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第372回   イージェンと天空の叫喚(下)(1)

「まさか、エアリア、やられたのか!」

 カトルが小箱で中枢セントォオルに連絡した。

「エアリアが砲撃受けて、落ちたぞ!」

 リィイヴがそんなばかなと言いながら、落下地点付近の監視キャメラで確認すると返答してきた。カトルが運転席のヒィイスに連絡した。

「ヒィイス、おまえはこのまま弐号道路に向かえ! 俺はエアリアを見に行ってくる!」

 ヒィイスが了解して、速度を落とした。カトルがさっと梯子から手を離し、道路に転がり落ちた。伴走していた二輪モゥビィルを止めさせて借り、全速力で走り出した。

『カトルさん、エアリア、二十八号区に落ちました、見に行ってください!』

 リィイヴの心配そうな声が耳に届いた。

「了解」

 二十八号区は、リジットモゥビィルが移動している幹道沿いだ。落ちたことに気が付いて、班員たちが向かっていたらまずい。途中脇道に入って、先を急いだ。

 リィイヴは、エアリアが砲撃を受けて落ちたと聞いて、あわてて監視キャメラで探した。二十八号区の路上に灰緑のかたまりが見つかった。カトルに連絡し、任せるしかないとワァアクに戻ったが、気になってしかたなかった。

いらいらしているのが数値でわかったレヴァードが声を掛けた。

「リィイヴ」

 少し休めと言ったが、リィイヴが首を振った。

『電波塔の電源を落としています。予備システムが起動するでしょうから、それも切らないと』

 おそらく、電波塔を管理しているバレー・ドウゥレでは、予期せぬシステム停止に大混乱しているだろう。

『第一予備システムが起動しました』

 正面のモニタにバレー・ドウゥレ、赤い字で基幹システム停止と表示されていたところが緑の字で第一予備システム起動と変わった。

『第一予備システム、強制停止』

 バレー・ドウゥレの管制棟主任が、通信網が復活したと同時に通信をしてきたが、それを無視して、強制停止した。

 また正面モニタの緑の字が赤い字に変わった。

『とにかく電波塔を使えないようにします』

 今なら魔導師に破壊してもらってもいいが、それを伝える術がなかった。

……バレーの基幹システム自体を落としてる……

 おそらく、電波塔の電源を落とすためにはそうするしかないのだろう。工作するためのコォオドを組んでいる時間はなかった。そうするしかないのだが、その影響を考えると恐ろしいことだった。

 別のモニタにエトルヴェール島からの連絡が入った。

『こちらエトルヴェール島、カサンだ、魔導師が『災厄』が来ると怯えている!』

 管理棟にいた魔導師のダルウェルが急に頭を抱えて、災厄が来ると震え出したとその姿を映した。

 立ち尽くしてガタガタと震えていた。

『ユラニオゥムミッシレェが発射されたのかもしれん! ドォァアルギアからはなにも発射されてないから、アーリエギアかも!』

 そちちでなにかわからんかとカサンが怒鳴った。リィイヴのネルヴィ(神経)系の数値が危険域にまで達した。顎が外れたようにがくがくとなった。

『まさか……まさかっ……』

 いそいで通信衛星『南天の星』から地上を俯瞰した映像を出そうとした。そのとき、リィイヴの頭帯が光って、バチバチッと激しい音がして、電光が身体を貫くように走った。

『ぎゃああああっーーーっ!!』

 リィイヴが背中をそらして、悲鳴を上げ、身体がドンッと電撃を食らったようになって弾んで、台座から落ちた。

 頭帯が引き剥がされ、点滴や排泄管も抜けてしまい、血や排泄物を撒き散した。

「なんだ、どうしたっ!?」

 次の瞬間、シュウゥゥウンと音がして、電源が落ちた。モニタが消え、たくさんの釦燈も消え、足元と台座の側に置いてある非常灯が点灯した。

「わああ」

 ルサリィが非常灯に触ってきれいとはしゃいでいた。

「しまった、システムが落ちた!」

 レヴァードがあわてて台座から落ちたリィイヴに駆け寄り、身体が帯電しているかもしれないので、急いで白衣のポケットに入れていた挿管処置用のゴォム手袋をして呼びかけながらリィイヴの首筋に触れた。

