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イージェンとマシンナートの都(2)

ここに着いてから五時間経った。夕方だが、外の様子はまったくわからなかった。ずっとベッドに寝かされていた。

その後も、長い筒に通されて、骨や身体の中を見通されたり、頭に線を付けられて、いろいろな検査とやらをされた。

夜になって、三人マシンナートが残り、後は帰っていった。あの不愉快な女も残っていた。

「いつ終わる、検疫とやらは」

 女は、また血を抜く筒を刺した。尋ねても答えない。

「返事くらいしたらどうなんだ」

 吊りあがった目で睨み、無視している。ひとたび牙を剥いたら、どんな顔をするか、イージェンはいつかこの連中を震え上がらせてやると思った。

 女がもうひとりの若い女を呼んだ。

「精液の採取してしまうから」

もうひとりの女が透明な杯を持ってきた。太めの棒を尻の穴に差し込んだ。ビリビリッと痺れるような痛覚が尻の穴から全身を走った。体毛が逆立ち、鳥肌が立っていた。

「だめだわ、射精しない、もう一度」

 イージェンは身体についた線を引きちぎってベッドから降り、棒を抜いて床に叩きつけた。大柄なイージェンに間近で立たれて、ふたりは慌て、機器にぶつかりながら転んだ。

「暴れるな!」

 もうひとりが二股の棒を突き出してきた。その棒が身体に届く前に後ろに下がった。

「そこまで必要か、検疫は、雑菌があるかどうか調べて、見つかれば殺菌することだと聞いたぞ」

 立ち上がった女が手にした小さな筒の針をイージェンの腕に突き刺そうとした。

「特殊検疫の項目なのよ、おとなしくしなさい!」

 その手を掴んで軽くねじった。

「ああっ!」

 突き放して、恐ろしい顔で睨み付け、素足で筒を踏みつけた。パリッと割れて破片が刺さったイージェンの足の裏から血が流れ出した。女は、恐怖で顔を引きつらせて、あとずさった。

「わかった、でも自分で出す」

 自分で台の上に戻った。引きちぎってしまった線を直して、頭や胸に丸い板を着け直した。透明の杯を渡された。側でじっと見つめているので言った。

「あっち向いててくれないか」

 三人は部屋の隅に行って背を向けて椅子に座った。机の上のモニタを見ているようだった。

イージェンは何故ここまで我慢してまでテクノロジイについて知りたいのか、改めて思い返していた。好奇心だけではない、テクノロジイについて知らなければならないという使命感にも似たものが沸いてきていたからだ。魔力を使って強引に入り込むことはできるかもしれない。だが、それではだめだ。もう少し中のことを『調べなければ』。

「…調べてどうする…」

 答えはひとつだ。

 ベッドで体を少し横にした。右手で陰茎を握った。

 最後に女を抱いたのは…。

 カリュスの港だったか。思い出していくと身体が熱くなってきた。次第に(たが)が緩んできて、忘れたいが忘れられないせつなく苦い思い出と共にひとりの女の顔が浮かんできた。

「…ティ…セ…ア…」

 ただひとり、好きになって抱いた女だ。

 右手で包み込んで動かしていたが、堅く大きくなってきて手に余るほどになってきた。肌や唇、胸、そして柔らかい女の部分を思い出して、昂ぶりに身を任せた。

「ティ…セアッ!」

 ベッドの横の台に置いた杯を掴んだ。

「ハッ!ハァアッ!」

 杯の中に精を出した。ぶるぶると余韻に震えた。台に杯を置いて、天井を向いた。あの女が警戒しながら近づいてきた。杯を取り、蓋をした。イージェンが、ぎろっと睨むと、女が驚いて部屋の隅に走っていった。

 その後は三人とも近づかなかった。イージェンは目を瞑り、『耳』を澄ましてみた。三人は黙ってモニタを見ながら、ボォゥドの釦を叩いていた。厚い壁に囲まれているらしいこの部屋の外の音は、ほとんど聞こえてこない。ただ、ゴォオーッという、おそらくは何かの動力となるプラァイムムゥヴァが動く音が聞こえてくるだけだった。

朝になり、マシンナートたちが四人やってきて、三人は帰っていった。昨日の担当官もいた。

「暴れたようだな」

 担当官がモニタを見ながら言った。

「暴れたうちにはいらない」

 そっぽを向いた。

「足の裏に傷があるはずだが…ないな」

みな足元に集まって首を傾げてイージェンの足の裏を見ていた。訳が分からないと首を振るばかりだった。あんな傷はすぐに治る。いくら悩んでも魔力を認めない限り、この連中には分からないままだろう。

午後までは血を抜かれ、耳に細い棒を差し込まれ、たくさんつけている線から得られる身体の状態をずっと観察されているだけだった。水をたくさん飲まされた。

 午後になってあの女だけ、帰ってきた。担当官に便意をもよおしたら言うようにと言われたので、言い返した。

「ポットでさせてくれ、あんたたちだって、人前でするのはいやだろう」

担当官が口の中で聞こえないようにつぶやいた。

「ヒトならばな」

 聞こえていないと思ってひどいことを言うものだ。この連中にとって、ヒトではないのだ、シリィは。

 それでも、なんとかポットで排泄させてくれた。五年くらいしていなかったので、苦労するかと思ったが、心配するほどでもなかった。

「結果はいつになるんだ」

 担当官が手に小さなモニタを持っていた。

「そうだな、明日午前中くらいには出るだろう」

 それまではこのままかと気持ちが萎えた。

 夜、あの女はまた残っていた。血を抜きながら言った。

「夕べ、眠っていないようだけど」

 ずっと観察していたのはわかっていたが、寝たふりをしていた。

「寝てただろう」

 目を開かせて、手にした小さな光を当ててきた。

「睡眠状態に入ってないことは脳波でわかるのよ」

 頭につけた線で調べているのだろう。

「寝たらなにされるか、わからないからな」

 何故か顔を赤らめた女がぷいと背を向けた。

とにかく、明日、結果が出る。それまでの辛抱だ。これほど待ち遠しい夜明けはなかった。

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