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第363回   イージェンと惑乱の地上(中)(4)

 リィイヴが映像を拡大した。パリスの腹心のひとり、最高評議会副議長クィスティンだ。パリスの失脚とともに副議長を解任されたが、今は復帰していた。

「カトルはどこから狙うんだ?」

 隣のモニタが切り替わった。ギュンッと二十階建の建物の屋上に寄った。カトルが腹ばいになって長身オゥトマチクを下に向かって構えていた。すぐ横にエアリアが立っていた。啓蒙ミッションに配属された場合には希望によりアウムズの特訓を受けるので、カトルが射撃が上手いことは、その訓練履歴でわかっていたし、地上に出てからも、熱心に訓練していたので、腕は上がっていた。

「届くのか、あそこから」

 暗視用の光学照準器で覗き込んでいた。カトルは耳覆いをしていた。細い管が口元に伸びている。リィイヴが指示した。

『カトルさん、撃って下さい』

『了解』

 カトルが指を動かした。銃口から弾丸が飛び出し、正確にクィスティンの額を打ち抜いた。

 クィスティンは悲鳴を上げることもなく後ろに倒れ、驚いた回りが近寄ろうとしたとき、突風が吹き抜けた。

「わあぁっ!」

 風は回りの班員たちを吹き飛ばした。次にはもう子どもたちは、カトルが狙撃した屋上に立っていた。

「この子たちを見ていてください」

 三人の子どもたちは、何が起こったのかわからずぽかんとしていた。カトルがうなずくと、エアリアはまたすっと姿を消し、瞬く間にリジットモゥビィルの隊列の前に浮かんでいた。

「おまえたち、突っ立ってないで、伏せろ」

 カトルが三人に手を振った。アーシィがルサリィを引っ張って伏せ、ザフィアも続いた。おそるおそる下を覗き込んだ。

 エアリアは光の球となって浮かんでいた。その手に光の杖が現れ、振り下ろした。その杖の先から電撃を含んだ竜巻のような旋風が吹き出てきて、リジットモゥビィルの隊列に向かっていった。

「ふわぁあっ」

 ルサリィが驚いてヘンな声を出した。

 旋風は空を引き裂くようなビリビリッという音を立ててリジットモゥビィルや警備班の連中を吹き飛ばした。閃光を放ちながら落雷のような轟音がして、周囲の建物にぶつかり、その建物も爆発したような音を立てて崩れていく。

 カトルは唖然とした。

 すさまじい力。

 アートランの力も大変なものなのだろうが、あの少女もヒトとは思えない異能の力を持っているのだ。異能の力の弱いものもいるだろう、しかし、あの『空の船』にいたあまり強そうでない女魔導師に手を捻られたときも、ふりほどこうとしてもびくともしなかった。

 あいつらが本気出せばただのヒトなどひとひねりだな。

 アルリカがかなうわけないだろうといつも言っていたことがようやく実感できた。

 風が去った。

 その区域の上空が明るくなっていった。その光で見えてきたのは、息を飲むような光景だった。

 およそ二カーセルほどの長さの道路がえぐられ、周囲の建物は崩れていて、ひしゃげたリジットモゥビィルや班員の死体の一部らしきものが瓦礫の間から見えていた。

『エアリア、みんなを連れて戻ってきて』

 拡声器からリィイヴの声が響いてきた。エアリアがさっと戻ってきて、三人の手錠を指で摘んで粉々に砕いた。

 カトルにルサリィを抱きかかえさせて右脇に抱え、アーシィを左脇に抱え、ザフィアを背中に背負って、ふわっと浮いた。

「わぁああっ、とんだ、とんだぁ!」

 ルサリィがバタバタと暴れたので、カトルが困りながらも落ちないようにしっかり抱き締めた。

 中央塔の入口に降りて、四人を降ろした。

「警戒しなくていいのか」

 後ろを振り返りながらカトルが尋ねた。

「当分は近づかないのでは」

 近づいてきたらまた撃退しますとエアリアが最後尾を守るように四人の背後についた。

 エレベェエタァで中央管制室まで降り、カトルと一緒に管制室に向かった。

「お疲れさま」

 オルハがくるっと席を回して、戻ってきたカトルとエアリアに手を上げた。

「中枢に連れて行くの?」

 サンディラの子どもたち三人を見回した。オルハと目が合ったザフィアが顔を赤らめた。

 エアリアが連れて行くのでと三人に付いて来るよう手を振った。ザフィアが何度か振り返ってオルハを見ていた。

 カトルが、オゥトマチクを立て掛け、席に着き、はあとため息をついた。

「カトル」

 オルハがカトルの前のモニタを指した。

「もうすぐ中央医療棟の補助電源の供給時間が終わるよ」

 送電しないと他の施設同様生命線が停まることになる。カトルが青ざめた。

「……リィイヴに送電してくれるように頼もう」

 椅子から立ち上がってエアリアたちを追うようにして中枢に降りていった。

 薄暗い中枢セントォオルの部屋の隅の簡易ベッドに、サンディラが横になっていて、その側に三人の子どもたちが座っていた。ルサリィという十二、三歳にしては少し幼い感じの男の子が胸にしがみついていた。

