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セレンと混沌の都(5)

後宮や西の館に仕掛けられていたアウムズをすべて除いたヴィルトが、遣い魔を呼び寄せ伝書を持たせて飛ばし、南の館に向かった。しかし、すでに南の館の半分以上は吹き飛ばされていて、残ったアウムズはなかった。執務宮に戻ると、ちょうど学院から戻ったクリンスと出会った。

「学院にはアウムズはありませんでした」

 ヴィルトが空を見上げた。キュイーンと鳴く声がして、鳥がヴィルトの肩に止まった。その足には紙が巻きついていた。紙を取り読み始めたヴィルトにクリンスが尋ねた。

「エアリア殿の遣い魔ですか?」

 ヴィルトが首を振った。

「イージェンが遣したものだ…」

 かなり長々と書かれているらしい伝書を読み終えたヴィルトが、しばらく動かなかった。なにか、堪えているような、そんな感じがして、クリンスも黙っていた。

執務宮も一部破壊されていて、後片付けをしているものたちや護衛兵などでごったがえしていた。みな、仮面の姿を見て、軽く頭を下げた。セネタ公の所在を尋ねると、護衛兵が内府の会議室に案内してくれた。会議室では、セネタ公が両手を広げるようにして出迎えた。

「大魔導師様、お待ちしておりました」

 会議室では、セネタ公のほかにジェデルとイリーニア、長椅子に横になっているフィーリ、侍従医のユディトがいた。ジェデルが椅子から立ち上がり、ヴィルトにお辞儀をした。セネタ公が座るように勧めたので、ヴィルトとクリンスが座った。フィーリも身体を起こした。気づいたヴィルトが手で押し留める仕草をした。

「まだ横になっていたほうがいい。傷はふさいだが、身体の力を損ねているので」

 確かに力が入らない。ジェデルが心配そうに言った。

「横になったままでいい」

 ユディトが手を貸してまた横になった。セネタ公が、ジェデルにイージェンがエスヴェルンの学院に助言を依頼したことを話した。ヴィルトが、うつむいているジェデルに言った。

「陛下、これまでも、学院が王室や宮廷内の争いに巻き込まれることはありました。だが、王位継承に関する争いについては、通常、他の学院や五大陸総会は干渉しないことになっています。しかし、今回のような場合は特別です。マシンナートが介入しているとなれば、ほおっておくことはできません」

今回ヴィルトがマシンナートを始末しにきたことについては、エスヴェルン国としてではなく、学院としてのことだと話した。

「ですから、陛下としては、以下のような文書をお作り下さい」

先王と学院に疎外され、そこをマシンナートに付け入られた。マシンナートたちが、魔導師を皆殺しにするまでとは思わなかった。王宮もほとんど破壊され、妹王女を拉致された。また、南方大島軍との戦争準備中に勝手に介入、半時で百あまりの軍船を撃沈させた。その残虐非道な正体にあらためて異端の意味を知った。付け入られたことに対しては猛省している。賠償に関しては各国と会談を持ち、誠実に対処する。その文書を持たせた特使を周辺諸国に派遣、謝罪するようにと言った。

 ジェデルが顔を上げて、首を振った。

「学院を皆殺しにすることは、ユワンが可能と言ったので、わたしが命じた、南方軍との海戦もわたしが許可した。そんな嘘をつくなど!」

「陛下!」

 フィーリが椅子から転げ落ちた。ユディトがあわてて抱き起こした。その様を見て、ヴィルトが肩で息をした。

「余計なことは考えず、さきほどわたしが言ったようになさい。カーティアの民は、陛下の即位を歓迎しています。陛下が国を治めることで秩序は保たれます。今は国と民のことだけ考えなさい」

 ジェデルが両の拳を握り締めて、テーブルに押し付けた。

ひと段落した後、ヴィルトが先ほど受け取ったイージェンからの伝書について話した。

「南方大島軍百五十隻のうち逃れたものは二、三十隻ほど、攻撃を受けた軍船はほぼ全壊か沈没。助かったものはほとんどいないのではということだ。また、レアンの軍港詰所の兵士や周辺の村びとたちは、マシンナートたちに王宮で使われた毒気で殺された。年寄りも赤ん坊も容赦なく殺し、遺体を焼き払っていたと書いてあった」

 セネタ公が怒りに目を細めた。

「そんなことを!」

ジェデルも衝撃を受けたようで目をしきりに動かしていた。ヴィルトが席を立った。

「爆発で死傷者が多数出ています。酷い傷のものを見てきますので…みなさんも適度にお休みなさい。明日以降も忙しくなりますから」

 クリンスと共に出て行った。ジェデルも後宮で休むとイリーニアの介添えで出て行った。セネタ公が大きく息をついた。ネフィアのことは心配であったが、これでなんとかなると安堵し、同時にイリーニアの後宮入りも叶いそうだと満足した。

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