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第373回   イージェンと天空の叫喚(下)(2)

 白光空弾の集中砲火を受けて打撃を負ったらしいエアリアが落下した地点に向かったカトルは、ふたつ道路を隔てた側道をリジットモゥビィルや二輪モゥビィルが移動しているのを肉眼でも確認した。

 あきらかにエアリアの落ちた方向だ。速度を上げて幹道に出ると、灰緑のかたまりが見えた。すぐそばまで行き、抱き起こした。

「エアリア! 大丈夫か!」

 全身白い粉を浴びたようになっていたのは落下した衝撃で人造石の道路がえぐれたときの粉塵のようだった。顔も煤けている。頬の煤けを払って呼び続けた。

「あっ……」

 意識を取り戻し、見上げてきた。

「カ……トルさん……?」

 すぐに中央塔に戻ろうと抱き上げてモゥビィルに寄ろうとした。 

 ガガッと道を削るような音がして、リジットモゥビィルが脇道から顔を出した。キリキリッと砲身を向けてきた。

「まずい」

 あわててそのまま横道に入った。

 リジットモゥビィルが、ドォオオンッと地響きのような音とともに主砲を発射していた。弾は二輪モゥビィルを粉々に破壊し、周囲も抉り取った。次々に砲撃してくる。建物にもかまわず撃ち込んでいる。

「まったく、もうめちゃくちゃだな」

 バラバラと落ちてくる破片や爆風を避けながら走った。エアリアはまだぼおっとしているようで腕の中でぐったりしている。

二輪モゥビィルが後ろから迫ってきた。警告もなくオゥトマチクを撃ってくる。

 そのとき、バチバチッとはじけるような音がして、天井の薄曇が真っ暗になった。

「まさか、またシステム落ちたのか」

 二輪モゥビィルはトォオチを点けながら走っていたので、かまわずに追ってくる。建物の裏に回り、エアリアを背中におぶいなおした。

 小箱で中枢に連絡しようとしたが、空中線が見つからない状態だった。建物の間を抜けようしたとき、リジットモゥビィルが停まっているところに出てしまった。

「素子と違反者だ!」

 声と同時にリジットモゥビィルからオゥトマチクが乱射されてきた。司令塔に装着された機銃だった。

「くっ!」

 背後からいきなり車体トォオチが当たってきた。

「カトル、早くこっちに来い!」

 ヒィイスの怒鳴り声がした。同時にシャアアッと音がして放水を始めた。

「おい、ここで放水するな!」

 幹道にいる本隊に向けてでないと意味がない。

「助けに来たんだぜ! 文句はねぇだろうが!」

 消防作業車の周辺を囲んでいたワァカァたちが長身オゥトマチクを撃ち出した。ほとんど経験がないので、めったやたらに撃つだけだが、それでも援護射撃にはなり、カトルはエアリアを背負って作業車の後ろまで逃げた。

 何か液体を吹きかけられたとしかわからなかったリジットモゥビィルの班員たちが、その液体が掛かったところがみるみる凍り付いていくのに気が付いた。

「アゾトゥ?!」

 パアッと天井が真昼の明るさを取り戻した。頭の上から、白い煙とともに液体が降り注いできた。

「ぎゃあぁぁっ!」

 液体を浴びた班員が悲鳴を上げた。たちまち凍結していく。空気中の水分も結晶化してキラキラと舞い、リジットモゥビィルに貼り付いていった。

 二台のリジットモゥビィルは凍り付き、周囲にいた班員たちも氷の柱のようになった。

 明るくなって状況がわかったプテロソプタが上空から小型のミッシレェを撃ってきた。凍り付いたリジットモゥビィルに当たり、粉々に砕けた。

「上だっ!」

 ヒィイスが放水管口を上に向けさせたが、管にはヒビが走っていた。

「やばい、離れろ!」

 ヒィイスが怒鳴り、みんなあわてて離れた。管が破裂し、破片や液体を飛び散らかした。管が接続部分から抜け出て、アゾトゥがタンクの口からだらだらと漏れ始めた。たちまち作業車が凍った。

