。
「子供は好きですか?」
「はぁ、まあ、好きと言えば好きですが…」
私の言葉に、彼女は顔を綻ばせた…ような気がした。やはり暗い中で人の表情は読み取れない。
「子供、好きなんですね!?」
「は、はい。そりゃまあ養女趣味だとかって訳ではありませんが…」
「ありがとうございます!それでは、この子のこと、よろしくお願いしますね!」
そう言うやいなや、彼女は切羽詰まった様子で手に抱えていた「あるもの」を私に押し付けてきた。
当然、私は彼女に抵抗する。
「えっ、ちょっと!こ、これなんですか!?」
「気にしないでください!抱いてくれればそれでいいんです!この子に気に入られさえすれば…」
必死で押し付ける彼女と、それに対抗する私。明かりが無いのでその様子は誰も見られないだろうが、きっと、実に滑稽に見える事だろう。
しかも驚くべきことに、彼女はまるで女性とは思えないような力で私の事を押さえつけてきた。
そしてそのまま、
「ぐっ…」
「や、やった!抱いてくれましたね!」
私はその子を抱いてしまった。しかし、その子とは言ったものの、私にはどうにもソレが人間の子供とは思えなかった。
抱いた瞬間に感じた、ツンと鼻に来る腐臭。おが屑でできているのか軽すぎる体重。
そして何よりも、その子の目。暗闇に輝くその目は、虚ろで在りながら、何処か欲望にまみれているかの様に、ギラギラと赤く光っていた。
「お、おい、アンタ…」
女性に話しかけようと、その方向に振り向いたが誰もいない。どうやら逃げられたようだ。
あの女性が何者なのか、この赤ん坊は何なのか、私には全く分からない。
しかし、自分が引いてはならない貧乏クジを引いてしまったという事だけは理解できた。
さて、今回も出してしまいました、よく分からない系ホラー小説。貧乏クジ、いかがでしたか?
因みに私はくじ運皆無なのでお祭りのクジ屋台にあまりいい思い出がありません。
ああ…ついてる人が羨ましい…。