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セレンと南海の戦い(5)

エスヴェルンの王太子ラウドの一行が王都に帰ってきた。途中国境付近まで来ていた婚約の品を運ぶ荷馬車も引き返した。

カーティアの政変は先に伝わっていた。王太子の勝手な行動も報告済みで、温厚なエスヴェルン王が珍しく怒りを見せた。王は王太子と面会せず、重臣らと学院の面々で御前会議を開いた。

ヴィルトが政変について、報告した。

「カーティア王の第二王子ジェデルが、国王の専横を見かねたセネタ公と計り、王に対し反乱を起こした。王と王妃、王太子には大公家ザレン公がついており、しかも第一王女の嫁ぎ先となれば、向後の憂いを断つためにと、王族とザレン公家は同母の妹第三王女のみを残して、全員殺害」

 国王はじめ重臣たちも青ざめた。

「学院は、第二王子を支持していなかった。そのため、ジェデル王子は、魔導師らを全員殺害、他の大陸の魔導師を学院長に招き、戴冠を行い、正式に国王に即位した。軍隊についても、王立軍をほぼ制圧したとのことだ」

 重臣のひとり、ヴァブロ公が尋ねた。

「魔導師を殺害とは…まさか、その、他の大陸の魔導師とは、先日ヴィルト様を仇と狙ったものでは」

 ヴィルトが頷き、続けた。

「ヴァブロ公の指摘通り、私を兄の仇と狙う男がその魔導師、トゥル=ナチヤ生まれの名はイージェンという。カーティアの学院長はイージェンが就任、これについては、後日他の大陸の魔導師学院とも協議するが、カーティアの新王権の正式な招聘であれば、承認することになるかもしれない。私を仇と狙うことについては、五大陸学院の総会に調停を依頼する」

 これには学院のものたちも渋い顔をした。

「実は、学院長イージェンから、私に文書が届いている。それによれば、今回の反乱に乗じ、マシンナートがカーティアの新王をたぶらかし、テクノロジイの啓蒙を計ろうとしている。新王は、後ろ盾のない妾腹で味方が少なく、先王と学院から疎外されていた。そこにつけいられたと思われる」

ますます学院側は眉をひそめ、重臣たちも困惑した。

「イージェンとしては、自分は、戴冠式を執り行うために招かれた、マシンナートの介入については自分が来る前からのことであり、新王へ提言できる状況ではない。これから、南方大島軍との戦争に立ち会うため王都を離れるので、マシンナートについては、新王側近フィーリに監視をさせている。側近たちとしては、マシンナートの介入を快く思っているわけではなく、ましてや信奉しているわけではない。やむなく手を借りたので、新王権としてのとるべき対処を提示してやってほしいとのことだ」

 一度切って、国王を見た。国王は難しい顔でうなっていた。

「南方大島軍との戦争については、サリュースも確認したが、もともとカーティアだけでも対応できたとのことで、先王がエスヴェルンに軍費の負担をさせようとして同盟締結を申し出たとのこと、同盟については白紙撤回、もちろん、王太子殿下と第三王女との婚姻はなくなった」

 みなの落胆したため息が漏れた。国王が拳を震わせていた。

「なんと…わが国を謀ったのか…」

 ラウドが第三王女を娶るのを一番楽しみにしていたので、国王は落胆を通り越して怒りを覚えていた。すでに国を挙げて祝っている民びとに対しても申し訳なかった。ヴィルトが国王に一度お辞儀をしてから、話し出した。

「マシンナートの介入は許しがたいことです。啓蒙しようとすれば、始末するのが決まりです。これについては、カーティアの学院が動けない状態ですので、当学院が処理します。この介入について、エスヴェルン国は無関係とします。マシンナートを始末した上で、介入を許した件について、周辺諸国への経緯説明、謝罪をするよう示唆します。その文書を受けて、エスヴェルン国としての態度をお決めください。学院としましては、争いは好みませんが、政治的な判断には従いましょう」

ヴィルトが国王にお辞儀をし、一同にも頭を下げて、一歩下がった。正面の扉が開いて、ラウドが護衛兵に両脇を固められて入ってきた。国王の前までやってきて、両膝を付いた。

「父上…おろかなわたしを…罰してください」

 そのまま両手を突いて頭を床につけた。国王は怒りの中にも不憫さを隠せなかった。目に入れても痛くないほどかわいがっている。病床から起き上がれないことが多かった幼い頃のことを思えば、元気に駆け回っている姿は好もしくもある。しかし、今回はあまりに無謀で許してやれなかった。

「王太子、この度のこと、何故にとは問うまい、黙って罰を受けなさい」

 法務長官のヴァブロ公を見た。うながされて、持っていた紙を広げた。

「王太子殿下、二十日間の拘禁、その後三ヶ月の蟄居を命じます」

 拘禁は牢屋に入ることだ。半年の蟄居よりもつらいかもしれなかった。

「ありがとうございます、陛下」

 ラウドは父王を陛下と呼び、頭を床に付けた。後ろの扉が再度開き、誰かが連れてこられた。すぐ後ろに座らされた。ちらっと振り返って驚いた。

「イリィ!クリンス!」

 ふたりとも後ろ手に縛られていた。前を向いて父王を見た。国王は玉座からやるせなく見下ろしていた。ヴァブロ公が申し渡した。

「王太子護衛隊隊長イリィ・レン、ならびに第五特級魔導師クリンス、両名は王太子殿下の暴挙を未然に防ぐことができなかった。その罪は大逆に値する。したがって、イリィ・レンは死刑、クリンスは向こう十年の国外追放とする」

 ラウドが驚きのあまり、倒れこんだ。

 イリィが死刑って…そんな…。

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