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イージェンと鋼鉄のマリィン(3)

イージェンは黙って水中を進んだ。すっかり水没してしまった部屋には道具や金属塊、ヒトが浮かんでいた。艦底に着き、開いた穴から海中に出た。マリィンはどんどん沈んでいく。間断なく爆発が起こっているようで、艦体のあちこちで火花が散っていた。上部の口が開いていて、そこから脱出したものがいたようだが、ほとんどが途中で溺れて漂っている。何人かはチュゥブを使っているらしく、海面に向かっていた。澄んだ海中には銀色の魚が群れを成して泳いでいる。その中から体長がヒトの何十倍もある魚が出てきた。灰色の体のそれは、セティシアンという海の怪物と言われる獣だ。ゆっくりと銀色の無数の魚群を従えて、イージェンたちの方に向かってくる。ファランツェリがおびえた。

「うわっ…」

 巨獣はイージェンたちに大きな口を開けて迫ってこようとした。イージェンが睨むと、巨獣は睨み返してきた。だが、そのまま側を通り過ぎた。

魚群が過ぎてからまた浮上していく。すぐに空気がなくなると思っていたが、少しも苦しくならない。ファランツェリとバルシチスにはますます不可解だった。

きらきらと日の光が差し込み、揺らめく海面が近づいた。水の中から空中に飛び出た。足元では、テンダァが浮上してきた乗員を救助していた。残骸や死体が浮いてきていた。黒い油のようなものもあちこちに浮かんでいる。

 イージェンはふたりを抱えたまま、岸に向かって飛んでいった。岸にはモゥビィルが何台も集まっていて、その近くに降り立った。

「バルシチス教授!」

 カサンが顎をガクガクさせながら、駆け寄ってきた。

「無事だったんですね!」

 イージェンがバルシチスを渡しながら言った。

「足の骨を折った。見た目の傷は治したが、身体の力が失われているからしばらく休ませないとだめだ」

 カサンが、近くにいたマシンナートたちを呼び寄せ、バルシチスを両脇から支えてモゥビィルに乗せた。モゥビィルはすぐに走り出した。

「ファランツェリ!」

 アリスタとヴァンが走ってきた。

「アリスタ、ヴァン!」

 アリスタがファランツェリを抱きしめた。

「イージェンが助けてくれたの、そうでなかったら、死んでたよ」

 ヴァンもファランツェリの頭を撫でた。アリスタが目を潤ませた。

「イージェン、ありがとう!」

 イージェンが後ろの海を振り返った。

「…ミッシレェを発射したようだが、…どうなった」

動揺を隠そうとしたが、少し声が震えた。アリスタから離れたファランツェリがイージェンの背中に抱きついた。アリスタがちらっとそれを見てから、北の空を振り返った。

「それがね…カーティア王都に着弾する前に…消えちゃったのよ」

「消えた!?」

 イージェンが向き直り、アリスタを見つめた。

 アリスタに依れば、発射されたミッシレェをトレイル弐号車のレェィダァというもので追いかけていた。空中を伝う特殊な波を追跡したいものにぶつけ、反射して返ってきた状態を調べるという装置だ。しかし、カーティアの王都に近づいたところで、なにか大きな力によって消滅したのだという。

「なにか大きな力…」

 イージェンにはそれがヴィルトの魔力だとわかった。カーティアの王都は破壊を免れたのだ。ほっとして、目が熱くなった。抱きついているファランツェリに言った。

「おまえも少し横になったほうがいい。煙を吸い込んでいるしな」

 近づいたヴァンが手を引いてモゥビィルに連れて行った。ファランツェリが叫んだ。

「イージェン!後からトレイルに来てよ、絶対だよ!」

 イージェンが小さくうなずいた。アリスタが沈んだ顔で尋ねた。

「どうしてマリィンに?」

 イージェンが北の空を見上げた。

「ファランツェリに会いにいったんだ」

 ヴァンとファランツェリを乗せたモゥビィルには、テンダァで救助されたマシンナートたちも何人か乗せていた。定員になってから走り出した。それを見送ってからアリスタがイージェンの腕を掴み、肩に顔を伏せた。いきなりだったのでイージェンが驚いて見下ろした。

「…マリィンで爆破があったって聞いて…ファランツェリに何かあったら…私たちは…」

口ごもった。

「アリスタ」

「私たちは…」

 アリスタが何かを言いかけたが、天幕から呼ばれた。

「アリスタ、ちょっと来てくれ」

 あわてて駆けて行った。イージェンは、しばらく北の空を眺め、林の中に入っていった。

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