「後は逃げるしかねぇ!」

 ヒィイスが手を振り、後ろから付いて来ていたモゥビィルや二輪に分乗して中央塔に向かった。

「『魔導師』の姉ちゃん、やられちまったんだな」

 ヒィイスが無敵じゃねえんだなぁと妙な感心の仕方をしていた。

「様子がおかしかった。なにか驚いていたみたいだったし」

 気をそらして、魔力のバリアが切れたのだろう。後ろからは追いかけてきていないが、中央塔はリジットモゥビィルの本隊が取り囲んでいた。

「地下道から入ろう」

 地下道に入る入口に回ろうとしたとき、エアリアが身体を起こした。

「……残り、壊します……」

 カトルが首を振った。

「かなりやられてるじゃないか。無理だろう」

 ここは退却だと言うと、エアリアがぎりっと歯を噛み締め、目尻を尖らせてカトルの腕からするっと抜けて、浮かび上がった。

「もう大丈夫です」

 止める間もなくさあっと飛んでいく。カトルが呆れた様子で見送った。

「巻き込まれないようにこのまま地下道に行け」

 バイアスが了解と先頭を切って地下道への斜道に滑り込んでいった。

 エアリアは、深い地の底にいながら、空を襲った恐ろしい気配を感じて、動揺してしまった。そのため、砲撃を防ぎきれずに打撃を受けてしまい、落下した。

「わたし、これでは……」

 南方海岸で溺れたときと、少しも進歩してないと嘆いた。

今はあの恐ろしい気配はなく、むしろ、暖かいなにかが広がっているような感覚がしていた。

「ミッシレェ、落ちなかったのかもしれない」

 いや、たとえ落ちてしまったとしても、自分がやるべきことをやらなければ。

 中央塔正面を取り囲むようにしているリジットモゥビィルの前に出た。その飛影を見て、背後の中央塔に当るかもしれないこともかまわずに砲撃してきた。

 堅い魔力のドームで包み、最初の砲撃を防ぎ、すぐにそのまま手に光の杖を出して、その先から電撃を含んだ旋風を噴出した。

 旋風は、重い鋼鉄の塊であるリジットモゥビィルを吹き飛ばした。周囲の建物にぶちあたり、粉々に崩れていく。建物も次々に崩壊していった。

 旋風が去った後、幹道はえぐれ、周囲の建物や架橋道も崩れて瓦礫の山になっていた。

 中央塔の門の上に立っていたエアリアがヒトの気配もないのを確認して戻ろうとした。

 小箱が震え、開くと、カトルだった。

『大変だ、リィイヴが感電したようになって台座から落ちて怪我した!』

 エアリアがぶるぶると震え、中央塔に向かって飛んだ。

「今行きます!」

 カトルが中枢から上の緊急医療室に運ばれて、レヴァードが手術していると直接行くように教えてくれた。

 エレベェエタァ室の前まで行くと、カトルがエレベェエタァの扉を開けて待っていた。

「システムはどうしたんですか、きちんと動いているようですけど」

 カトルが箱内の天井を見上げながらオルハが補助装置を動かして引き継いでいると説明した。

緊急医療室のある階に着き、明々とトォオチが点いている通路を駆け、手術室を見下ろすことのできるオペレェエションルゥムに入った。

 硝子の窓から手術台に横たわっているリィイヴを見て、エアリアが真っ青になった。

「な、なにしてるんです……?なにを」

 頭を切って、骨の中を開けている。血だらけだ。

「リィイヴさんになにをするんです! やめなさい!」

 ガンッと硝子窓を叩いた。強化硝子のはずだが、ビシッとヒビが入った。カトルが腕を握って引き離そうとした。

「やめろ! 落ち着け! 脳内の血管が切れたんだ! そのままにしておくと死ぬから!」

 レヴァードを信じて待ってろと叱った。エアリアが崩れるように膝を折って窓にすがった。

「リィイヴさん、どうして、あなたが……」

 親兄弟を殺す手助けをして、眼を抉られてしまった。その上、こんな怪我まで負うことになって。

「すぐにでも連れて帰りたい。『空の船』に……」

 どうか助かってと祈るように手を握り合わせた。

 カトルは無人になった中央管制室に降り、オペレェエションルゥムにはエアリアとサンディラが残っていた。やがて、頭蓋骨を閉じ、頭部の皮膚を縫い合わせて、最後にレヴァードが糸を切り終えた鋏を銀皿に置いた。

