その親父、蜥蜴を恨み行末を案じる
やはり竜という生き物は、この世界でもかなり珍しいものらしい……まぁそりゃあそうだ、ファンタジー作品でも大抵ラスボスだったりハイエンドコンテンツだったり、なんか伝説の~、って感じがひしひしと伝わる生き物だ。
だからそりゃあね、そんなすげーのとエンカウントして五体満足で生きてるばかりかなんか贈り物もらったなんて奴がいた日にはね……。
「今日は宴じゃ! 五星の再来じゃ!!」
……いや、五星ってなにさ……。
それはアリシアの住む村についた直後の事だった。村ではやはりというか、竜が出たと大騒ぎになっており、その竜が飛び立った方向から現れた俺達(アリシアを除く)は大層警戒されたもんだった。
しかしアリシアの必死の説明(何故かすごい俺が英雄の様な感じで話されたのもあるのだと思うが)で誤解は解け、それからはドラゴンのブレスで死ななかったことが驚かれーの、なんかすげー刺青……魔術紋もらったことに驚かれーの、アリシアを助けたことに感謝されーので、今現在村をあげての大宴会となっている……や、テンプレっちゃテンプレだけど………。
「俺そんなすごくねーんだけどなぁ……」
ため息一つ、椀に注がれるままに注がれた酒のようなもの……どぶろくに近い気もする、を、ちびちび飲む。意外にうまい。
「いやはや、コウタ殿。この度は我が村のアリシアを助けて頂いて有難うございます、あの子が出かけていった方向にドラゴンが現れた時はほんとにどうしようかと思いましたわい……」
と、ぼーっと辺りを眺めながら酒をちびちびやっていると、わりかし歳のいった爺さん……確か村長と名乗っていたと思う、が、話しかけてきた。
「や、俺は何もしてないですよ。何度も言ってますけどただ運が良かっただけですってば」
「何を仰るのやら!! アリシアから聞きましたぞ! 吠え猛り、今にも牙をむかんとするドラゴンの前に毅然と立ちふさがり、そればかりか炎弾をかき消し、彼の者から魔術紋まで授かるとは!! これが英雄と呼ばずしてなんと申しますのか!! 貴方様は我が村の恩人でございますわい」
興奮した様子でまくし立てる村長、いやそれだっっっっっっっっっっっっいぶ脚色されてねーか!??? てかそんなに興奮すると血管キレるぞ爺さん。
「しかし、まさかこのタイミングでコウタ殿のような者が現れるとは……まさに伝承通り、いやはや、これも運命というものなのでしょかのう」
「えっと……さっきからチラホラとその伝承とか聞くんですけど、それって何なんですか?」
そう、さっきからやたら村の人が伝承通りだ、とか五星がどうの、とか話しているんだが、どんなものなのだろうか。
「おお、コウタ殿は異世界の方、知る由もなかったですな……いいでしょう、お話しましょう」
と、村長がおもむろに大きく手を叩く。すると宴で盛り上がっていた村の人々がすっと静かになる。
「それははるか昔のことじゃった……。その時世界は不吉な影に覆われ、人々は争い、いがみ合い、明けるとも知らぬ混乱の中にいた。それを起こしたのは、一頭の悪しき竜と6人の下僕。その者達は暴虐の限りを尽くしていた。」
「人々が、この世界の数多の生き物が絶望に暮れていた時、とある一頭の竜が現れた。
その竜は、遠き場所より神の手に招かれた者を五人、この地に喚んだ」
「その五人は、各々が強大な力を持ち、またその力を正しく使い、長き戦いの末、悪しき竜とその下僕を封印した。そして世界には平和が訪れた。その後、その五人は何処へと消えてしまったが、我々は彼らを、敬の念を込めて【五星】と呼び、長く祀り上げた……という話ですじゃ」
「はー…なんかめっちゃ既視感ありまうねその話」
……あー、なんだ。嫌な汗が止まらん。伝承ってのがどんなもんかってのはまぁよくある話だろうな、と思ってたけどちょっと、いや、だいぶ予想外だ。そしてきっと、この話が出たってことはつまりだ
「あー、もしかしてなんですけど……今まさに世界ってそんな状況だったり?」
「おお、さすがコウタ殿!! そこまでお見通しとは流石ですじゃ!!」
流石ですじゃ!! じゃ、ねええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!
と心のなかでシャウトを決める。その後嫌々聞くところによると、最近都の方で不吉な噂……戦争の準備をしているとかが流れているそうで、各地でも小さな紛争や何か伝承を連想させる事件が頻発しているそうな、いっちゃ悪いがこんな辺境っぽいところでもそんな話が聞けるってことは結構大事になっているのだろう。
「ですからのう、絵空事とは思えんのですじゃ……タイミングと言い、現れ方と言い、伝承そのものではないですか」
「とは言ってもですねえ……俺にはそんな力ありませんよ。この魔力紋とかだって、実際どんな力があるのかわかったもんじゃねーし……」
「おお、そうじゃった。その魔力もんなんじゃが、ちと見せてもらえませんかの?」
そう言われ、俺は袖を捲る。手の甲から肘くらいにかけてまで、複雑な模様が刻まれている……これって見ればなんかわかるもんなのだろうか。
「ふむ……今まで何回か魔術紋を目にすることがあったもんじゃが、こうも複雑なのは初めてですじゃ……」
「やっぱり何かわかんない感じですかね」
「ううむ、大抵の魔術紋は、その所有者が使うことを想像することによって使えると聞いた事があるんじゃが……コウタ殿、試してみてはいかがじゃろうか」
そう言われるがままに、俺は村の入口へと向かう。もし何かあったら危ないからだろうが、村の人々も興味津々で見物しにきているので危ないもへったくれも……アリシア、お前もか……。
「さて、どうしたもんか……」
村の入口に立ち、俺は考える。えーっと、なんだったっけか、使うイメージをして……って、どんなイメージだ? とりあえずそれっぽく手を村の外の草原に向けて、イメージ……思い浮かぶのはあの忌々しい蜥蜴のあれだが……。
と、あの時の光景を思い浮かべたその時だった。
「っ!?」
何かが躯を駆け巡る感覚、そしてそれらが腕に集まる感覚。掌が熱くなる。腕の魔術紋が発光する、これは一体……!!
─ヒュボッ!!─
あ、やばい。やらかした。そんなことを思った瞬間であった。村の外に向けた掌から、何か煌めく光の玉……光の玉というよりは炎の固まりみたいなものだったのだろう、が飛び出す。それはものすごいスピードで飛び出し、少し離れた木にぶつかり………大音量で爆裂四散した。
「………すごい……」
痛いほどの沈黙の後、誰かが(おそらく、十中八九アリシア)が、そんなことを呟いた。
草原には焼け焦げた線が伸び、爆裂した木は黒焦げだ。これはまるであの竜と同じようなものではないか……
「あー……これが俺の力っぽいですね……」
あー、うん。これはやらかした。大歓声に囲まれながら、俺はこれからのことを考え引きつった笑いを浮かべるのであった。