「リィイヴ、返事しろ! リィイヴ!」

 意識がない。

「リィイヴ!」

 レヴァードがリィイヴの顎を上げて、気道を確保し、口元に顔を近づけたが、息をしていなかった。

心肺停止か。

サンディラに怒鳴った。

「おい、手を貸してくれ!」

 サンディラとアーシィが近寄ると、サンディラに銀色の箱にある除細動器を持ってくるように指示した。

「アーシィ、おまえ、心臓圧迫法やれ!」

 アーシィがええっと驚いた。

「俺がやるのか!?」

「訓練棟の教練でやっただろう! 早くやれ!」

 レヴァードが額に手を当て、鼻をつまみ、ふうと息を二回吹き込んだ。アーシィがぎゅっぎゅっと胸部を押し始めた。

 再度レヴァードが息を吹き込んで、胸部を押すを繰り返した。サンディラが黄色い箱を持って来た。

「これかい?!」

 レヴァードが受け取り、人工呼吸をサンディラと交替した。除細動器の電極パッドを当て、ふたりに離れるよう手を振った。

「いくぞ!」

 除細動がかかった。だが、まだ蘇生しない。

「もう一度!」

 二回目、三回目の後、除細動器が停止した。サンディラがリィイヴの顔に近付いて息を感じた。

「息吹き返したよっ!」

 リィイヴの胸がわずかに膨れていた。

「よし、すぐに緊急医療室に……」

 言いかけて、システム停止してしまったのだと戸惑った顔で見回した。ぱあっと光が当たった。

「リィイヴ、どうしました!?」

 オルハが携帯トォオチを照らしていた。上から降りてきたのだ。

「原因はわからんが、感電したようになって、台座から落ちたんだ、それでシステムが落ちた!」

 オルハがリィイヴを覗き込んだ。

「了解、補助装置に切り替えます」

 レヴァードが驚いた。

「できるのか」

 オルハが台座の後ろにある補助装置に向かった。装置の後ろの蓋を開けた。蓋は手動になっていた。

「ええ、リィイヴが、もしものときに、補助装置に切り替えられるようにしたからってマニュアル貰ってます」

 蓋から出ている導線を内部基盤の差込口に差込み、何箇所かピンを取替えてから、電源の再投入をした。

 ビュウウウゥンと起動音がして、モニタが点き始めた。

「緊急医療室を使いたい! エレベェエタァは通電してるか!」

 オルハが台座に腰掛けた。

「ええ、大丈夫」

「頭から落ちたから脳外傷の可能性がある」

 透過断層検査し、必要とあれば手術もしなければならなかった。

毛布を持ってこさせて簡易担架にして、荷物を降ろす小型揚荷機で上げることにした。サンディラが中央管制室にいたザフィアにルサリィを預けて、アーシィと手を貸した。

オルハは、マニュアルにしたがって、小箱や各詰所などに復旧完了の同報電文を送り、生命線で停止したままのところがないか、点検し始めた。

エレベェエタァで上階に上がりながら、レヴァードが中央医療棟にいるファンティアに音声通信を入れた。

「緊急に手術するかもしれないので、手を貸してください!」

 もし、脳内出血などしていると、血瘤を取り除き血管をつなげる手術をしなければならない。さすがにひとりではできなかった。

『……わかりました、中央塔に入れるようにしてください』

 ファンティアが手術に必要な医療士や助手、補助手を連れて行くと引き受けた。

 オルハにファンティアたちを中央塔に入れるようにしてくれと頼んだ。

 緊急医療室の階に到着し、検査室の担架台にリィイヴを載せて、検査装置を通した。

 その間にも緊急手術に必要な器材や血液、麻酔薬などの表を出力して、在庫を点検した。

 検査結果が別のモニタに表示された。

「やはり……血管が破裂してる……」

 外傷はなかったが、頭部の断層画像に白く広がっているところがあった。頭蓋骨の内側で脳の表層だった。

 感電したようなあの様子から、アートランが撒いた魔力の粉がまだ残っていたのかもしれない。検査室から消毒室を経て、手術室に運んだ。意識は戻っていない。

