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いつも通りの朝。

「行こうか」

 柔らかく微笑んだシオンに頷いて歩き出す。先程とは違い、夜勤を終わりの人達や仕事を始めた人達が入り混じった廊下は少し騒がしかった。声を掛けられ敬礼と挨拶を返しつつ進んでいく。交代した軍人たちはきっともう話を始めているのだろう。書類を手に忙しなく走り回る事務員を尻目に階段を下りた。

 一つ下のフロアはとても静かで、廊下には誰一人見当たらない。このフロアは五守と近衛の最高幹部達が集う隊室や会議室、最高幹部専用のトレーニングルームや模擬戦闘訓練施設、仮眠室などがある。つまり、普通の軍人は許可がなければ到底立ち入ることの出来ないフロアだ。一つ上、私を含めた五守、近衛の最高幹部の自室や医務室、部隊毎の幹部用隊室があるフロアは一般の軍人でも用事があれば立ち入ることは可能だ。だがこのフロアは認められた人しか立ち入ることが出来ない。普段は五守と近衛の最高幹部だけが出入りし、それぞれの直属の部下は用事がある時のみ許可なく立ち入ることが許される。その他はよっぽどの緊急事態でなければ、原則立ち入れば軍規違反となってしまう。故に、このフロアはいつでも静かだ。

 二人分の足音だけが、誰も居ない廊下に響く。周りの喧騒とは掛け離れたこの場所はまるで別世界に来たようだ。一つ伸びをして、まだ睡眠を欲する体を叱咤する。

 今日は二時間弱も眠れたのだから良い方だ。普段は合間を縫って数分の仮眠を重ねるくらいで、最近はまともにベッドで眠れることは少ない。任務中は勿論不眠。普通の軍人ならば休憩時間、睡眠時間共にそれなりにとれるような体制にはなっている。だがそれは一兵卒だけで、最高幹部である我々五守や近衛には適用されない。それに加え私は、空いた時間を仲間達や家族と過ごす時間や音楽をする時間、師匠の手伝いで弟弟子や妹弟子や自分の隊の軍人を育てる時間にあてている所為で休む時間と言うのはほぼないに等しいのである。少ない時間の中で睡眠時間に使うなど勿体ない。そんなことを言おうものなら医務室に放り込まれそうなので辞めておくことにした。『ただでさえお前は体が弱いのに無茶な戦い方をして……』なんて聞き慣れた軍医の文句と怒った顔が頭に浮かぶ。きっとその隣には呆れたような、困ったような笑顔で幼馴染が出迎えてくれるのだろう。

 後で顔を出しに行こう、なんて考えていたら見慣れた扉に辿り着いた。他の隊室とは違い、重厚で防音機能がついた両開きの扉。ブローチと同じく軍のモチーフである十字架と龍が彫られているものの、豪華と言うほどではなく落ち着いた雰囲気を醸し出している。尤も、落ち着いているのは扉だけで、中に居るのは血の気の多い悪魔達なのだけれども。

 少し助走をつけて、いつも通りに。後ろで見守るシオンを置いて、勢いよく扉を開いた。蝶番が変な音を立てたのは、聞かなかったことにしよう。

「おっはよー!」

「おはようじゃねえ! お前は扉くらい大人しく開けられねえのか!」

 即座に右から飛んできた罵声を聞き流して、目の前にある自分の席に座る。後をついてきたシオンが笑いながら扉を閉めた。私よりもずっと大きな手が頭に乗せられて、数回撫でて離れる。左に視線を移せば、隣の席に座ったシオンが優しく見つめていた。

「全く。何度言っても直りゃしねえな」

 口に出さないだけで本当は毎日、今日もいつも通りで良かったと思っているんだ。きっと、言わなくても解ってくれているから。いつ、誰が死ぬのか分からないこの仕事で、ついさっき隣で笑っていた人が消えるなんて日常茶飯事。だから今日もいつも通りで良かった、と思う。部下ならば私が護れるからまだいい。でも五守の皆はそれぞれ違う部隊の隊長で、共闘することは少ない。だからこそ、お互いが無事でよかったと思える日がずっと続けばいいと思う。言われなくても解ってくれる、家族みたいな大切な人達。どんなに怒られても呆れられても、理解して信頼し合ってるから大丈夫。私は、この人達も護りたいんだ。

「元気なことはいいことでしょー? 特に私は、ね」

「そりゃ良かったな。壊れたらお前が直せよ」

「だいじょーぶだよ壊れてないし。それに、私は技術班じゃないもの。技術班はリオンの管轄でしょ、作戦隊長殿?」

 からかうように視線を向ければ溜息を吐かれた。それを向かいの席に座るアディスと、左斜め前のディミオス、隣のシオンが見守る。時刻は午前九時半。

「まあいい。……それではこれより、今日の任務の確認と報告を行う」

 いつも通り、朝議が始まった。

信頼関係っていいですよね。

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