「かあちゃぁん」

 サンディラは、意識はあるようだったが、まだもうろうとしていた。

「よかった……」

 サンディラが目を潤ませてルサリィの頭を撫でていた。

「サンディラ、困ったことがあったら、きちんと話してくれ。けして悪いようにはしないから」

 もうこんなことはしないようにとレヴァードがたしなめるとサンディラがばつが悪そうに顔を逸らした。

 カトルが台座の側までやってきた。

「リィイヴ、中央医療棟のことなんだが」

 リィイヴが手元の釦を押し、モニタのひとつに中央医療棟の玄関広場を映した。扉が壊され、警備班の班員たちがオゥトマチクを構え、高射砲を摘んだモゥビィルなどで玄関口を固めていた。

『補助電源の供給のことですね。さきほどから何回も中央医療棟主任のファンティア大教授から着信があります』

 おそらくそのことでしょうと広間の隅にいるファンティアの顔を拡大した。怯えて震えている。

「俺のところにも音声通信掛けてきてる」

 違反者の自分にも掛けてこようとするとは『藁にもすがりたい』というやつだろうとレヴァードが胸のポケットをちらっと見た。

「医療棟には子どもや年寄りがいる。送電してくれ」

 カトルが頼み込んだ。リィイヴが声を震わせた。

『子どもや年寄りがいても、平気で街にミッシレェを打ち込む連中ですよ』

 カトルがむっとして台座に詰め寄った。

「それはパリス議長がしたことだろう!送電しないで、他の施設の連中のように見殺しにする気なのか!?」

 レヴァードがカトルの腕を握った。

「よせ、リィイヴを責めるな」

 リィイヴが、ファンティアが映っているモニタに白い四角を出した。音声通信の合図を送っていた。

『ああ、ようやく繋がりました、ヴァドなのですね?』

 ファンティアがほっとした顔をした。

『ヴァドではありません。ファンティア大教授、ヴァドの代わりに中枢主任をやっているものです』

 画面のファンティアが驚いて口の中でそんなばかなとつぶやいているのがわかった。それでもぐっと小箱を持つ手に力を込めた。

『わかりました、中枢を占拠したのですね』

 ぐるっと天井や壁を見回した。監視キャメラを気にしたのだろう。

『それならおわかりだと思いますが、中央医療棟の補助電源による供給がまもなく終わります』

 ええとリィイヴが残量と使用電力の推移表を出した。

『あと一ウゥウルもちませんね』

『ここには乳児や幼児、高齢者、病人がいます。電力の供給をしてください』

 お願いしますとファンティアが頭を下げた。リィイヴが拳を握った。

『いいでしょう。ただし、警備班を退去させてください』

 許可を出すまでは施設の外にでないこと、施設外のものとの連絡はとらないことと条件を出した。

『了解しました』

 すぐに退去させますと約束した。カトルがほっとして黙ってお辞儀だけして出て行った。

 ファンティアがすぐに警備班の班長らしき男の側に寄り、話をしていた。

『……退去してください。そうでないと送電してもらえません』

『……わかりました。今入った報告で、クィスティン主任たちの班が全滅したそうです』

 えっとファンティアが口元を覆った。班長が手を振って玄関広間から警護班を退去させた。

 レヴァードがアーシィの額の傷を手当てして包帯を巻き、ルサリィの頭のこぶに薬を吹き付けてやってから、果汁のパックを子どもたちに渡した。

「わぁぁ、かじゅうだぁ」

 ルサリィがもらってはしゃぎながら、レヴァードに何か差し出した。

「おじちゃん、さかなどりとなかよし?」

 アートランの鱗だった。レヴァードは、最初『さかなどり』がなにかわからなかったが、アートランと気が付いて、うなずいた。

「ああ、なかよしだ」

 いいなぁとルサリィがパックのストロゥを吸いながら、レヴァードの回りをぐるぐると歩いた。

「うろうろするんじゃないよ」

 サンディラがルサリィを呼んだ。それでもルサリィがレヴァードにまとわりついているので、ザフィアに連れて来させた。

「おじちゃんとあそぶ」

遊べないよと拳をこつんと軽く頭に付けた。ルサリィがつまらなそうにストロゥから果汁をすすった。

アーシィもきょろきょろ見回しながら、あちこち覗き込むように歩いていた。

「サンディラさん、あなたとこの子どもたちを上に移します」

 邪魔ですとエアリアが不愉快そうに睨んだ。

「そのうち、デュインが来るから、そしたら交代するよ」

 それまでは離れないよとサンディラも睨み返した。

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