「エアリアはどうした」

 オルハに確認してくれるように頼んだ。エアリアならば、開頭しなくても治せるかもしれなかった。

『カトルが落下地点に向かったけど、まだ連絡がありません』

 わかったら連絡することにしてもらった。できる範囲で準備をしていると、ファンティアたちが到着した。

「おまえたちはオペェレェションルゥムにいってくれ」

 サンディラたちに上を指差した。

「わかったよ」

 サンディラがアーシィを押しやるようにして出ていった。

 手術着を着たファンティアたちが入ってきた。

「脳の表層の動脈が切れて、血溜が出来ています」

 挨拶もなしにモニタの断層図を示した。ファンティアがすぐに始めないとと助手たちに手を振った。

「あなたが執刀医をやってください」

 ファンティアがレヴァードにその位置を示した。

「あなたほどの方を手術助手にするのは申し訳ないが、そうさせてもらいます」

 全員がすばやく各位置についた。補助手がレヴァードとファンティアに双眼拡大鏡を装着した。

レヴァードが開始宣言をした。

「ただいまより、脳強打によると思われる急性硬膜外血腫の血腫除去、止血手術を行う。氏名リィイヴ、男、二十四歳」

 えっとファンティアがリィイヴの顔を覗き込んだ。

「リィイヴ……」

 リィイヴのことは乳児の頃から知っている。ある事件で、病棟送りになって治療を受けることになった。本当はファランツェリという名前のパリスの息子で優秀種だが、重度の神経症と幻覚剤の後遺症で数値が落ちたと見なされた。そうした場合、ほとんどが生涯病棟で過ごすのだが、パリスは死亡したことにして、ワァカァに落としたのだ。そうすれば、優秀種であるパリスは、代わりの子どもを作ることが出来るからだった。父親のディゾンも優秀種だったが、パリスとの子どもは欲しかったようだが、同じ組み合わせでは作れない規則なので、それなら他の組み合わせの子どもはいらないと言っていたのを覚えている。

 リィイヴを最後に見たのは病棟を出ることになった十八歳の頃だが、それからあまり変わっていないようだった。

「まさか、リィイヴが中枢主任をやっていたのですか」

 レヴァードがそうですと答え、器械助手に手を差し出した。

「前頭部皮膚を剥離する。第一ラァアム」

 器械助手がラァアムをその手の上に置いた。

 上のオペェレェションルゥムから見ていたアーシィがうぇっと口元を押さえた。頭蓋骨を穴あけ器で穴を開け、電動のこで切って、骨を外していた。血だらけの脳が見えてきた。

「きもちわりぃ」

 このくらいで情けないねとサンディラが呆れて椅子を指した。

「後ろで座ってな」

 アーシィがぐったりと座り込んだ。

 手術の映像とともに会話も拾っていた。

『ファンティア大教授、リィイヴのこと、知ってるんですね』

 まだ出血をしている血管に誘導管をつけ、鋏で抑えながらレヴァードが尋ねた。

『ええ、乳児のころから知っています。娘のティスラァネとは同い年で、六歳まで一緒に育成棟で学んでいましたから』

 よくふたりで遊んでいましたとファンティアが手馴れた手付きで血溜を取り除き、なおも血管から出ている血を手術布でふき取っていった。

『パリス議長になりすましがわかってしまったのですよね』

 副所長が小箱を奪って告げてしまった。中央医療棟のものもみんな殺されてしまうのだとおびえていたところにいきなり停電して動揺していた。再投入されたので、どうなることかと不安でいたところにレヴァードからの音声通信が入ったのだ。

『ええ、おそらくですが、アーリエギアからユラニオウムミッシレェが発射されたようです』

 えっと助手たち含めて息を飲んだ。

『パリス議長、まさか、本当に……』

 声を震わせているファンティアにレヴァードが手元に集中しましょうと促した。

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