『手術終了』

 みんなからほっと息が洩れ、向かい側に立っていたファンティアに頭を下げた。

『ファンティア大教授、手伝っていただき、ありがとうございます』

 ファンティアが首を振った。

『いいえ、当然のことです。それより』

 リィイヴを見下ろした。

『とてもひさしぶりの手術とは思えませんでしたわ。速くて鮮やかで完璧です』

 手を差し出した。

『手術成功、おめでとうございます』

 レヴァードが戸惑っていると、回りの助手たちが拍手をした。

『おめでとうございます、レヴァード教授』『見事でした!』

 口々にお祝いを言うので、昔を思い出した。こんな場面はしょっちゅうだった。難しい症例の手術を次々に成功させ、たくさんの命を救った。だが、メディカルテクノロジイを使って手術などするのは、これでほんとうに最後になるだろう。それでいいとそっとその手を握った。

 地上にユラニオウムミッシレェが落ちたかもしれない。ユラニオウムの汚染で地上はだめになってしまったかもしれない。だが、まだ確実にそうなったと決まったわけではない。まだ希望はある。レヴァードはそう信じていた。

 リィイヴを集中治療室に移し、後のことを看護士たちに指示してから廊下に出て長椅子に座ると、ファンティアが追って来た。あわてて立ち上がった。

「レヴァード、お願いがあります」

 潤んだ眼で見上げてきた。

「なんでしょう」

「あなたが持ち込んだ素子が生きかえるのを見て、ティスラァネが錯乱して……」 

 そうだったのかと痛ましそうに目を細めた。

「最良の治療をしてやりたいのです、なんとか、現状を続けさせてもらえるように素子たちに頼んでもらえませんか」

 レヴァードが目を伏せた。

「それは気の毒だと思いますが、そのようなことは頼めません」

 ファンティアが眼を見張った。あなたにはそうする責任があるはずと訴えた。レヴァードが首を振った。

「申し訳ないが、お力にはなれません」

 ファンティアが両手で顔を覆って泣き出し、レヴァードはかける言葉もなく立ち尽くした。

 ほどなく、手術助手をやってくれたインクワイアたちと別室で休むと離れていった。

 あらためて長椅子に腰を下ろし、肩の力を抜いた。影を感じて顔を上げるとサンディラが杯をふたつもって立っていた。

「サンディラ」

 手伝ってくれてありがとうと笑みを見せた。

「あいつに死なれちゃ困るだろ」

 サンディラが、そう言って杯をひとつ差し出したので、受け取ろうと手を出した。するとサンディラが杯の中身をだらっと零した。

「えっ」

 液が股間にかかり、びしゃびしゃになった。思わず手で触ってしまった。

「うわっちちっ!」

 熱いカファだった。

「なにするんだ!」

 手術着の素材は不燃性で熱を通さず水分など弾くので、股間をやけどせずにすんだが、かなり熱かった。

サンディラがフンとそっぽを向いて行ってしまった。わけがわからずぽかんとしてしまった。手ぬぐいを出し股間を拭いた。

 いきなり小箱が大音響を上げた。

「さ、最緊急通信?!」

 あわてて小箱を開いた。オペレェションルゥムにいたエアリアが走ってきた。

「これはなんですか!?」

 エアリアが声を震わせた。レヴァードが立ち上がった。

「まさか、パリスの勝利宣言か……」

 険しい眼で小さな画面を睨んだ。

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